中華粥に甘くないチュロス的な「油条」、ダブル炭水化物の喜び

中華圏へ旅をして「いいなぁ」と思うのは、気軽に朝食を食べることができる店がたくさんある、ということです。ホテルの朝食ブッフェも楽しいけれど、ローカルなお店で朝食を食べると、まるでその街に住んでいるかのような気分に。朝から外食を楽しむのが日課となるのです。

外でさっと朝食を摂ることが当たり前であれば、朝の家事は大幅に楽になることでしょう。中華圏の家庭では、日本のように女性にばかり家事負担がのしかかる印象が少ないのは、三食問わず外食がポピュラー、という文化が存在するせいもあるのでは、と思います。

また以前、上海に住む日本人に話を聞いたところ、特に上海地方では、男性が料理などの家事を担う傾向が強いのだそう。伝統的に女尊男卑傾向が強く、

「男性が、『料理が上手いから』なんていう理由で女性を好きになることはないんじゃない?」

という話が印象的でした。女も男も家事は面倒だから外食文化が盛んになった、という面もあるのでしょう。

あっさりした味の中に、脂質と糖質のコク

初めて台湾に行った時、お粥などを供する小さなお店で朝食を食べた時は、わくわくしたものです。ごはん、味噌汁、焼き魚に卵的な和朝食はちと大げさすぎるのではないかとかねて思っていたのですが、かの地におけるお粥やあたたかい豆乳といったメニューは、ちょうど良いあっさり感。‥‥であるのみならず、あっさりしすぎで物足りないと思う人向けに、ボリュームとコクを加えるための「油条ヨウティヤオ」というものがサイドメニューに存在することに、私は感動したのです。

「条」とは、細長い線とか棒状の形態を示します。小麦粉を練って細長く延ばし、二本重ねて揚げたものが油条。揚げパンよりももっとカリッとした、甘くないチュロス的な存在感です。

油条をお粥や豆乳などの椀の中に投入したり浸したりして食べれば、あっさりした味の中に、脂質と糖質のコクが加わります。まだぜん動が始まっていない胃粘膜をお粥や豆乳が優しく包み込むと同時に、

「今日も一日、元気に行こう!」

と油条が脳細胞を鼓舞してくれる感じ。

この感覚は何かに似ている‥‥と、私がお粥をすすりながら考えていたら、わかりました。油条の存在感は、我が国における揚げ玉のそれと似ていたのです。

天ぷらを揚げる時に、油の中に散った衣を回収したものが、揚げ玉。別名は「天かす」であり、まさにそれは天ぷらを揚げた時の「かす」なのです。

おそば屋さんに行った時など、レジ横に「ご自由にお持ちください」とビニール袋に入った天かすが置いてあることがありますが、ご自由に持っていけてしまうのも、それが「かす」であるが故。

そんなフリー天かすを見ると、私はつい手を伸ばさずにはいられないのでした。それと言うのも私は、天ぷらそばよりたぬきそばを愛する天かす好き。プロが揚げた天ぷらの「かす」が無料でいただけるとは、何とありがたいことか、と思うから。

東京において「たぬきそば(もしくはうどん)」とは、そばに天かすをトッピングしたものを言います。あっさりしたそばに、天かすがもたらすそこはかとない油っ気が絶妙で、海老の天ぷらのような“ご立派感”が漂わないのもまたよし。

子供の頃から私はたぬきそばを好んでいたのですが、油条を浮かしたお粥を食した時に、「これは、たぬきそばと同じだ!」

との衝撃を受けたのです。単なるかけそばでは、愛想がなさすぎる。天ぷらそばでは、ご立派すぎる。‥‥という時に、天かすをパラリとトッピングして程よい油分をプラスするという庶民の知恵、というか健気さによって生まれたのが、たぬきそば。中華圏の人々も、お粥や豆乳といったあっさりしたものを食べる時に、同じことを思ったからこそ油条が存在するのですねぇ。というか、もしかして、油条を真似て日本人は天かすを利用するようになったのかも? ‥‥ということで、同じアジアの民として、お粥屋のおばさんの手を握りしめたいような気持ちになったのです。

朝から元気を出すために、“ちょっとした脂肪分”を求める

いやしかし、そう思うのはアジアの民ばかりではないのかもしれぬ。欧米の人がパンにバターを塗ったりチーズをのせたりするのもまた、あっさりした穀物に油脂をプラスしたい、という欲求のあらわれであろう。人類は皆、朝から元気を出すために、“ちょっとした脂肪分”を求めているのだなぁ‥‥と、お粥が半分染みて、ぐじゃカリ状態になった油条をかみ締めつつ、私は思った。

聞くところによると、台湾には油条を具材にした「飯團ファントゥアン」というおにぎりがあるのだそうです。もち米の中に、油条のみならず、肉でんぶや卵など様々なおかずを入れて、握るというよりはくるりと巻いた食べ物なのだとのこと。

ご飯の中に油条を入れると聞いて私が思い出したのは、日本の某コンビニでヒット商品となった、天かす入りの「悪魔のおにぎり」のことでした。揚げた小麦粉をご飯に入れるという悪魔的な組み合わせがもたらす悪魔的な美味しさによるネーミングでしょう。

焼きそばパンとかお好み焼き定食とか、異なる種類の炭水化物を一緒に摂るのは日本人だけだ、との説を聞いたことがあるのですが、油条入りおにぎりもまた、ダブル炭水化物の食品。

「この妙味をわかってくれるのは、やっぱりアジアの民だからですよねぇ!」

と、いつか台湾で飯團を食べる機会があったならば、飯團屋のおばさんかおじさんに駆け寄って、その手をとりたくなるような気がしてなりません。

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酒井順子
酒井 順子(さかい・じゅんこ)
エッセイスト

高校在学中から雑誌にコラムを発表。大学卒業後、広告会社勤務を経て執筆専業となる。「負け犬の遠吠え」で講談社エッセイ賞、婦人公論文芸賞を受賞。11月に「ガラスの50代」(講談社)を出版。

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