岡田美術館…江戸の天才絵師・若冲、年代ごとの変化を楽しむ

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岡田美術館(神奈川県箱根町)は、2013年10月にオープンした比較的新しい私立美術館。近世・近代の日本画と東アジアの陶磁器を中心に常時450点を展示しており、メディアに取り上げられることも多い。現在は伊藤若冲じゃくちゅう(1716~1800)の作品を紹介する企画展を開催しています。

岡田美術館
美術館の正面では、俵屋宗達の「風神雷神図屏風」をもとに現代の日本画家・福井江太郎氏が創造的に描いた縦12メートル、横30メートルという雄大な壁画「風・刻」(かぜ・とき)が来館者を出迎えてくれる

近年、圧倒的な人気の若冲は京都で活躍した絵師。今回は同館が収蔵している7件をすべて展示しており、年代ごとの移り変わりを楽しむことができます。

細密な表現とディテールへのこだわり

「花卉雄鶏図(かきゆうけいず)」は家業の青物問屋を営みつつ、絵を学んでいた30歳代後半の作品。若冲が得意とする鶏の描写で、真に迫った造形にひかれます。この後、40歳で家督を弟に譲り、本格的に絵の道に専念します。

伊藤若冲
伊藤若冲《花卉雄鶏図》(部分) 江戸時代中期(18世紀中頃)

「孔雀鳳凰図(くじゃくほうおうず)」は、若冲の生誕300年にあたる2016年に、「83年ぶりの大発見」と報道され話題になった一作。代表作「動植綵絵(どうしょくさいえ)」(宮内庁三の丸尚蔵館蔵)の制作が始まった宝暦7年(1757)頃(当時、数えで42歳)より前に描かれたものと考えられ、40歳前後の作と言われています。技巧を凝らした羽の細密な表現にため息。もともとは、広島藩浅野家十二代藩主・浅野長勲(ながこと)の所蔵でした。

伊藤若冲
伊藤若冲《孔雀鳳凰図》(部分)宝暦5年(1755)頃 重要美術品

40歳代後半の作とみられる「梅花小禽図(しょうきんず)」。流れ落ちる水のほとりに梅が咲き、メジロが止まっているさまが描かれています。梅の花弁には、ごく薄い白にさらに濃淡差をつけて奥行きを表しています。しべの黄色は色味の異なる2色を使い分けるなど、ディテールへのこだわりにうなります。

伊藤若冲
伊藤若冲《梅花小禽図》(部分)江戸時代中期(18世紀後半)

展示作品には、それぞれ子ども向けの解説が添えられており、家族連れにはうれしい配慮。大人が読んでも「へぇ~」という小ネタが入っています。小林優子主任学芸員のお手製で、「大人向けの解説を考えるより、何倍も時間がかかりました」といいます。

岡田美術館
子ども向けの解説「こども語」

「雪中雄鶏図」も40歳代後半の作と推定されています。ふと立ち止まり、後ろを振り向く瞬間を描写しつつ、時間の流れも感じます。絹地の裏側にも絵具を塗る「裏彩色」という技法を使っており、羽の膨らみや量感を表現しています。

同時代の「笠に鶏図」は、斜めに置かれた編み笠の上に、微妙なバランスで立つ鶏が描かれています。長く伸びた尾羽は一筆のように見えて、淡墨線の上に濃墨線を重ねています。翼は羽と羽の間に白い筋が浮かび上がっており、「筋目描」という若冲得意の技法が使われ、墨絵でも様々な超絶技巧が駆使されています。

伊藤若冲
左・伊藤若冲《雪中雄鶏図》(部分)江戸時代中期(18世紀後半)、右・伊藤若冲《笠に鶏図》(部分)江戸時代中期(18世紀後半)

老いても衰えることのない技巧

輝く月を背景に、舌を見せて鳴きながら落ちていく鳥が描かれた「月に叭々鳥図(つきにははちょうず)」。中国南部や東南アジアが原産で、日本にも生息するムクドリ科の鳥で、ハッカチョウといいます。背中に広がる白い文様が縁起のよい「八」の字に見えることから、「叭々鳥」ともいい、中国では大変に好まれました。白い紙の素地を塗り残して月を表現しており、ごく細い輪郭線の周囲に淡墨の筆致を水平に連ねるという、手間をかけた手法。急降下する鳥とは、どういうメッセージが込められた意匠なのか、想像は尽きません。

伊藤若冲
伊藤若冲《月に叭々鳥図》(部分)江戸時代中期(18世紀後半)

最晩年の大作「三十六歌仙図屏風(びょうぶ)」は、「米斗翁(べいとおう)八十一歳画」の署名から、「米斗翁」と称した若冲の数え八十一歳の作と分かります。藤原公任(ふじわらのきんとう)が秀歌を集めた『三十六人撰』の歌人を描くもので、鎌倉時代以降、数々の作品が残されている題材。歌人の作歌と絵柄の突合せなどで柿本人麻呂、大伴家持、紀貫之、在原業平、伊勢、小野小町らが想定できます。ユーモアあふれ、筆勢を生かしたおおらかな表現は、展覧会タイトルの「画遊人」そのもの。その中でも衣装の文様や器物の細部まで描き込んでおり、老いても衰えることのない技巧を味わえます。

伊藤若冲
伊藤若冲《三十六歌仙図屏風》江戸時代 寛政8年(1796)

今展は尾形光琳(こうりん)や円山応挙(おうきょ)、曾我蕭白(しょうはく)らの作品と比較しながら楽しむ趣向です。

尾形光琳
尾形光琳《菊図屏風》のうち左隻部分 江戸時代前期 18世紀初頭
円山応挙
円山応挙《三美人図のうち(太夫図部分)》江戸時代 天明3年(1783) 重要美術品

広々とした展示室で、じっくりと作品と向き合うのは楽しい時間でした。
※作品はすべて、岡田美術館蔵

(読売新聞東京本社事業局美術展ナビ編集班 岡部匡志)

没後220年 画遊人・若冲 ―光琳・応挙・蕭白とともに―

場所:岡田美術館(神奈川県足柄下郡箱根町小涌谷493-1)
会期:2021年3月28日(日)まで
開館時間:午前9時~午後5時(入館は4時30分まで)
詳しくは同館ホームページへ。
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