春を感じる和菓子、記者が選ぶお取り寄せしたい「とっておき」

新型コロナの感染が広がり、日本の各地に足を運ぶことが難しい状況が続いています。読売新聞大阪本社から「とっておき」を紹介しますので、記事を読んで旅気分を楽しんでください。テーマは「春を感じる和菓子」です。

キラキラ食べる宝石 MIOみお」(滋賀)

滋賀-MIO

「MIO」は「とも栄菓舗」(滋賀県高島市)の新ブランドNANASANの第1弾として2018年末に発売されました。企画したのは4代目の西沢勝仁さん(33)と千葉県出身の有莉さん(32)の職人夫婦。家具やインテリアなどを手掛けるデザイナーと組んで3Dプリンターで型を試作、三角を組み合わせ、上から見ると七角形の食べる宝石を生み出しました。

滋賀-MIO西沢

琥珀糖こはくとうの中に地元、安曇川あどがわ町の特産「アドベリー」を使った甘酸っぱい赤い色のゼリーが入っています。しゃりっとした表面に、内側はとろみのある寒天、さらにその中にもちっとしたアドベリーのグミと、三つの食感が楽しめます。ここまでたどり着くのに試行錯誤を重ね、苦戦もしたといいますが、昨春以降「巣ごもり需要」と相まってSNSで人気が上昇しました。

ブランド名には、「革新と伝統を7対3で」との思いが込められています。「先人が残してくれた技法を大事にしながらチャレンジする。そして若い人に和菓子に触れてほしい。『え』狙いでなく、思いを込めた結果、この形ができました」と2人はほほえみます。

パッケージもしゃれていて、琵琶湖に映る朝焼けをグラデーションでデザイン。すべてに2人の強いこだわりと地域愛が詰まっているようです。湖の西、高島を訪れてもらうきっかけになればという夢もあって、新たな製品づくりにもいそしんでいます。

吉野の風情ふわり 「さくら羊羹ようかん」(奈良)

奈良-さくら羊羹

近鉄吉野駅から山道を登って30分。国宝の金峯山寺きんぷせんじ仁王門の前に、明治期から多くの参拝者が訪れた茶屋があります。今は「萬松堂まんしょうどう」(奈良県吉野町)の名の和菓子店として、4代目の橋本英之さん(54)、由紀さん(49)夫婦が切り盛りしています。先代から続く名物の一つ「さくら羊羹」は、桜の名所・吉野山の風情を年中楽しめるようにと創作されました。

奈良-さくら羊羹作り

緑色の羊羹は山肌をイメージ。その上の寒天に桜の塩漬けを閉じ込めました。一面にふわりと咲いているように箸で丁寧に整えていきます。

食べてみると、花びらが入った透明の寒天はぷるぷるっとしていて、全体的にあっさりとした甘さのため、桜の香りが口の中に優しく広がります。

コロナ禍を受けて昨年からネット通販も始めました。「『頑張ってくださいね』と言って買ってくださるお客さんがたくさんいてくれて、人のつながりに感謝することがとても多い1年でした」と橋本さん。ただ、今年も人出は例年と比べれば少ないままです。「落ち着いた後にはやっぱりこの地に来て食べてもらいたい。にぎやかな吉野が続いてほしい」と祈ります。

取材で訪れたのは3月半ば。桜の木々はまだ、膨らみ始めたつぼみで少しずつ色づき始めた頃でした。でも、花が咲いていなくても、春の香りがするのがこの羊羹の良いところ。実は吉野はあじさいや紅葉の名所でもあります。コロナ禍によりますが、かなうならば、あじさいや紅葉を眺めながら本来なら出会うはずのない桜を味わうのも、すてきではないでしょうか。

カラフルなまんまる 「ゆうたま」(徳島)

徳島-ゆうたま

徳島県上勝かみかつ町の「すだち」「ゆこう」。同じく小松島市の「山桃」に吉野川市美郷みさとの「梅」。高知県北川村の「柚子ゆず」。四国各地の恵みから吟味された五つの果実と、寒天を使った菓子「ゆうたま」は、かわいらしい見た目に思わず笑みがこぼれます。

