意味不明でも方言をあえて使いたくなるイマドキの理由とは?

抵抗感薄れる 日常会話・接客・歌詞に

東京都心のビルの一角で、歓談する大学生のグループのうち1人が方言を使っていた。記者が25年前に上京した頃、うっかり口から出ないようビクビクだったのと比べ、あまりに堂々とした話しぶり。方言を巡る事情が変わってきたようだ。

「僕はこうした方がいいと思うけど。そうだら?」。さいたま市の男性(27)は日頃、職場や友達付き合いで、出身地の長野県飯田市の方言で話しているという。7年前に大学進学で上京してから変わらない。「全てが方言というわけではないですが、共通語よりダサいとは思わない。方言を話すことで、全てを見せる裏表のない人間に見られているかも」と笑う。

自分の方言への否定的な感情は弱まっているようだ。方言を研究する日本大教授(日本語学)の田中ゆかりさんが2016年、インターネットで全国の約2万人に行った調査では、生まれ育った地域の方言を「好き」とした人は45%で、「嫌い」は8%。「どちらでもない」が40%、「分からない」は7%だった。

「若者を中心に出身地の方言を個性と捉え、地元を離れても場面に応じて共通語と使い分けるなど、戦略的に話す傾向が強まっている。表現のツールの一つになった」と田中さん。かつては関西弁などに限られたが、他の地域の方言も使われているという。

広島弁を使ったスタンプ (C)ぴよたぬき!

無料通信アプリ「LINE」でも、全都道府県の方言のフレーズとイラストなどを組み合わせたスタンプが人気だ。扱い始めた14年から種類が増え、今では5万以上に。運営会社「LINE」スタンプ事業部の大島遥平さんは「メッセージのやり取りを盛り上げるため、わざわざ出身地の方言の難解なフレーズを選ぶ人もいます」と話す。

接客業界も方言に注目する。青森県三沢市の「星野リゾート 青森屋」では、接客で青森の方言を使う。「ほっこりする」と喜ばれ、意味や発音の仕方を尋ねられるという。「滞在中の満足感が高いようでリピートにつながっている」と担当者。

星野リゾート「青森屋」のスタッフが方言で旅館や周辺の観光を説明
ラウンジを説明する動画。スタッフが方言で「景色たんげいいはんで、ゆっくりながまってってけな」と話すのに合わせ、「景色がとても綺麗(きれい)なので、ごゆっくりお寛(くつろぎ)ください」と説明文が付く(星野リゾート 青森屋提供)

4月には、方言を使った動画で施設を説明する取り組みを始めた。宿泊客は施設内9か所に掲示されたQRコードをスマートフォンで読み取り、表示された動画を視聴する。大浴場の動画では、出演スタッフが「スリッパさ印っこつける」と説明し、共通語で「スリッパに印の札をつける」と意味が表示される。

音楽の世界でも自然に使われるようになってきた。音楽評論家で尚美学園大副学長の富沢一誠さんによると、これまでも吉幾三さんの「俺ら東京さ行ぐだ」などの歌謡曲で使うことはあったが、今は若者に人気の歌手の曲でも、感情の機微を表すために使われているという。

例えば、岡山県出身のシンガー・ソングライター、藤井風さんが19年に発表した「何なんw」。R&Bのメロディーと、岡山弁で人生を振り返るようなフレーズが印象的だ。「何で何も聞いてくれんかったん」「あの時の涙は何じゃったん」――。

富沢さんは「SNSが発展し、得られる流行情報は都会でも地方でも大きな差がない。都会への憧れや地方へのコンプレックスが弱まり、音楽に限らず、方言への抵抗感がますます薄れていくのではないか」とみている。

記者は岡山県出身。藤井さんの曲を聴いて、「岡山弁って格好え~の~」と思えた。ビルの一角での会話に反応したのは、方言を自然に使えることへのうらやましさがあったのかもしれない。

消滅の危機にあるものも

ユネスコが認定した消滅の危機にある方言の一覧。八丈方言、奄美方言、八重山方言、アイヌ語など(文化庁の資料)

肯定的に捉える若者がいる一方で、話し手が少なくなるなどして危機的な状況の方言もある。国連教育・科学・文化機関(ユネスコ)は2009年、沖縄県や鹿児島県奄美地方などの方言、北海道のアイヌ語など八つを、消滅の危機にある言語・方言に認定した。

文化庁は、八つの方言・言語に加え、東日本大震災の被災地の方言を保存・継承する取り組みを展開。15年から方言での発表や語り合いをする「サミット」を開いている。

沖縄県宮古島市のコミュニティーラジオ局「エフエムみやこ」は、地域の話題を紹介する時に方言を交えたり、方言で制作した企業CMを流したりしている。パーソナリティーの与那覇光秀さん(47)は「ラジオをきっかけに方言に興味を持ってほしい」と訴える。

同庁の担当者は「共通語で表現できない繊細なニュアンスを伝えられる方言は、各地の文化を支える上で大切なものだ」と強調する。(読売新聞生活部 福島憲佑)

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