センス・オブ・ワンダーを刺激する「大・タイガー立石展」

タイガー立石(19411998年)はSFが好きで、よく読んでいたそうです。もっとも好きだったのは、アメリカの作家ロバート・シェクリイの短編集「人間の手がまだ触れない」だったとか。ほかに好きだったのは、レイ・ブラッドベリ、ロバート・A・ハインライン、ブライアン・W・オールディス――。これらの巨匠、数多の作品の魅力を説明するのに、よく使われる言葉があります。

「センス・オブ・ワンダー」

何か不思議なことに出会った時の驚き、神秘さや不思議さに目を見張る感性……。良質のSFやファンタジーは、それに触れる読者や視聴者の心を刺激し、非日常の世界へと誘います。タイガー立石の作品もそうです。カラフルな色彩、ちょっとユーモラスな造形で、見ている者の心を異化していきます。

思えば、タイガー立石が名を成していった196070年代は、日本にセンス・オブ・ワンダーがあふれた時代でした。

筒井康隆、小松左京といった「レジェンド」が次々に誕生したSFの世界だけを指すのではありません。例えば岡本太郎の「太陽の塔」、例えば唐十郎のテント芝居……。横尾忠則や赤瀬川原平らが手がけた前衛演劇のポスターを見ていると、ポップでアバンギャルドな空気にあふれた時代の香りが漂ってきます。

そうした流れの中でタイガー立石の活動を眺めてみると、マンガから陶彫、絵画まで、幅広いジャンルでポップな作品を発表し続けた足跡は、むしろ自然なもののようにもみえるのです。

「コンニャロ商会」より原画 1967年 courtesy of ANOMALY
「コンニャロ商会」より原画 1967年 courtesy of ANOMALY

時代の空気に敏感で才気あふれた若者。もちろん、タイガー立石は「現在」だけを見ていたわけではありません。ピカソやダリ、エルンストやデ・キリコといった先人たちに影響を受け、その美や哲学を心身に取り込んでいます。

デ・キリコへのオマージュともいえる「輪のミステリー」。「過去」のアイコンをキャラクターとして使いながら、見る者たちを新しい世界に誘おうとします。「やつし」とか「本歌取り」とか「見立て」とか、その根底に江戸文化の本質と共通する日本人的精神を感じる、とは我田引水に過ぎるでしょうか。

さらに80年代になると、「自分自身の」アイコンが縦横無尽に作品を歩き回ります。無限連鎖的なイメージを描いた緑のトラ。スキがあれば登場する「とらのゆめ」のモチーフ。そのキャラクターが、夢幻的でもあり、ユーモラスでもある世界観を増幅させています。

「とらのゆめ」より原画 1984年 個人蔵
「とらのゆめ」より原画 1984年 個人蔵

「明治」「大正」「昭和」をコラージュした大作を眺めてみると、結局、タイガー立石の「現在」と「過去」は、高度成長時代の日本が中心になっているようです。美空ひばり、新幹線、戦争とご成婚。混沌とエネルギーにあふれた右肩上がりの日本。タイガー立石的「同時代」は、そこにこそあることが、改めて見てとれます。

そして「未来」。90年代に入ってからの作品に目立つのは、縄文的な模様に彩られた幾何学的な世界。それは前述の「昭和」の絵の中に、差し込まれている「壁」のようなオブジェにも現れています。

《壱富士》1992年 泉和浩氏蔵
《壱富士》1992年 泉和浩氏蔵

「情報化社会」の象徴として、新たな世界の到来の暗喩として、様々な作品に使われているこのイメージ。コンピューターの内部回線のように見えながら、どこかインカやマヤの神話の世界を思わせる造形です。「壱富士」では和のモチーフを異世界のものに換骨奪胎し、「大地球運河」では、未知への期待と不安をそこはかとなく漂わせます。

タイガー立石は「来たるべき21世紀」をどのように感じていたのでしょうか。最後まで彼の作品は、センス・オブ・ワンダーを刺激し続けます。

(読売新聞事業局専門委員 田中聡)

大・タイガー立石展 POP-ARTの魔術師

会場 千葉市美術館(千葉市中央区中央3-10-8
会期 4月10日(土)~7月4日(日)
開館時間 午前10時~午後6時(金・土は午後8時)※入場受付は閉館の30分前まで
休室日 6月7日(月)
観覧 一般1200円、大学生700円、小・中学生、高校生無料

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