ドイツ体操女子のユニタード、差別的なユニフォームとはサヨナラ

新型コロナウイルスに加えて、ショーディレクターや音楽担当の開会直前での解任や辞任など、「スポーツ」以外の話題が多い今回の東京オリンピック。でも、悪い話題ばかりではありません。オリンピックによって世界の女子選手たちの「女性ばかりが肌の露出の多いユニフォームの着用を強いられるのはおかしい」という声が広く知られるようになりました。

「女性だけビキニ着用」の規定と闘った女子選手たち

五輪の直前に開催されていたビーチハンドボールのヨーロッパ選手権では、ノルウェーの女子チームが試合に「規定で定められているビキニ」ではなく、「短パン」を着用したところ、女子選手たちに1人あたり150ユーロ(約1万9500円)、合計1500ユーロ(約19万5000円)の罰金が科せられました。

ドイツのRTLテレビジョンの報道によると、同チームは事前にヨーロッパハンドボール連盟に対し、ビキニを着用せずに短パンで試合に挑みたいという許可を求めていました。ところが連盟はこれを却下し、違反した場合は罰金の対象になることを事前に通達しています。この判断に対して女子ビーチハンドボールチームは納得せず、試合当日に「規定のビキニではなく、短パンで試合に挑むこと」を決め、出場しました。ヨーロッパでは彼女たちの勇気が好意的に報道されており、ドイツのRTLの記事のタイトルZu lange Hosen – Geldstrafe!(和訳:「パンツが長すぎるから罰金刑!」)からは、「規定より長いパンツを履いただけで罰金だなんて馬鹿げている」というテレビ局のスタンスが読んで取れます。

女性選手たちに罰金が科せられたことが報道されると、ノルウェーハンドボール連盟(NHF)が「声を上げた女性選手たちのことを誇りに思います」とTwitterに投稿。「今後女性たちが居心地良いと思える服装でプレーできるよう服装の規定を変えるべく女性選手らと一緒に闘う」ことを表明しました。

その後、米国の歌手ピンクさんが罰金の肩代わりを宣言し、「連盟の性差別にこそ罰金を」と発言したことで、この件は日本でも大きく報じられました。いま、服装を含む女性の生き方について、「女性自身が自由に選択できること」が世界でひろく支持されています。

肌を露出しないでオリンピックに挑む

東京五輪に出場したドイツの体操女子選手
東京五輪に出場したドイツの体操女子選手(ロイター)

東京オリンピックでは、ドイツ女子体操チームのザラ・フォス選手、キム・ブイ選手、エリザベト・ザイツ選手、パウリネ・シェーファー ベツ選手の4人が、従来の「脚が見えるレオタード」ではなく「脚を覆うパンツスタイルのユニタード」を着て試合に挑みました。

この件で注目すべきことは、チームが「レオタードはもう着ない」とはしていないことです。レオタードを否定するのではなく、あくまでも「選択肢があること」を大事にしているのです。たとえばエリザベト・ザイツ選手は「その日にどう感じるか、何を着たいかでどちらを着用するか決めています」と語り、ザラ・フォス選手も「自分が快適だと感じるユニフォームを着たい」と語っています。

今年4月にスイスのバーゼルで開かれたヨーロッパ体操競技選手権でザラ・フォス選手が全身を覆うユニタードを着用した時も、ドイツではこれが大きく話題になりました。女性の生き方において自由だと思われるドイツで、「レオタードでなくユニタード」を着ただけで、なぜこれほど話題になったのでしょう。

実は、ドイツではこれまでイスラム教徒の女性が「肌の露出を避けるために身体を覆うデザインのユニタードを着る」ことはあっても、「宗教上ではなく自分の意思で肌の露出を避けるユニタードを着ることを選んだ女性」はいなかったのです。

ドイツでは、「女性は肌を露出するのが当たり前」だと考えられているフシがあります。たとえば、オペラ鑑賞や社交ダンスなどのフォーマルな場でも、「暗黙の了解」で女性の肌の露出が求められています。水着に関しても、肌の露出が多くなければ水着とは言えないという考え方が幅をきかせています。

前述のビーチハンドボールとは違い、体操では国際体操連盟が「エレガントなデザインであればよい」としており、レオタードの着用を強制してきたわけではありませんでした。しかし、「暗黙の了解」でドイツでは、イスラム教徒であるなどの宗教的な理由がない限り、女子はレオタードを着るのが当たり前だとされてきたのです。

日本でも学校の校則が女子生徒にばかりに脚を露出することを求めていることが少なくありません。千葉県柏市の市立柏の葉中学校のように、性別に関係なく制服をスカートかズボンかを自由に選べる学校がある一方で、冬の寒さが厳しい地域であっても、女子生徒にタイツを履くことを禁止しスカートで通学することを強制している学校もあります。かつて当たり前だとされていた女子生徒のブルマーが反対運動によって廃止されたように、学校の制服においても「女子だからスカート」という考えを一刻も早く見直し、服装を自由に選べる環境になることが望ましいと筆者は考えます。

欧米では女性の服装について「男性から見て魅力的であればそれでよい」とする時代は終わりつつあります。ハイヒールの問題など、今や様々な分野において「女性がその格好をして居心地が良いかどうか」がようやく注目されるようになりました。スポーツのように「結果を出すこと」が求められる世界ではなおのこと、女性の「居心地良さ」を大事にすることは合理的だといえるでしょう。

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サンドラ・ヘフェリン
サンドラ・ヘフェリン
コラムニスト

 ドイツ・ミュンヘン出身。日本在住23年。日本語とドイツ語の両方が母国語。自身が日独ハーフであることから、「多文化共生」をテーマに執筆活動中。ホームページ「ハーフを考えよう!」
。著書に「ハーフが美人なんて妄想ですから!!」(中公新書ラクレ)、「体育会系 日本を蝕む病」(光文社新書)、「なぜ外国人女性は前髪を作らないのか」(中央公論新社)。


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