滝川クリステル、愛犬ラブラドールが夫を警戒、ママの座も奪われる?

私の相棒、ラブラドルレトリバーの「アリス」(メス、13歳)は、東日本大震災があった2011年にやってきました。それもそのはず、アリスは東京電力福島第一原発事故で避難区域になった福島県浪江町で保護された被災犬です。

「アリスが負った心の傷を癒やしたいと思い、根気よく向き合ってきました」(東京都内で)=読売新聞写真部・米田育広撮影

被災犬 徐々に心開く

元々動物保護活動に関心があり、保健所から犬を引き取るためペットが飼える家に引っ越していました。しかし、震災で動物が取り残されている状況を知り、保護された犬の一時預かりに協力することに。そこで出会ったのがアリスです。

アリスは震災の翌月、保護団体に救出されました。庭にいて、力を振り絞って「ワン!」と鳴いたので発見に至りました。そのお宅ではもう1匹、同じ犬種を飼っていましたが、家の中で餓死していたそうです。

「飼い主が見つかった」。預かって2、3か月たった頃、保護団体から連絡がありました。すっかり情が移っていた私は動揺して複雑な気持ちになり、アリスと一心同体になっていることに気付きました。

しかし、話をよく聞くと飼い主さん一家はもう犬は飼えないので、最後に一目会いたいということでした。そこで、6月6日生まれであることや名前が分かりました。誕生日を少し過ぎた頃だったので、プレゼントを持って訪ねてきました。

こうして正式に家族の一員になったものの、最初の頃は混乱した様子で、なかなか心を開いてくれませんでした。人々は避難し、あかりが消え、食べ物もなく、不気味な雰囲気の中で1か月も過ごしたのですから、無理もありません。

アリスは私のことを少し離れた場所から眺め、距離を置いていました。嘔吐おうとや下痢が続き、それを私が片付けると申し訳なさそうな顔をするのです。「大丈夫、大丈夫」。そう声をかけ続けました。

出張で1週間ほど家族にアリスを預けた時、不安や怒りをぶつけてきたことには驚きました。大好きなご飯も食べず、ケージから出てこなくなり、私が近づくと震えていました。きっと「また置いていかれた」と思ったのでしょう。動物にも感情があって傷ついたり、トラウマを抱いたりすると気付かされました。

徐々に打ち解け、今ではすっかり快活なアリス。アリスと一緒にメディアに出ることがありますが、元の飼い主さんに姿を見せたいという意図もあります。飼い主さん、アリスは元気です、安心してくださいね。

「暑さが苦手なので、夏は涼しい時間に散歩に行きます」(東京都内で)=読売新聞写真部・米田育広撮影

大型犬の散歩 「闘い」

小さい頃から犬、亀、鳥などと暮らしてきましたが、ラブラドルレトリバーの「アリス」は私にとって初めての大型犬。餌の量、鳴き声、力、体つきなど何事もスケールが違い、ちょっと大変なこともありました。

東日本大震災の被災犬だったアリスを引き取ろうとした時、保護団体からは中型犬2匹を薦められました。当時、一人暮らしで仕事もしていた私には、力が強く、運動量も多い大型犬は大変だろうということでした。

一方、集合住宅が多い日本の住環境を踏まえると、大型犬の引き取り手はあまりいないことも事実。私は家族のサポートがあることなどを伝え、最終的には理解してもらえました。何より、アリスと対面して目が合った時に「この子しかいない」と運命を感じました。

とはいえ、引き取った時はまだ3歳で、今以上に元気が有り余っていたアリス。アリスが走り出してリードを持っていた私の手が一気に引っ張られ、指の靱帯じんたいを切ったことがあります。散歩は、ほかの犬に反応してしまうアリスと、しっかりリードを握って抑えようとする私との“闘い”でした。おかげで、腕や肩には筋肉がついてしまいましたが……。

大型犬には、十分な運動も欠かせません。13歳になった今でこそ散歩は40分~1時間程度ですが、若い時は1時間以上は歩いていました。

気持ちが穏やかで、おおらかなところは大型犬の魅力でしょう。結婚に際して夫の実家前で夫と取材に応じた時、アリスも同席していましたが、大勢の報道陣に囲まれても全く動じませんでした。

この時、アリスを通して保護犬という存在が広まったような気がします。保護犬を飼う著名人は増えていますが、発信力のある人たちが保護犬を飼育することは意義深いと考えます。

日本ではまだまだ子犬から飼うことが好まれますが、年齢を重ねた方は、シニアの保護犬という選択肢はどうでしょうか。すでに性格が形成され、生活ペースもゆったりしたシニア犬が合う場合もあります。

保護犬にまつわるトピックで気になるのは、コロナ禍でのペットブームです。在宅時間が増えたため、癒やしを求めてペットを飼う人が増えているようです。

一方、飼ったものの、世話が面倒といった理由で飼育放棄する飼い主が問題になっています。2014年に動物保護啓発団体「クリステル・ヴィ・アンサンブル」を設立し、啓発してきたことはなんだったのだろう……と落ち込みますが、人間と動物のよりよい共生のためには教育が大事。命の大切さを子どもたちに学んでもらうための活動などに、根気よく取り組んでいきたいです。

