戦う前に気合、メイクは「強くなる魔法」の理由

くらしを彩る化粧は時代を映す鏡でもある。他人の目を意識して施してきたメイクは、「自分らしさ」を表現する手段へと変わりつつある。化粧品には機能性だけではなく、ジェンダーや環境保全への配慮も求められるようになった。最先端のコスメから世相の変化を探ってみたい。

ファシオの新商品を手にする今田美桜さん。「トレンドを追わないメイクが好き」という(東京都内で)=富永健太郎撮影
ファシオの新商品を手にする今田美桜さん。「トレンドを追わないメイクが好き」という(東京都内で)=富永健太郎撮影

「流行よりも自分らしい化粧を心がけています。黄色を使ったメイクをしてみたいな」

東京都内で5月に開かれたコーセーのブランド「ファシオ」の新商品発表会で、イメージキャラクターを務める俳優の今田美桜さん(24)が笑顔を見せた。手にするのは、新たに売り出されたスティック形コスメ。1本で頬、唇、目元に塗れる。色の豊富さも特徴の一つで、黄色、緑、紫など頬や目元に使うには珍しい色も展開している。

2000年に誕生したブランドは大幅に刷新され、新たにスティック形コスメが投入された。「なじむ、らしさ、つづく」が新しいブランドの理念だ。

スティック形コスメは多色展開が売り。目元や頬に塗るには珍しい色もある 読売新聞 大手小町
スティック形コスメは多色展開が売り。目元や頬に塗るには珍しい色もある

同社は19年、女性約1300人に調査を実施。20代以下にメイクのポイントについて尋ねたところ、「自分らしさを取り入れたい」(67・6%)が「流行を取り入れたい」(32・4%)を、「自分が満足したい」(63・5%)が「周りから評価されたい」(36・5%)を上回った。同社開発担当の伊藤理恵さんは「今の消費者は個性を大切にし、ありのままの『わたしらしさ』を表現する化粧品を求めています」と語る。

化粧は、身だしなみを整え、他者に好感を抱かれるための一手段だった。肌を白く、目を大きく見せるといった画一的な美の基準が社会全体で共有され、この基準に沿ったメイクが支持されてきた。

「モテ」より私らしい色で

だが近年は「多様性」が重視されるようになった。一人ひとりが「わたしらしい」美を大切にしながら、他者の個性も認めるという価値観だ。

20年には欧米の大手化粧品メーカーを中心に「美白」という表現が用いられなくなり、肌は白いほうが美しいという画一的イメージが見直された。日本でも、「多様性のある美しさ」を化粧品事業の理念に掲げる花王が、今年からシミ・ソバカスを防ぐ効果を「透明感」などの表現を用いて伝えることにした。今秋にはグループ会社のブランドでファンデーションの色を倍増させるなど、「一人ひとりにあった色を提供する」としている。

最近、メイクを取り上げた雑誌の特集で「かわいい」「モテ」という言葉が減ったと指摘するのは、女性潮流研究所所長で化粧品コンサルタントの広瀬知砂子さん。代わってキーワードになったのが「自分らしさ」で、自らの肌の質や顔の作りを生かしたメイクを勧める記事が増えた。例えば、切れ長の目元ならクールな印象を、鼻が高くなければかわいらしさを演出する。

「その人に合った色味を調べる『パーソナルカラー診断』が流行するなど、化粧は個性を表現する手段になった。『自分らしさ礼賛』といったムードを感じる」と広瀬さん。

「多様性を尊重する昨今の社会全体の動きを受けたこの流れは、単なるトレンドに終わらず、化粧の世界でも大きな潮流になるのではないか」

世相を反映、プリキュアに見るメイク

テレビ朝日系で放送中の「トロピカル~ジュ!プリキュア」。ヒロインはメイクして変身する(c)ABC-A・東映アニメーション

メイクに対する意識の変化は、人気アニメにも投影されている。少女たちが敵と戦う「プリキュア」シリーズ18作目で、今春放送が始まった「トロピカル~ジュ!プリキュア」では、主人公たちがそれぞれの個性に合わせたメイクをすることで変身。戦う前に気合を入れる。化粧は美しく装うためではなく、自らを鼓舞する行為として描かれている。

本作を手がける東映アニメーションのプロデューサー、村瀬亜季さんは「勝負時に鉢巻きをするようなもの。周りからどう見られるかではなく、あくまでも自分のためにする。メイクは頑張る主人公の背中を押してくれる、すてきな魔法なんです」と説明する。
(読売新聞生活部 野口季瑛)

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