素足になる機会が増えるこれからの季節、気になるのが足のトラブルです。親指が曲がった「外反母趾」、ふくらはぎが太くパンパンに張る「むくみ」、乾燥によるかかとの「ガサガサ」……。女性に多いこうした足の悩みを解消し、素足に自信が持てるようになる方法はあるのでしょうか。『 “歩く力“を落とさない!新しい「足」のトリセツ』(日経BP)を出版した、足の病気を専門とする「下北沢病院」の菊池守院長に「美脚のトリセツ」を聞きました。
女性に多い3つの足のトラブル
【外反母趾】
足の親指が曲がり、付け根が出っ張る外反母趾は、「親指の付け根が痛む」「くるぶしが痛い」といった症状があって受診する人がほとんど。痛みのないケースも多く、親指が人さし指の下に入り込むほど重症化した患者さんもいます。
足の裏は、内側の縦アーチ、外側の縦アーチ、5本の指の付け根を結ぶ横アーチがあります。三つのアーチ構造は、全身の体重を支え、蹴り出す力を生み出し、地面の衝撃を受け止める役割をしています。ところが、加齢、体重の増加、運動不足などによる機能低下で、アーチが崩れ、扁平足になります。

菊池院長は「アーチが押しつぶされると、足の裏が広がった状態になります。そうすると、親指の付け根に負担がかかるようになり、徐々に外側へ出っ張っていきます」と症状が表れるプロセスを説明します。
外反母趾は足指に無理な力がかかると発症しやすく、関節が軟らかく、筋力が弱い女性に多く見られます。つま先の細いハイヒール、学校指定の革靴、仕事で決められた履き物など、幅や高さが自分の足に合っていない靴を履き続けることも原因の一つです。
生活に支障がある場合は、手術で曲がった骨を調整しますが、軽度の場合は足指のストレッチを繰り返し、症状の悪化を防ぐそうです。足裏のアーチをサポートするインソール(足底板)を使って対処する方法もあります。
三つのアーチを維持するために、下北沢病院で患者さんに指導しているセルフケアの方法を教えてもらいました。
〈1〉アーチを引き上げる筋トレ
- イスに座り、足の裏をぺたっと床につける
- つま先を少し外側に向ける
- 小指とかかとを床につけ、親指側を浮かせる
- 足の外側で床をこするように、足首を内側に動かす。左右10回が目安
足の外側で床をこするように、足首を内側に向けて動かす
〈2〉扁平足を防ぐマッサージ
- 座った状態で、足裏をゆっくり反らす
- 足裏をつかむようにして手のひらでよくもみほぐす。片足ずつ1分を目安

〈3〉足指のストレッチとトレーニング
- 足でグーチョキパーを行う
- グーは5本の指をすべて内側に折り込む。足指下の骨が、しっかり隆起するように丸め込む
- チョキは親指だけ立て、残りの指を内側に折り込む。親指を下げるチョキも行うといい
- パーはできるだけ足指を大きく広げる。ヒールをはいた日は特にしっかり行いたい
【むくみ】
ふくらはぎを中心に足が膨張したように、パンパンに張った状態になるのがむくみです。原因は、〈1〉甲状腺機能低下や月経前症候群などの疾患〈2〉「筋ポンプ」の衰え〈3〉扁平足や筋肉の硬直化――の三つが考えられます。
疾患が原因となる〈1〉については、心臓、腎臓、肝臓の障害、更年期障害、リンパ浮腫などの病気が隠れている疑いがあります。採血やエコー検査などで原因を探り、必要な治療を行います。
むくみの原因で最も多いのが〈2〉です。心臓より低い位置にある足は、血流が滞りがちになりますが、ふくらはぎの筋肉がポンプの役割になって血液を押し戻す働きをしています。筋ポンプの機能が低下すると、皮下の脂肪組織の隙間に間質液という水分がとどまっています。
このようなむくみは、足の筋力低下、立ちっぱなしや座りっぱなしによる血行不良、塩分の取り過ぎなどで引き起こされます。むくみの解消には、定期的に体を動かしたり、食生活を見直したりする必要があります。
寝るときにタオルなどを敷いて5センチほど足を上げるようにしたり、足のマッサージをこまめに行ったりすると、むくみが慢性化するのを予防します。筋ポンプの働きを促す弾性ストッキングを活用するのも効果的です。
〈3〉は運動習慣があり、筋肉が付いているにもかかわらず、足の筋ポンプが機能していないケースです。歩くことで足の筋ポンプ機能は高まりますが、扁平足だと歩行の効率が悪くなります。足の内側の筋肉や関節が硬い場合も、血流を押し戻す機能は十分に働きません。筋ポンプの収縮を促すには、ストレッチで関節や筋肉の可動域を広げることが大切です。
【ガサガサ】
角質が分厚いかかとが、ひび割れていたり、ガサガサになったりしている人は少なくありません。菊池院長は「かかとは、ほかの皮膚と構造が異なり、毛穴や皮脂腺がありません。汗腺が多く、汗をかきやすいので、水分が蒸発しやすく、乾燥しやすい部分です。また、体重を支えているところなので、皮膚は厚く、角質は硬くなりやすい特徴があります」と説明します。
新陳代謝の低下など、かかとは加齢に伴う影響が表れやすいともいいます。代謝サイクルの乱れによるガサガサは、保湿の徹底が欠かせません。硬くなったかかとは、保湿剤が浸透しやすいように、最初に専用のやすりで角質を除去します。そして、ワセリン、尿素、サリチル酸などの保湿成分を含んだクリームをこまめに塗ります。
数日続けても、一向に改善が見られない場合は、さらに保湿効果が高い「密封ケア」がおすすめです。クリームを塗った足をラップで覆い、水分の蒸発を防ぐ方法です。ラップをした状態で一晩寝てしまうなどは避けるようにし、一回の密封時間は30分程度にとどめるようにします。

硬い角質を除去するのに、カッターなどで削ごうとする人もいますが、削りすぎてケガをする危険があります。また、足を一定時間、液体に浸けると、数日後に角質がボロボロとはがれ落ちるとうたうケア商品もあります。ただ、使用後に「足がヒリヒリする」と、病院を受診する人もいますので注意が必要です。
アキレス腱は足の急所
健康で美しい足を目指し、下北沢病院では、患者さんたちに「アキレス腱伸ばし」を勧めています。菊池院長は、「アキレス腱が硬くなると、すねを前に倒す動作がしにくくなります。そうすると、足首がうまく曲がらないため、歩くたびに足裏へ負担がかかりアーチがつぶれてしまいます」と注意を促します。

足裏のアーチがつぶれて扁平足になれば、外反母趾やむくみを引き起こす可能性があります。負担が大きくなった足裏の角質は厚くなり、タコやウオノメの原因にもなります。「アキレス腱は、足の健康の急所なのです。アキレス腱伸ばしを毎日のルーチンにすれば、次第に歩き方や足のゆがみが補正され、足の変形、ガサガサ、冷え、むくみなどの予防になり、見た目の改善にもつながるでしょう」と菊池院長はアドバイスします。
そして、菊池院長は「足に対して冷たい人が多い」と訴えます。目につきやすい手や爪、髪の毛のケアにはとても熱心なのに、足をおろそかにしている人が目立つといいます。「健康と美脚のためには1日1回、足を見るようにしてください。皮膚の状態、色や形を観察すると、ちょっとしたトラブルや病気のサインに気づくこともあります」と話しています。
(読売新聞メディア局 鈴木幸大)