働く女性がコロナでホテル暮らしを始めるワケ、長期滞在はお得?

新型コロナウイルスの感染拡大でリモートワークが普及し、リゾート地などで余暇を楽しみながらリモートワークを行う「ワーケーション」も広がりを見せています。こうした中、住まいを自宅からホテルなどの宿泊施設にシフトする人が出始めています。インバウンド(訪日外国人客)などが激減し、苦境が続く宿泊業界でも、リーズナブルな料金で長期滞在できる宿泊プランを用意するホテルが増えてきました。お金持ちのイメージが強い「ホテル暮らし」は、コロナ禍をきっかけに、ごく普通の「働く女性」にも浸透していくのでしょうか。

都内と他地域の宿に半月ずつ滞在

都内のIT企業に勤務する「やよぴ」さん(29)は、9月から本格的なホテル暮らしを始め、日々の生活の様子をツイッターで情報発信しています。

きっかけは、勤務先で5月、社員がほぼ毎日リモートで仕事をする「フルリモートワーク」が導入されたことでした。ちょうど賃貸マンションの契約更新の時期を迎え、引っ越しも念頭にインターネットで賃貸物件を探したところ、2週間から1か月単位の契約で宿泊できるホテルがあるのを偶然知り、「ホテル暮らしも選択肢としてありかも」と考えました。

ホテル暮らしが可能かどうか単身赴任で既にホテル暮らしをしていた友人に相談したり、1泊2日や2泊3日のホテル滞在を何度か繰り返したり。その結果、ホテル暮らしを決意したやよぴさんは、自宅マンションを解約して、住民票を実家のある愛知県に移しました。

 「今は、1か月のうち半分ぐらいは都内のホテルに宿泊して、残りの半分は他の地域に行っています。行ってみたい場所に1週間ずつ滞在するスタイルで、これまで京都や沖縄、鳥取などに行きました。仕事は、ホテルの自室やラウンジなどでリモートワークです」とやよぴさん。地方のホテルに滞在している時には、昼休みに評判の名物料理を食べに行くことを楽しみにしています。

月々の出費はマンション暮らしより減少

気になるのは、月々の費用。やよぴさんはホテル暮らしをする前、東京・渋谷区内の2LDKの賃貸マンションに友人と住んでいました。「どんなホテルに泊まるかで月々の宿泊代は増減しますが、実は、マンションの家賃の私が支払っていた分とそんなに大きく変わらないんです。むしろ、ホテル暮らしを始めてから無駄なものを買わなくなったので、月々の出費の合計は、マンション暮らしの時より減っています」と打ち明けます。

9月から本格的にホテル暮らしを始めた「やよぴ」さん

ホテル暮らしだと、宿泊料金以外の水道・光熱費の支払いは不要で、部屋に備わっているトイレットペーパーやシャンプーなども自分で購入する必要はありません。ホテル間の移動を楽にするため、持ち運ぶ荷物はスーツケース1個分だけ。衣服や化粧品などは限られた数しか持ち運べないので、あまり買わなくなり、その結果、トータルの出費が減ったといいます。

やよぴさんは、「今は、様々なエリアでいろんな宿を体験してみたいので、1週間程度で宿を変えていますが、今後は2週間や1か月単位で同じホテルに住むことも考えています」と話します。やよぴさんには、夫婦ともにリモートワークで、別々にホテル暮らしをしている友人がいます。「1か月のうち1〜2週間は同じエリアのホテルに滞在して、夫婦一緒に過ごすんです。お互いに理解し合っていれば、そんな生活も楽しそうだなって」

もっとも、ホテル暮らしは、誰にでも合うとは限らないようです。「『ホテルを移るたびに、ベッドが変わるのに慣れない』『頻繁に場所や環境が変わることがどうも落ち着かない』と感じる人もいると思います。興味があっても、自宅をいきなり解約したりせずに、まずは自宅近くのホテルに数日間ステイしたり、ワーケーションをしたりして楽しむことからおすすめします」

