千葉県佐倉市の国立歴史民俗博物館で企画展示「性差(ジェンダー)の日本史」が、10月6日(火)から開催されます。日本の歴史で、「なぜ、男女を区別するようになったのか?」「男女の区分のなかで、人々はどう生きてきたのか」を280点以上の豊富な資料を通して問う内容で、同館ではジェンダーをテーマとする初めての企画展です。
日本社会の歴史の中でジェンダーが持つ意味
女性の王や官僚が当たり前だった古代から、徐々に政治や職業との関わり方が変容した中世から近世を経て、明治憲法体制下での女性排除、そして現在。こうした流れを踏まえ、ジェンダーが日本社会の歴史の中で、どんな意味を持ってきたのかを問う企画になっています。ジェンダーにとらわれず、誰もが自分らしく生きられる社会を築くには、無意識のうちに私たちを強くとらえているジェンダーの姿を、まずつかむことが肝要なのではないでしょうか。

展示は「古代社会の男女」「中世の政治空間と男女」「中世の家と宗教」「仕事とくらしのジェンダー―中世から近世へ―」「分離から排除へ―近世・近代の政治空間とジェンダーの変容―」「性の売買と社会」「仕事とくらしのジェンダー―近代から現代へ―」の7章。各時代のジェンダー観や、女性の勤労観などを伝える貴重な資料が数多く展示されています。
古代女官の威光
因幡国(鳥取県)出身の女官、伊福吉部徳足比売臣(いおきべのとこたりひめのおみ)の骨蔵器。蓋には放射状に16行にわたって銘文が計108文字彫られています。終わりから4行目では、「墓所を壊すことなかれ」と末代の豪族たちを戒めており、徳足の威光をうかがわせます。

戦国時代の女たち
「寿桂尼朱印状」は、「女戦国大名」として知られる寿桂尼(今川氏親の妻、義元の母)が出した文書。文頭に朱印が押されていて、仮名交じりで書かれています。男女が官人としてともに奉仕した古代から、女性官僚が徐々に「女房」として御簾の向こう側の存在になっていくのが中世。一方、政治空間としての「家」に着目すると、女性も政治的権能を発揮していたことが分かります。

「東山名所図屏風」は京都東山の名所、特に清水寺を大きく描いた参詣曼荼羅的な屏風。女性の生業や参詣の様子も多く描かれており、清水の舞台の中央には、参詣して喜捨を施す女性家族の姿が見られます。屏風には、様々な職種の女性が描かれています。

仕事とくらしのなかの男女
江戸時代から明治にかけて、髪結は男性の仕事。女髪結は取り締まりを受ける非合法の職業でした。
性の売買については特に1章をもうけ、遊女として生きた女性たちの日記や手紙も紹介しつつ、男女の区分や位置づけを深く反映する性の歴史を振り返ります。
近代洋画の創始者、高橋由一の「美人(花魁)」は、新吉原遊廓の稲本屋の遊女・小稲の肖像画です。モデルになった小稲は、完成したこの絵を見て泣いて怒ったと伝えられます。稲本屋抱え遊女のトップとして、店と自身の宣伝に努めてきた小稲には、リアルを追求する絵が、自らの努力を台無しにするものに見えたのでしょう。

1849(嘉永2)年、新吉原遊廓「梅本屋佐吉」の遊女たち16人が、楼主・佐吉の非道を訴えるため、集団で放火し自首するという事件が起き、江戸で評判となりました。梅本屋佐吉お抱えの遊女・桜木の日記「おぼへ長」は、この事件の裁判調書にとじ込まれていました。桜木の日記は、梅本屋における遊女たちの過酷な生活を物語っています。

日本で初めてユネスコの「世界の記憶」に指定された山本作兵衛の炭鉱記録画「入坑(母子)」など3点を出品。坑道の天井が低く、母親が背負うと幼児の頭を打ち付けるため、10歳未満の息子に背負わせていました。子守りのため入坑する息子は、学校を長期欠席したそうです。

戦後の占領下、GHQ/SCAP(連合国軍最高司令官総司令部)経済科学局のマリア・ミード・カラスと、日本の労働省婦人少年局や都道府県の婦人少年局地方職員室の女性公務員たちは、性差別廃止をめざす活動を通して深い絆を結んでいました。

展示ではこのように政治をはじめ、仕事とくらしの場面などの「男」「女」の区別についてその変遷をたどっていきます。
(読売新聞東京本社事業局専門委員・岡部匡志)
企画展示『性差(ジェンダー)の日本史』
開催期間:2020年10月6日(火)~12月6日(日)
会場:国立歴史民俗博物館(千葉県佐倉市城内町 117) 企画展示室A・B
料金:一般1000円/大学生500円
※総合展示もあわせてご覧になれます。
※高校生以下は入館料無料です。
※高校生及び大学生の方は、学生証等を提示してください。(専門学校生など高校生及び大学生に相当する生徒、学生も同様です)
※障がい者手帳等保持者は手帳提示により、介助者と共に入館が無料です。
※半券の提示で当日に限り、くらしの植物苑にご入場できます。
開館時間:9時30分~16時30分(入館は16時00分まで)
※開館日・開館時間を変更する場合があります。
休館日:毎週月曜日(休日にあたる場合は開館し、翌日休館)
主催:大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 国立歴史民俗博物館