「生理の貧困」は日本だけ? ドイツやイギリスのタブーへの挑戦

生理用品の常備がなかなか進まないのは、生理が長年「隠すべきもの」としてタブー視されてきたことと無関係ではありません。そして、それは日本に限った話ではないのです。前々回のコラムで、どこのトイレにもトイレットペーパーは必需品として設置されているのに、なぜ生理用品は常備されていないのか、という疑問について書きました。今回は、海外の状況を紹介しながら、再び生理に対する社会の認識などについて考えてみたいと思います。

ドイツでもタブー視されてきた生理

近年、日本のメディアでもようやく、生理に関する話題が頻繁に取り上げられるようになりました。日本で長い間、生理がタブー視されてきたのは、伝統的な「穢(けが)れ思想」をはじめとする文化的な背景もありますが、実は、欧米でも長い間、「生理は不浄」だと考えられてきました。

筆者の出身地であるドイツ・バイエルン州は、カトリック教徒が多い土地柄です。筆者が子供だった1980年代には、教会で神父に奉仕する「ミサの伴僧」を行う女の子や女性を見かけることはありませんでした。カトリック教会では、女性には生理があるので、聖壇に上がったり、ミサの伴僧をしたりするのにはふさわしくないとされていました。そのため、ミサの伴僧をするのは長い間、「男の子」に限られていたのです。しかし、これに対して抗議の声が高まり、カトリック教会では92年から、女の子のミサの伴僧が許されるようになりました。現在のドイツで、ミサの伴僧をしているのは、53.3%が女の子であり、男の子を上回っています。

このように、ドイツを含むヨーロッパでは現在、「生理があるから、女の子は特定のことをしてはいけない」という考え方はなくなりつつあります。それでも、生理にまつわる課題は様々な場面で残っています。

日本では現在、「生理の貧困」が問題視されていますが、ドイツも同様です。ドイツでは、1回の生理での女性の出費は平均して約5ユーロ(約660円)とされていますが、ドイツメディア「ドイチェ・ヴェレ(DW)」によると、あるアンケート調査で、6500人の女性回答者のうちの13%が、「生理用品を購入するか、他の日用品を購入するかを選択しなければいけなかった経験がある」と答えています。また、生活保護の受給額を巡っては、「生理用品の購入のため、毎月の出費は女性のほうが男性よりも多いにもかかわらず、男女で受給額が同じ」であることが批判の対象となっています。

ドイツの非営利団体「ソーシャル・ピリオド」は、「貧困に苦しむ女性のために、全ての女子トイレに生理用品を無料で常備すべきだ」と主張しており、賛同者から3万近い署名が集まっています。

 「ジェンダー・ニュートラルなトイレ」の大失敗

男女平等においては、欧州のほうが日本よりも進んでいると思われがちです。確かに、世界経済フォーラムが発表した2021年の男女平等度ランキングを見ると、世界156か国中、日本が120位であるのに対し、ドイツは11位、イギリスは23位となっています。これは、欧州では様々な分野で、女性と男性が対等な関係であることを表していますが、そういった中でもたまにビックリするようなことがあります。

今、欧米で話題になっている「存在しない女たち   男性優位の世界にひそむ見せかけのファクトを暴く」(河出書房新社刊、著者・キャロライン・クリアド=ペレス、訳者・神崎朗子)という本の中に、英BBCの女性ジャーナリストであるサミーラ・アフマッド氏が、2017年に体験したエピソードが書かれています。アフマッド氏が、ヨーロッパ最大規模の文化施設であるロンドンのバービカン・センターで映画を鑑賞した時のこと。休憩時間にトイレに行こうとしたところ、トイレの前に尋常ではない長さの行列ができていて、その多くは女性でした。

行列の原因は、施設側が男女平等を重んじようとしたために、「女性トイレ」と「男性トイレ」の区別をやめ、全てのトイレを「ジェンダー・ニュートラルなトイレ」にしたことでした。トイレには「ジェンダー・ニュートラル個室」と「ジェンダー・ニュートラル小便器」が設けられましたが、女性は後者を使えないため、結局は「男性が使えるトイレを増やしただけ」でした。しかも驚くべきことに、使用済みの生理用品を捨てるサニタリーボックスの多くが撤去されていたのです。この「ジェンダー・ニュートラルなトイレ」は、「女性のニーズに全く考慮していないトイレ」としてその後、話題になりました。

このように、男女平等を追求しようとしたのに、設計の際に男性の視点しか入れずに女性のニーズがないがしろにされるという展開は、欧米諸国でしばしば見られます。ただ、筆者は「ジェンダー・ニュートラル」という発想自体は良いことだと考えていますので、試行錯誤を続ければ、将来的には誰もが満足するトイレが実現するのではないかと思っています。

 生理について日本のほうが話しやすい

 筆者は、ドイツでも日本でも生活した経験があり、両方の国に女友達がいますが、「生理」というテーマについては、日本のほうが女性同士で話しやすいと感じています。

ドイツを含むヨーロッパの人は、生理に対して合理的に考える傾向があるので、生理痛などに悩んでいる女性は、ピルを服用して痛みなどを解消していることが多いです。そのため、「生理がつらい」といった愚痴に対しては、「だったら医者に行けば?」「ピルを飲めば?」と返されてしまい、「生理のつらさを女性同士で分かち合う」というような雰囲気はないのです。

サンドラ 生理
写真はイメージ

日本では、生理の話のほかにも、仲の良い同性同士であれば、「最近、便秘がひどくて……」といった体調の悩みを話すことが許される雰囲気があります。現に日本のテレビCMにはよく「便秘に悩む人」が登場し、「何日間も出なかったんですけど、これを飲んでスッキリしました」と、自分の便通の状況を語るものがあります。ところが、ドイツを含むヨーロッパでは、排便や排尿に関する話は「隠すべき話」であり、日本よりもタブー視されています。そういった背景があることから、ヨーロッパでは「生理」についても、細かいことまでは女性同士でも話しにくいのかな、なんて想像してみました。

近年、欧米諸国の多くで、生理用品の消費税率が下がり、ドイツでも昨年月、それまで19%だった生理用品の消費税率が7%に下がりました。それまで「ぜいたく品」だと見なされていた生理用品が、少なくとも税制上は「必需品」だと認められたわけです。ただそれでも、生理にまつわる課題はまだまだ多いのが現状です。

人口の半分である女性が人生の中で長い間、向き合わなければいけない「生理」。日本でも海外でも、これからもっともっとオープンになっていくといいなと思っています。

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サンドラ・ヘフェリン
サンドラ・ヘフェリン
コラムニスト

 ドイツ・ミュンヘン出身。日本在住23年。日本語とドイツ語の両方が母国語。自身が日独ハーフであることから、「多文化共生」をテーマに執筆活動中。ホームページ「ハーフを考えよう!」
。著書に「ハーフが美人なんて妄想ですから!!」(中公新書ラクレ)、「体育会系 日本を蝕む病」(光文社新書)、「なぜ外国人女性は前髪を作らないのか」(中央公論新社)。


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