中村倫也 初エッセーでさらけ出したものとは

俳優の中村倫也さんの初めてのエッセー集「THE やんごとなき雑談」(KADOKAWA)が注目を集めています。20、30代の女性人気も高い中村さんが、自意識をさらけ出して日常をつづったエッセーは、多彩な表現、巧みな構成が光り、重版を繰り返すヒットぶり。中村さんに、書き手としての思いやこだわりを聞きました。

編集者から「書け―!」の罵声

――書籍は雑誌「ダ・ヴィンチ」で2018~20年に連載した2000字のエッセーをまとめたものです。文章を書くのは好きですか?

文章を書くのは好きでしたけど、2000字は比較的多いですよね。最初の頃は編集者に、厳しく「書けー!」と罵声を浴びせかけられながら(笑)、だんだん書くのに慣れていきました。読んでもらうと、回を追うにつれて慣れていく様子もわかると思います。

俳優の中村倫也さん 読売新聞 守谷遼平撮影
中村倫也さん

――原稿を書く際のシチュエーションは?

なるべく家で、時間を作って書いていたんですけど、バラバラですね。現場の空き時間や移動の車の中でも書いていたし。文章を書く時は、音楽は流したらダメ。そっちに意識がいっちゃうんで、無音の状態で書いていました。

――何げなく出てきたフレーズが結末のカギになっていたり、流れるような場面描写の中に思考の変化を感じさせたり、構成力が秀逸です。

頭から終わりまで、この入りで……こう転じて、結びはこうと何となくイメージできている時も数回あったけど、書くうちに、違う方向に行って、それが面白い時もあれば、これはダメだと消した時もあって、ぐちゃぐちゃでした。僕は原稿をめちゃめちゃ寝かせるタイプ。2、3日かけて何となく結末まで書いて、時間をおいて寝かせて、手を加えて。寝かせたら「全然おもしろくねぇ!」って思う時もある。何がいけないのか、テーマに無理があったのか? 構成を変えればいいのか? 一文足したら、がらっと変わった時もありました。

――自分の文章の特徴はどんなところだと思いますか?

編集者からは「リズム」だと言われました。僕は書いたあと、読者の方と同じ感覚で黙読します。漢字と平仮名のバランス、句読点の打ち方、改行の位置。語感と字面の両方で、読んで心地よい文章を目指しました。 構成も、ちょっとした落ちがあるとしたら、それまでたたみかけるのか、淡々と進めて出来事をポンッてカットインするのか。細かいリズム感を考えていたと思います。

――「書きグセ」はありますか?

語尾が「だ」になることが多かったですね。注意しないと「だ」の言い切りばかりになってしまう。同じだと、飽きるじゃないですか。続かないように書き方を変えました。あとは、例を挙げる時に、三つ出したがる。これも僕のリズムなんでしょうね(笑)。

おもしろ情けない失敗談

――エッセーは自分の心のうちを、他人にさらす部分があると思います。

自分の中にあるもの、考えや経験をアウトプットするわけですが、それを読む人にとって意味のあるものにしたいなとは、常に考えていました。自分の失敗談も多く書いているんですが、人が困ったり、へこんだりっていうのは、ちゃんと包んで渡すことができたら、誰が読んでも楽しんでもらえるような内容なので。NHK紅白歌合戦の際のエピソードなど、自分の情けない話は、“おもしろ情けなく”渡せるようにと思って書きました。

俳優の中村倫也さん 読売新聞 守谷遼平撮影 大手小町
中村倫也さん

――エッセーを書くことで再発見した自分、という部分はありますか?

面白いこと好きなんだな、日常がないとダメなんだなと思いました。生きていくうえで、なんてことない家事をすることや、たまに外の空気を感じることもそうですし。あとは基本的に、しょうもないことでうじうじ悩んでるなと……。

――装丁もご自身がデザインされたそうですが、白いカバーにゴールドのタイトルが印象的です。裏側にもユニークな仕掛けがありますね。

タイトルの金箔きんぱくは背表紙のほうにも入れたかったんですけど、小さくて入らなかったんです。全体として遊び心があるものにもなっているし、自分のクリエイティビティーを象徴するものになっていると思います。

古賀春華ちゃんに憧れた

――少年時代のエピソードもたくさん出てきます。高校デビューに失敗して、教室でモテる男子をひたすら観察していたなんて、にわかには信じられないんですが……。

本当にそんな高校時代でした。あだち充さんの漫画を読んで、「H2」の古賀春華ちゃんに憧れて、男どもでふざけて。文章なんてろくに書いた記憶がない。そんな僕がエッセーを書いて、それを読んでくださる人がいるのは、不思議で変な気持ちです。でも、僕のような何でもない存在が、誰かの勇気になればいいな、そんな大義名分で自分を鼓舞しています。
(文・読売新聞社会部 大石由佳子 写真・守谷遼平)

「THE やんごとなき雑談」
雑誌「ダ・ヴィンチ」で2年間にわたって連載したエッセーを書籍化。中村さんがイラストも手がけている。(KADOKAWA、税込み1320円)

中村倫也さんの著書 THE やんごとなき雑談
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中村倫也 (なかむら・ともや)
俳優

1986年生まれ。東京都出身。2005年デビュー。初主演舞台「HISTORY BOYS」(2014年)で、第22回読売演劇大賞優秀男優賞を受賞。2019年にはエランドール賞新人賞を受賞。近年の主演作に映画「水曜日が消えた」、連続ドラマ「美食探偵 明智五郎」「珈琲いかがでしょう」など。

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