島本理生「2020年の恋人たち」出版、一緒にいたいのは誰ですか

作家・島本理生さんが、直木賞受賞作「ファーストラヴ」以来、2年半ぶりの長編小説「2020年の恋人たち」(中央公論新社)を出版しました。「自分は今、誰といたいのか」「自分らしく生きるには、何が大切なのか」を考えさせられる、濃密な大人の恋愛小説です。

2018年春から始まる物語の舞台は、東京五輪を控えて再開発が進む東京。主人公の前原葵は、32歳の会社員で、営業の仕事で充実した日々を送っていましたが、同居中の恋人・港が「引きこもり」に。そして、ワインバーを営む母が不慮の事故で亡くなり、落ち着く間もなく、母の店を引き継ぐことになりました。会社員とワインバーの経営者を両立させ、目まぐるしく変化する葵の日常と、次々と現れる「恋人たち」を巡る葛藤が丹念に描かれます。

一緒にいるのに会話のない港、母の店の常連客だった幸村、世慣れた既婚者の瀬名、店を手伝ってくれる年下の松尾、武骨で保護者のような海伊(かい)。葵はさまざまな男たちと向き合いながら、自分にとって何が必要で何がいらないのか、「選択」と「決断」を迫られます。

“私”を生きるという選択

本作は17年6月から19年1月まで、雑誌「婦人公論」で連載されました。連載時のタイトルは「2020年までの恋人たち」。オリンピックイヤーの20年に向けて、日本中が盛り上がりを見せ、物語の結末も、恋愛主導の明るいハッピーエンドでした。ところが、新型コロナウイルスの感染拡大により、世の中の生活様式が一変。島本さんは書籍化に当たり、大幅な改稿を決意します。「20年までの物語」ではなく、「20年からの物語」へ。葵とともに20年をどう迎えるか、そして未来に何をどうつなげていくか。島本さんは、まさに「選択」と「決断」によって、本作を新たに作り上げました。

「先のことは誰にも分からない。その言葉を、これほどまでに実感する今だからこそ、どんな状況の中でも“私”を生きるという選択をした主人公の1年間の物語を、ぜひ読んでもらえたらうれしいです」と、島本さんは本作への思いを語っています。

人生は選択の連続といいますが、人はいつも何かを決めながら生きています。枝分かれした道の前で、悩んで迷って決断します。葵は潔く「いらないもの」を捨てていきますが、一番大切なものは手放しません。選び取った大切なものを胸に、新たな一歩を踏み出します。読後には、葵が選んだ道の先に明るい未来があることを願いたくなるに違いありません。

(読売新聞メディア局編集部 後藤裕子)

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島本理生(しまもと・りお)
作家

 1983年、東京生まれ。2001年『シルエット』で第44回群像新人文学賞優秀作、03年『リトル・バイ・リトル』で第25回野間文芸新人賞、15年『Red』で第21回島清恋愛文学賞、18年『ファーストラヴ』で第159回直木賞を受賞。主な著書に『ナラタージュ』『大きな熊が来る前に、おやすみ。』『あられもない祈り』『夏の裁断』『匿名者のためのスピカ』『イノセント』『あなたの愛人の名前は』『夜はおしまい』などがある。

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