女性蔑視引き起こす「有害な男らしさ」とは何か

「有害な男らしさ」という言葉をよく目にするようになった。過剰な男らしさへのこだわりが、性差別につながるほか、男性自身を苦しめることになるというのだ。注目されている背景を探った。

「男らしさの終焉しゅうえん 」「さよなら、男社会」「ボーイズ 男の子はなぜ『男らしく』育つのか」――。相次いで出版されている本の題名だ。最近は、SNSや雑誌の特集でも「男らしさ」をよく見かける。その多くに共通しているのは、男らしさが「有害」または「有毒」になるという内容だ。

「男らしさ」を問う本や冊子の発行が相次いでいる

京都市男女共同参画推進協会と女性への暴力撲滅に取り組むホワイトリボンキャンペーン・ジャパンは昨年11月、「#ボクらは誰も傷つけたくない 『男らしさ』の謎を探る冒険」という小冊子を発行し、無料で配布した。

思春期の男子が苦しむ「男らしさの呪縛」について解説したものだ。同月に開かれた発行記念イベントには、オンラインも含め全国から100人以上が参加。関心の高さをうかがわせた。

京都市男女共同参画推進協会などが昨年11月に開いたイベント(提供写真)

「男の子だから」「男のくせに」――などとよく言われる。男らしさがなぜ、有害になるのか。

男性学の第一人者である京都大名誉教授の伊藤公雄さんによると、「勇敢で強く、たくましい」といった旧来の男らしさへの過剰なこだわりが、「女よりも男が上」などという差別意識を生みだし、女性蔑視べっしや性暴力を引き起こすことがあるという。

また、「有害な男らしさ」を意味する「Toxic Masculinity(トキシック・マスキュリニティ)」という言葉は、1980年代後半に米国で登場した。当時、女性差別主義者の男が女子学生を殺害する事件が発生しており、病的な男性性へのこだわりというような意味で使われていたという。

近年、女性が性被害を告白する「#Me Too」運動が世界的な広がりを見せる中、加害者側である男性自身の問題を考えるうえで、この言葉が改めて注目されるようになっている。

「男の子だから泣かないの」が与える悪影響

一方で、有害な男らしさは、男性自身の心身面にも悪影響を与えかねない。

兵庫県のNPO職員の男性(30)は「押し付けられた男らしさにずっと嫌悪感を抱いてきた」と打ち明ける。男友達との間で笑いながら交わされる性の話題に入るのが苦痛だったが、話を合わせないで「男のくせに」と見下されるのも嫌だったという。「いまでも男ならこうあるべきだという男らしさの呪いを感じている」と話す。

ライフスタイルが大きく変わり、年功序列や終身雇用が当たり前ではなくなった。専業主婦が減り、女性の社会進出がどんどん進んでいる。伊藤さんは「これまで男性基準だった社会が地殻変動を起こしている中で、変化に対応できないまま不安や不満を抱える男性が増えている」と分析する。

自殺や過労死は女性に比べて男性の方が圧倒的に多い。「男の子だから泣かないの」「男なら弱音を吐くな」――などと言われて育った男性は、つらくても誰にも相談できずに苦しんでいるケースもあるという。

伊藤さんは「古い男らしさにとらわれて、何かを奪われたような気持ちになっている男性たちの無用なこだわりを解きほぐすことが求められている」と指摘。有害な男らしさからの解放は、女性差別をなくすためだけでなく、男性にとっても必要だと訴えている。

個性は男女差ではなく、個人差

「有害な男らしさ」に縛られないため、男の子の子育てで親や周囲の大人はどんなことに気を付けたらいいのだろうか。

性暴力事件に詳しい弁護士の太田啓子さんは、近著「これからの男の子たちへ」で、男らしさの弊害と性差別の温床となる子育てのあり方を指摘して話題になった。

太田さんは、男の子が乱暴な振る舞いや落ち着かない行動をしても、「男の子だから仕方がない」「男の子ってバカだよね」などと親らが受け流していることの積み重ねが、性差別や暴力の遠因になりうると主張する。

例えば、スカートめくりやカンチョーと呼ばれる背後から他人のお尻に指を挿すなどの行為を、単なる悪ふざけとして見逃すことは、性暴力の容認につながることもあるという。

男の子が女の子に意地悪をした時に、大人が「あの子のことが好きなんでしょ」とからかうことも良くない。好意があれば相手が嫌な思いをしても構わないと勘違いさせるリスクがあるからだ。「そういう方法では好意が伝わらない。かえって嫌われる、ときちんと教えるべきだ」とする。

大正大准教授(男性学)の田中俊之さんは、男の子に「男ならがんばれ」「男だろ」と言って、無理な努力や我慢をさせる声掛けは避けるべきだと注意を促す。自分の弱さを見せることができなくなるなど、男の子を追い込む結果にしかならないからだ。

田中さんは「好みや向き不向きは、男女という性差よりも個人差の方がはるかに大きい」と指摘。「男だから、女だからと、大人が思い込んでいる『男らしさ』『女らしさ』にあてはめず、その子がどういう子なのかを見てほしい」と話す。

また、テレビなどで暴力や性差別になるような場面を見たときにはその都度、「これはいけないことだよ」と子どもを諭すべきだという。「機会をとらえて子どもが気にしたときに丁寧に伝えていくことが大切」としている。

男の子の母として

【取材を終えて】 小学生の息子は競争心の薄いタイプ。スポーツの試合やテスト結果に落胆し、「男の子なのに……」と口に出してしまったことがあったかもしれない。こうした言葉が、女より男が上という性差別意識につながる可能性があることに改めて気付かされた。

最近も、東京五輪・パラリンピック大会組織委会長による女性に関する問題発言があったばかり。差別や偏見が根を張る社会を少しでも変えていくために、男の子の母である私も気を付けなければいけないのだ。(読売新聞生活部 宮木優美)

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