ワンルームより低価格で長期宿泊

宿泊業界では、長期滞在者向けのプランを提供する動きが加速しています。

ゲストハウス型ホテル「GRIDS(グリッズ)」を運営する「ABアコモ」(本社・東京)は11月から、運営する4施設のうち3施設で、長期宿泊者向けプランを提供しています。「GRIDS東京 上野駅前 ホテル&ホステル」(東京都台東区)では、1か月間宿泊する場合の利用料金が1人・6万7500円(税別)から。賃貸物件情報サイトによると、台東区内のワンルームマンションの家賃相場は8万5000円程度で、GRIDSは格段に安い価格設定になっています。

「GRIDS東京 上野駅前 ホテル&ホステル」の客室

GRIDSでは、宿泊客の約8割がインバウンドでしたが、コロナ禍によってほぼ消失。一方で、「コロナ禍で働き方が大きく変化したこともあって、これまであまりお見受けしなかったワーケーション利用のお客様や、ホステルを短期住まいとするお客様が増えたと感じており、宿泊施設にとっては数少ない追い風と考えた」(ABアコモ運営事業本部の岡新司さん)そうです。

ホテル暮らしの人は自炊のニーズが高いため、1階カフェスペースのキッチンを長期宿泊客に開放し、食器類の貸し出しなども行うことにしました。長期宿泊客はホテル側にとっても、客室の稼働率を安定的に確保できるうえ、客室の清掃や備品交換の回数が減り、チェックイン業務なども少なくなるため、コスト削減効果が期待できるといいます。

関西圏でホテルを運営する「京阪ホテルズ&リゾーツ」(本社・京都市)も11月から、「京都タワーホテル」(京都市)や「京都タワーホテルアネックス」(同)などで長期宿泊プランの提供を開始しました。京都タワーホテルアネックスの1か月間の宿泊料金は、最も安い場合で1室・9万8000円(税別)から。

ヒルトン東京お台場(東京都港区)は12月から、東京湾岸のパノラマビューを楽しめる部屋でリモートワークができる2週間以上6か月以内の長期宿泊プランの提供を始めています。

長期に特化した宿泊予約サイトも

IT会社の「メトロエンジン」(本社・東京)と「BEENOS」(同)は11月、長期予約に特化した宿泊予約サイト「マンスリーホテル」を本格的にスタートさせました。現在、全国約400の宿泊施設と提携しており、同じ施設で最長6か月間の宿泊予約が可能。宿泊料金は、ホテルの公式サイトなどで予約する場合よりも2割程度安くなっています。提携施設は、1年以内に約5000施設にまで増やすのが目標です。

これまでのところ、マンスリーホテルで宿泊予約をした人の約7割が女性。メトロエンジンCEO(最高経営責任者)の田中良介さんは「駅前のホテルにワンルームの家賃より安い料金で泊まれるうえ、セキュリティーがしっかりしていることも女性に受けていると実感しています」と話します。

宿泊業界向けに価格設定システムなどを提供している同社の調査によると、コロナ禍にもかかわらず、全国の宿泊施設の客室数は、今年1月と比べて約3%増加しています。「インバウンドが伸びていた時期に建設が計画されたホテルが完成して稼動し始めたからです。あと何年かは客室が供給過多の状態が続くと見られており、ホテル側には長期滞在者で空室を埋めたいという思いがあります」と田中さん。

住居や乗り物などを貸し借りしたり、共有したりして有効活用する「シェアリングエコノミー」の普及や、コロナ禍に伴うライフスタイルの変化といった社会状況を踏まえて、田中さんは「『住む場所を固定しない』という考え方が広がり、賃貸住宅よりも便利なホテルに住みたいという人は、いっそう増えるのではないか」と分析しています。

(取材/読売新聞メディア局 田中昌義)

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