人気ロックバンド「キュウソネコカミ」がスマートフォンへの依存を強烈に皮肉った曲「ファントムヴァイブレーション」。2013年の発表から8年たった今、コロナ禍による外出自粛生活でスマホ依存はより深刻な社会問題となり、この曲が改めて注目されています。作詞したギターボーカルのヤマサキセイヤさん(34)に、依存を自覚した自身の経験とその心理を聞きました。
もはや臓器、体の一部に
20代初めにiPhoneを持ち、革命的だと思いました。ただの連絡手段を超えた、小さいパソコンですよね。バンドのミュージックビデオだって撮影、編集できる。
曲を作ったときは、ネットで「ファントム・バイブレーション・シンドローム(幻想振動症候群)」という言葉を知りました。着信がないのにお尻のポケットが震えたようなあの感じ、カバンがブルッと震えたあの感じ。「あれのことを言うんや!」と。きっと誰にでも、身に覚えがありますよね。
ファントム・バイブレーション・シンドロームとは、スマホなどの着信がないのに振動を錯覚する症状のこと。「スマホにすぐに反応しなければ」という過剰な緊張状態が原因とされる。
スマホをどこかに落としたり忘れたりして、血眼になって捜す人も何人も見ました。もはや、スマホがないと生きていけない。もう「臓器」、体の一部だと思って、曲中では<スマホはもはや俺の臓器>というフレーズを繰り返しています。
歌詞では<一日2時間は見てる>にしていたけど、いま僕のスマホのスクリーンタイムを見ると……平均4時間4分。歌詞を超えてますね。60年生きるとしたら、そのうち10年はスマホ見てるって、やばいですね。
スマホは「もう一つの世界」
特によく見るのが、ツイッターなどのSNSです。暇さえあればアプリを開いてチェックしてしまう。周囲からのバンドの評価はやっぱり気になります。投稿に反応があるとうれしいし、バンド名や自分の名前を検索することも。
ただ、四六時中スマホでやりとりできてしまうのが面倒くさい時もあります。未読のままのLINEが140件くらい。逆に、僕がメンバーにデモ曲を送ったのに無反応な時とかは、なんか心がザワザワします。だいたい、ギターのオカザワ(カズマ)が優しい言葉で最初に返してくれますが。
今の若い子たちは、僕らとは感覚が違うんでしょうね。連絡を取りたい相手とだけやりとりしていた僕らの世代と違って、今の子たちは、そこまで親しくない子ともグループLINEでつながってる。既読が付いたのに返信がないとか、自分の投稿にだけ反応がないとか、僕らの世代にはなかった苦しみがあるのかなと思います。
<常にコミュニティ求める 現実コミュ障のくせに>。自分が知られていない場所の方が、コミュ力(コミュニケーション能力)が高くなるってこと、ありませんか。リアルでは話せない芸能人の投稿に、SNSなら直接リプライ(返信)を送れる人が多いのも、そのためと思います。
友達には話せないのであろう深刻な悩みを、僕のアカウントにダイレクトメッセージで送ってくる子もいます。それですっきりするならどんどん送ってくれて構わない。現実の世界がうまくいかない時、スマホの中にもう一つ世界があるのは、悪いことではないと思います。どっちの世界もあっていい。スマホを全否定はしたくないですよね。
根っこに寂しさ……どう使いこなすか
スマホ依存の根っこにあるのは寂しさなのかなと思います。僕もコミュ力はないくせに、わいわいしていたいんですよね。<僕らはいつも 寂しくて 人との繋がりばかり 求めて>と書きました。「一人で生きていける、孤独が好きだ」とはなれないんです。みんなそうじゃないですか。寂しいから、返信が来てないかなとか、SNSが更新されてないかなとか気になって、ついついスマホを開いちゃう。
スマホはあくまで道具ですよね。スマホを駆使して現実世界で新たな出会いを果たす人たちもいるし、結局、使っている人間次第だと思います。スマホに支配されずに、どう使いこなすかが重要だと思っています。
(聞き手・読売新聞生活部 福元理央、撮影・宇那木健一)
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