一見今風ですが、「茜庵」(徳島市)が創業した1980年から販売されています。最初は柚子のみだったのが、約10年前から、合う柑橘かんきつなどを探して四国内を巡ったそうです。すだち、ゆこうは有機栽培にこだわる農家さんの手によるもの。山桃は、山間に生える樹齢100年超の大木の高所に登って丁寧に収穫されたものです。

企画室長の上田綾乃さん(37)はこの時、素材の素晴らしさとともに、次代に継がれていくことの大変さも感じたといいます。だから「徳島、四国の良いものを広く知っていただくお手伝いを」と願っています。「この小さなお菓子が何かのお役にたちますように」。商品の封に記されたそんなこまやかな言葉にも、心が和みます。

徳島市の中心部、徳島城跡近くにある店には、本格的な茶室や、端正な小さな庭があって、季節を感じながらお茶とお菓子を楽しむのに、静かでとても雰囲気があります。

菜の花畑に蝶ひらり 「菜種の里」(島根)

島根-菜種の里

山陰に、京都と金沢とともに三大菓子どころとされる街があります。松江市です。茶道に精通した松江藩主・松平治郷はるさと不昧ふまい公)好みの和菓子が今も愛されています。その一つ「菜種の里」は菜の花畑にちょうが舞うさまを表した落雁らくがん。不昧公が出雲地方の春景色にちなんで名付けられました。製法を譲り受けた市内の和菓子店「三英堂」だけが伝えています。

茶道文化が強く残る土地柄のためか、家庭で上生菓子を楽しむ習慣が根付いていて、三英堂では半月ごとに入れ替えて、常時5~7種類の季節の上生菓子が並んでいます。3代目の岡敏和さん(66)は「不昧公が広めた文化を大切に、初代から伝わる、親しんでもらえる菓子を作り続けたい」と話します。

「桜もち」「嵐山さ久ら餅」(京都)

和菓子と言えば、やはり京都です。京都からは2種類を紹介します。

さくらもち
「鼓月」の「桜もち」(左)は関東風。「鶴屋寿」の「嵐山さ久ら餅」(右)は道明寺を用いた関西風

春を感じる和菓子の代表格といえば、桜餅でしょう。京都にあって「鼓月」(京都市伏見区)の「桜もち」が、関東風なのには訳があります。戦争で夫を亡くした中西美世さんが終戦すぐに創業。老舗がひしめく京都で修業の受け入れがかなわず、職人を東京に行かせたためだそうです。「京都にない新しい菓子を」との信念がこもっています。小麦粉や白玉粉を使い、薄く焼いた皮で巻くこの形は「長命寺ちょうめいじ」と呼ばれています。東京・隅田川沿いにある寺の門番が考案し、江戸期の1717年に売り出されました。大阪、関西ではこの形を見ることはほとんどなく、珍しいものです。

一方、関西でのなじみは「道明寺どうみょうじ」と呼ばれる米粉の餅であんをくるんだ形。1948年創業の桜餅専門店「鶴屋寿」(京都市右京区)の「嵐山さ久ら餅」は、粗い、細かいの2種類の道明寺を使っていて、粒の食感が絶妙です。あえて季節感を抑えた白色で通年販売しています。2代目の野村紳哉さん(73)は「かつて嵐山の桂川沿いにあった高級料亭のお客様の手土産として始めました。味も形も変わらず守っています」と話します。

食べ頃は作り立てよりも1日ほどたってから、桜の葉の風味が染みて、道明寺もまろやかになってからがよいのだと言います。確かにそうして口にしてみると、小ぶりなサイズでもあるせいか、二つ、三つと手が伸びました。

今年は桜の季節が早かったですね。ふたつ形がある桜餅ですが、どちらか食べましたか? 西日本なのに島根県と鳥取県西部では、関東風の「長命寺」が一般的で、両方売る店もあるそう。島根、松江はお茶とお菓子にこだわりの強い地。松江藩の元家老が明治の初め、江戸で人気だった桜餅をお菓子屋さんに教えて広まった、と言われているんだそうです。

大切な人へ、会いたい思いを抑えつつ贈り物する経験をした人も多いのではないでしょうか。最近では「食べる宝石」と呼んで透明な寒天菓子を作ったり、SNSに鮮やかな和菓子を載せたりして楽しむ人も少なくないようです。地域の香りや風土も感じながら、味わってみませんか。

(読売新聞大阪本社地方部)

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