ごはんが進むドライチキンカレー
【材料・5~6人分】
鶏手羽元 16本(1100g)
水 500cc
玉ねぎ(くし形切り) 中2個
トマト(ざく切り) 中4個
塩 小さじ2
植物油 大さじ3
ニンニク(すりおろし) 1片
ショウガ(すりおろし) 1片
カレー粉 大さじ3
【作り方】
鍋に鶏肉と水を加えて火にかけ、沸騰したらアクを引く。玉ねぎとトマト、塩を加えてふたを開けたままグツグツ煮る。煮汁がかなり減って鶏肉がほろっとしたら、油とニンニク、ショウガ、カレー粉を加えて水分を飛ばすようにいためる。必要なら塩で味を調整する。
いちばん好きなカレーを作っていいよ、と言われたら、チキンカレーを作る。いちばん好きな肉は?と聞かれたら「豚肉です」と答えるくせに、カレーにするならチキンがいい。調理方法を選ばないから、どんなふうに作ってもそれなりにおいしくなってしまう自由さを気に入っているのだ。
鶏肉はいつも丸鶏を買って自分で切り分け、部位ごとに気が向いた加熱方法で調理することにしている。けれど、常にスーパーで丸鶏が手に入るわけではない。だから、骨付きの鶏肉を使いたいと思ったら、手羽元のパックなんかを買ってくるのが楽だ。鍋に入れて水を注ぎ、いきなり強火にかける。
グツグツ煮立ってくると同時に白いアクも浮いてくるから、こいつを取り除く。それから、無造作に切った玉ねぎとトマトをぶち込んで、強めの中火にしてグツグツとやるんだ。塩も加えてね。
このカレーの特徴は、材料が極めてシンプルであること。「え? これだけしか使わないの!?」と驚かれるようなラインアップ。うそだと思うなら、鍋を火にかける前にすべての材料を並べてみるといい。
調理法を選ばないのが鶏肉の良さなのだから、チキンカレーを作るときにはできる限り、いつもとは違う作り方に挑戦したい。「ライバルは昨日の自分」みたいな調子でさ、今日しかやらない方法を編み出すのさ。
グツグツと鶏肉、玉ねぎ、トマトを煮込んでいる時間は意外と長い。なにしろ、ひたひたになるまで加えた水が蒸発して見えなくなるくらいまで煮込み、煮詰めるのだから。ゆうに1時間以上はかかるかな。でも、その1時間は自由時間でもある。鍋を気にしながら自分の好きなことに向き合うのさ。
今の僕なら、ネットで将棋の中継を見るだろうね。気になる対局が目白押しだから、1時間はあっという間だ。
崇拝する棋士に故・升田幸三という人がいる。この人の指す将棋は独創性にあふれ、革新的だった。昔の棋士だが、彼の残した棋譜は現代にも通用すると言われている。彼の残した言葉で有名なのが、「新手一生」である。誰も想像しないような新しい一手を死ぬまで編み出し続ける、という覚悟を表している。そう、僕がカレーを作るときのポリシーは、彼の影響からくるものだ。
いつだって誰もやったことのない作り方でカレーを作りたい。だから、僕は肉と野菜をいきなり鍋で煮込んだのだ。通常、スパイスで作るカレーの基本ルールは、「いためてから煮込む」である。ところが、このレシピは「煮込んでからいためる」。まったくアベコベな作り方だけど、ちゃんと勝算はある。
煮汁が順調に減り、鶏肉がほろほろになってきた。木べらで押すと骨が顔をのぞかせるほどになれば、「煮込み」の終わりを意味する。鍋中には濃厚な味わいの煮物ができた。さて、ここから「いためる」のはじまりだ。
油を注ぎ、ここで初めて“香り”を加えていく。ニンニクとショウガ、カレーパウダーを加えて鍋中全体を大きくかき混ぜる。ジュワジュワという音を立て、鶏肉と玉ねぎ、トマトが混然一体となっていく……と同時に、香ばしいにおいが立ち上る。ごはんに合うことが約束されたような香りがキッチンに漂い始めるのだ。
僕が「東京カリ~番長」という出張料理集団を立ち上げ、カレー活動を始めたのがちょうど20年前の9月25日だった。そう、まもなく20周年を迎えようとしている。それなのに20年間、一度も思いつかなかった調理方法で今、僕はチキンカレーを作っている。「水野仁輔」の中の「升田幸三」が、このカレーを作らせているのだと思うとドキドキする。
目の前にできあがったカレーを僕は「逆回転カレー」と名付けた。従来の調理プロセスの定跡を疑い、あえてそれを逆回転させたカレー。水分が飛んでしっとりしたカレーを、ごはんの横に添える。鶏肉のうま味がソースに溶け出し、そのソースが煮詰まって深まり、後半に加えた香りのアイテムが口の中で舞い踊るように広がっていく。
うん、うまいじゃないか。ごはんが進むこと進むこと。これがいけるならあれもいけそうだな。口に運びながら独りニマニマとする。振り返れば20年なんて、あっという間だ。これから先、30年後も40年後も僕は新手を編み出し続けたいと思っている。
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