「息子とアリスが仲良く過ごす場面を見ると、つい写真を撮ってしまいます」(東京都内で)=読売新聞写真部・米田育広撮影

息子に優しく まるでママ

私とラブラドルレトリバーの「アリス」、1人と1匹で歩んできましたが2019年8月に結婚し、翌年1月に息子が生まれて家族が増えました。

アリスと夫が出会ったばかりの頃、アリスは警戒し、ぴったりと私にくっついて私の顔を見上げました。「大丈夫よ」となだめましたが、さすが犬は敏感です。“見知らぬ男性”から私を守ろうとしたのかもしれません。今ではすっかり仲良くなり、夫はよく散歩に連れて行ってくれます。

息子とも関係良好なアリス。赤ちゃんの存在に嫉妬するかもしれないと少し心配していましたが、アリスは初対面の時から息子を受け入れているようでした。息子に何をされても怒りません。ただ、息子がいつまでも手に食べ物を持っているとアリスがそれをパクリ。そんな食べ物の取り合いは日常茶飯事で、息子は泣いてしまいますが……。

普段アリスはヤンチャで猪突ちょとつ猛進なところもありますが、子どもや子犬には急に大人になるのです。以前、子犬2匹の一時預かりをした時もアリスは「私は最後でいいです」と言わんばかりに大好きなご飯を2匹に譲っていました。アリスが息子に優しく接するたび、夫と「アリスは優しいねぇ」と目を細めています。

息子はアリスのことを心から慕って、一緒に寝たり、テレビを見たり。アリスは息子の“乳母”のようです。ある時、息子がアリスをこう呼びました。「ママー」。あれ、私、ママの座を奪われてしまう(笑)?

そんな冗談はさておき、先日息子がアリスにもたれかかり、何か話しかけていました。“2人の世界”が広がり私が入る余地はありませんが、こうした穏やかで心が温まる時間はかけがえのないものです。

アリスを通じて、息子は他者への思いやりを身につけているようです。私と息子がちょっと出かける時、留守番を察知して玄関でさみしそうにするアリス。そんな時にいつも私が「待っててね」と声をかけるのを見ていたのか、最近息子がよしよしと頭をなでて、「バイバイ」と言うようになりました。

動物が身近にいる暮らしは、心を豊かにしてくれると考えます。愛情を与えることを覚えたり、相手の気持ちを考えるようになったり、ほかの動物にも心を寄せられたり――。様々なメリットがあるのでしょう。

私が代表理事を務める動物保護啓発団体「クリステル・ヴィ・アンサンブル」で動物虐待の防止に取り組み始めましたが、痛みが分からないと、不適切な飼育などにつながりかねません。子どもたちの明るい未来のためにも、動物虐待を許さないように社会的関心を高めていきたいです。

「一緒にメディア出演したことも多く、アリスもその役割を認識しているようです」(東京都内で)=読売新聞写真部・米田育広撮影

優しいまなざし 救われた

ラブラドルレトリバーの「アリス」は今年6月に13歳になりましたが、まだまだ食欲も好奇心も旺盛で、動きも若々しいです。先日受けた健康診断も、特に問題はありませんでした。

来客があると、客人の靴をくわえて持ってきてしまう癖も相変わらずです。スニーカーだろうが、パンプスだろうが、お構いなし。なので、玄関に靴は置けません。自分の存在をアピールして気を引くのが狙いでしょう。その度にちょっとした騒ぎになりますが、まだ快活だなとホッとします。

今はコロナ禍でなかなか遠出は難しく、アリスも若い時ほど活発ではないですが、海やキャンプに出かけたり、ラフティングを一緒に楽しんだり。ラフティングは、一緒に川に飛び込むのが最高に気持ちいい!飼い主に似るとよく言いますが、アクティブな性格は私にそっくりです。

アリスは、2011年に引き取ってから、幸い大病をしたことはありません。犬が抱える疾患を伝えないペットショップがあったり、飼った後に持病の症状が表れたりすることも。ペットは公的な健康保険制度はないので、病気やけがで多額の医療費がかかります。それを予測していないと、その犬を手放すことにつながりかねません。責任を持って飼育するということは、費用がかかると認識することが大切です。

今、アリスは当たり前にそばにいますが、大型犬の寿命を踏まえると、あと何年一緒にいられるか……と考えてしまいます。動物保護啓発財団の設立、結婚、出産など人生の要所に共にいて、多くの福をもたらしてくれたアリス。その優しいまなざしに、どれだけ家族は救われたことでしょう。

今年6月、財団では動物虐待の防止に取り組み始め、またアリスは私の新たな一歩を見守ってくれました。虐待に関して今後財団に相談が寄せられるなどして、つらい場面に直面するかもしれません。そんな時、アリスの存在が私の心の支えになると思います。

あまりにも思い出がありすぎて、アリスが死んでしまったら、私が激しく落ち込むことは容易に想像がつきます。そうなる前に、実は犬をもう1頭引き取りたいと思案しています。心の支えがほしいという私のエゴかもしれませんが、アリスにもいい刺激になるのではと期待しています。

アリスが元気なうちに、色々な場所に連れて行ってあげたい。大好きなご飯を目いっぱい食べさせてあげたい。でも太るとアリスの健康を害してしまう……。

そんな葛藤が苦しく、複雑な親心を抱く私ですが、すてきな相棒、これからもよろしくね。

(このコラムは、読売新聞で8月に掲載されたものをまとめて再掲載しています。)

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滝川クリステル(たきがわ・くりすてる)
フリーアナウンサー

1977年、パリ生まれ。報道番組でキャスターを務め、現在、TBS系「教えてもらう前と後」MCなどテレビやラジオに出演。2014年に「クリステル・ヴィ・アンサンブル」を設立し、動物保護活動に取り組む。

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