アフガニスタンで医療支援や農業支援に取り組み、昨年12月、武装集団の凶弾に倒れたNGO「ペシャワール会」現地代表の中村哲医師(享年73歳)にささげたいと、シンガーソングライターの蘭華さんが、シングル曲「愛を耕す人」を配信リリースしました。遠い異国の地で多くの人命を救った中村医師の生き方に心を打たれ、命の尊さと無償の愛をテーマに作り上げた楽曲。新型コロナウイルスの猛威と日夜闘う医療従事者にも届けたいという蘭華さんに、曲に込めた思いなどを聞きました。
ライブの直前に曲づくりを決意
「自身の損得を顧みず、『人々の命を救いたい』という一心で尊い活動を続けてこられた。そんな中村さんの努力と苦難の日々をイメージして、曲を書き上げました」。蘭華さんは、そう振り返ります。
中村さんは1980年代に、パキスタン北西部のペシャワルでハンセン病患者の診療を開始。その後、アフガンにも医療活動を広げ、2000年以降は、大干ばつに見舞われたアフガンで、井戸や農業用水路の整備などを手がけました。「愛を耕す人」は、アフガンの荒廃した土地に緑の恵みをもたらした中村さんへの思いを、壮麗なストリングスの調べに乗せて歌ったレクイエム(鎮魂歌)です。
昨年12月4日、アフガン東部ナンガルハル州で、中村さんを乗せた車が武装集団に銃撃され、搬送先の病院で中村さんの死亡が確認されたと報じられました。「そのニュースを見るまで、中村さんのことは存じ上げなかったんです。でも、それから数日間、事件を伝えるニュースを見るたびに、『こんな素晴らしい方が、志半ばで命を失ってしまっただなんて……』という思いが募り、涙が止まりませんでした」
中村さんの著書を読み、生前の中村さんの活動を紹介するドキュメンタリー番組を見て、世界平和を希求するその姿に、強い共感を覚えました。
ちょうど、クリスマスライブを間近に控えていた時で、中村さんにささげる曲を作ってライブで歌おうと決意しました。「実は、いろいろと思い悩むことがあって、それまでの1年間、曲を一つも作れなかったんです。ところが、『中村さんの歌を書きたい』という気持ちが強くなったら、詞もメロディーもスラスラと頭に浮かんできて。一晩で曲が出来上がりました」
ライブで涙ながらに披露した曲は、ファンの間で評判に。その後押しも受けて、シングル曲としてリリースされることになりました。ジャケット写真では、アフガンの大地を背景に、遠くを見つめる中村さんの横顔がクローズアップされています。ペシャワール会からの提供写真で、「年月がたっても中村さんの存在を風化させたくない」という蘭華さんの思いから、中村さんの写真をジャケットに使うことにしたそうです。

大きなリスクを背負いながらも救命活動に心血を注いだ中村さんの姿は、昼夜を問わずに新型コロナウイルス感染症の治療に当たっている医療従事者の姿と重なると、蘭華さんは話します。「今は私たちもライブ活動ができず、苦しい状況ですが、患者の命を救うために尽力されている医療従事者の皆さんに、感謝と敬意を込めてこの曲を届けられたら」
様々な音楽の要素をミックス
2015年7月にメジャーデビュー。16年9月にリリースしたファーストアルバム「東京恋文」は、「第58回 輝く!日本レコード大賞」で企画賞を受賞しました。Jポップと歌謡曲を融合し、和楽器や中国伝統の弦楽器「二胡」などを取り入れたオリエンタルなサウンドが、幅広い層に支持されています。
「カラオケ好きの両親から、1960~80年代の歌謡曲やフォークソングなどを聞かされて育ちました。10代の頃は、リズム&ブルースやヒップホップなどが好きで、19歳の時に留学した中国では、現地の民族音楽と出会いました。今の私の音楽には、そうした様々な要素が全部ミックスされているのかなと」
今後は、他のアーティストへの楽曲提供にも力を入れたいといいます。「すでに100曲ぐらいのストックがあります。誰に曲を提供したいか? そうですね。もしも生きていらっしゃったなら、美空ひばりさんに提供したかったです(笑)」
(取材/読売新聞メディア局 田中昌義)
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