うそと本当をあぶりだす名匠ホン・サンス監督「逃げた女」とは

逃げた女(韓国)

女同士の会話。この映画の大半を占めるのは、それだ。

最初は、たわいなく聞こえる。でも監督は名手、ホン・サンス。何でもないような言動を一見、無造作に映し出しながら、その中に潜む人間の「うそ」と「本当」を見事にあぶり出すのが彼の映画。それはいつも同じようでいつも違う。とりわけ本作の主演女優、キム・ミニと組むようになってから描出される女の心の奥行きが広がり、ますます面白くなっている。

劇中、キム・ミニ演じるガミ=写真左=は3人の女と再会する。

最初の2人は年上の女友だち。ガミはそれぞれの住まいを訪ね、気の置けない時間を過ごす。1人は離婚経験者。もう1人は独身。一方、ガミは結婚していて、夫は出張中。「愛する人とは一緒にいるべきだ」という夫と、5年間、離れたことがなかったという。

どちらの「先輩」の家にも男が突然訪ねてくるが、彼女たちの生活の主導権を握るのは彼女たち。その様子をガミは観察する。時には防犯モニターごしにのぞき込む。何かを学ぼうとするかのように。でも一体、何を。気づけば謎解きにひきこまれている。

そして3人目。その女との対話前後のガミの言動の真意は何か。答えを出すのは観客。最終盤、ミニシアターのスクリーンを見つめるガミが映し出されるスクリーンは、私たち一人ひとりの心の鏡になる。何と巧みで何と恐ろしい入れ子構造! 昨年のベルリン国際映画祭監督賞受賞作。(読売新聞文化部 恩田泰子)

「逃げた女」(韓国)1時間17分。ヒューマントラストシネマ有楽町など。公開中。

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