ピクトグラム「あるある」、日本発祥のデザインが面白いワケ

東京五輪開会式の演出で、国内外から大きな反響を得たピクトグラム(図記号)。開会式以降、SNS上では「あるある」と誰もがうなずいてしまうネタを表現したピクトグラムが続々と登場し、にわかにブームとなっています。なぜ人々の気持ちをこんなにもとらえるのでしょうか。

7月23日に開かれた開会式の終盤では、ピクトグラムで描かれる人物にふんしたパフォーマーたちが、全競技50種目をコミカルに再現しました。海外メディアが「ピクトグラムが人気をさらった」と報じるなど、脚光を浴びました。

五輪開会式ピクトグラム
開会式で披露されたウェートリフティングのピクトグラムのパフォーマンス=伊藤紘二撮影

家事、酒飲み、会社員…

これに触発され、様々な人や企業がユーモラスな作品を作ってツイッターで紹介しています。

家電メーカー「アイリスオーヤマ」(仙台市)が公開したのは、「炊飯ボタン押し忘れピクトグラム」。炊飯器を前に頭を抱える人に、絶望感が漂っています。4・3万件の「いいね」が集まる反響ぶりで、「家事あるあるですね。わかります」「カレーのときにピンポイントでやる」「どうして忘れてしまうんだろう」など、共感のコメントが寄せられています。

制作したのは、入社4年目の若手女性社員です。実際に、開会式の数日前に炊飯ボタンを押し忘れ、思いついたといいます。連休明けの出社日に1時間程度で作り上げたそう。女性社員は「500件くらい『いいね』がつけばいいなと思っていました。皆さん、親しみを持って受け止めてくれているようです」と喜びます。

酒販売サイト「KURAND」は、一升瓶を持ってあぐらをかく「酒飲みのピクトグラム」で話題を集めました。「連休中の私だ」「是非ぜひ出場したい」などと盛り上がっています。制作した運営会社「リカー・イノベーション」(東京都)の河野祐磨さん(28)は「分かりやすい図柄なので、多くの人の理解を得やすいのかもしれません」と話します。

ほかにも、会社員のピクトグラム「定時ダッシュ」「(仕事の)丸投げ」、乳幼児を育てる親の「おきがえ」「おむつがえ」……。様々な立場の人が「あるある」と感じるものが、支持を集めているようです。

日本から世界へ、余白に面白み

人形ひとがたのピクトグラムは単純で抽象度の高い図形を使っており、そもそも見た人が自分を重ね合わせやすく、共感を集めやすいのでは」。青山学院大学ピクトグラム研究所所長で同大教授の伊藤一成さん(メディア情報学)は、人気の理由をそう指摘します。

非常口のピクトグラムが作られたとき、制作に携わったデザイナーは、見た人が自分を投影し、同一視することを目指したといいます。「ツイッターで『あるあるネタ』の作品が多いのも、もともと人は一人称的な視点でピクトグラムを見がちだからではないでしょうか」と推測します。

ピクトグラムは、1964年の東京五輪開催時に、言葉の通じない海外客を迎え入れるのに備えて、競技の種目やトイレの場所といった施設の案内を分かりやすく示すために作られました。その利便性により、1970年代頃から、新幹線や高速道路などの公共交通機関、公共施設のほか、街中に広まっていきました。非常口のピクトグラムは、海外でも広く使われていて、日本発祥の国際的デザインと言えます。

「日本には家紋があり、視覚言語によるコミュニケーションを活用してきた歴史がある。ピクトグラムのような図記号に親しみを持ちやすいのかもしれません」と見るのは、日本サインデザイン協会会長でデザイナーの竹内誠さんです。

「ピクトグラムは本当に必要な情報だけ残して、他の要素はすべてそぎ落としています。でも、一見、無個性に見えるピクトグラムの中の人物に、様々な表情や感情を思い起こさせる余白があります。そこに面白さや親しみを感じるのでしょう」と竹内さん。

近年は、おむつ替えの場所を示すピクトグラムで、性別を特定しないようスカート部分が削除されたり、LGBT(性的少数者)の人に配慮したトイレのサインが検討されたりするなど、時代の変化に伴ってデザインの見直しもされています。「これを機に、ピクトグラムに注目が集まり、より日本の文化として活性化してほしい。みんなが使いやすいデザインになっていけば」と、竹内さんは話しています。

東京オリンピックで初めて採用された動くピクトグラム
東京オリンピックでさらに進化した「動くスポーツピクトグラム」ⒸTokyo 2020

(読売新聞生活部 野口季瑛)

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