【ストーリー】
1986年3月1日。高校生の弥生(波瑠さん)と太郎(成田さん)はお互いにひかれ合いますが、親友のサクラ(杉咲花さん)を病気で亡くしたことで想いを伝えられずに、別々の人生を歩きます。離婚を経験し、震災に巻き込まれ、配偶者を亡くし――。昭和、平成、令和と時代をまたぎ、運命に翻弄(ほんろう)されながらも、支え合って生きてきた弥生と太郎の30年が描かれています。
波瑠さんと成田凌さんが、3月20日(金・祝)から全国公開される恋愛映画「弥生、三月 -君を愛した30年-」で、運命によって結ばれた男女を演じます。これが初共演となる二人に、本作の見どころや魅力について聞きました。
言葉をかわさない日も、二人の思いはつながっていた
―――波瑠さんは、出演のオファーが来たときに「この役を背負えるのか?」という迷いがあったそうですが、遊川和彦監督の説得で出演を決めたとうかがいました。
波瑠 脚本を読ませていただいたら、読み応えのあるステキなお話でした。だからこそ、「私でいいのだろうか……」と迷ったんです。一人の女性の30年もの人生を背負って、最後まで全うできるのかどうか、自信が持てませんでした。でも、監督にお会いした時、「弥生をあなたにやってほしい」と説得されたんです。熱い思いを話してくださる方と仕事がしたいと考え始めて、気がついたら「やらせていただきます」と答えていました。
―――成田さんが太郎(サンタ)役を演じたいと思われたのはなぜですか。
成田 僕はオーディションでこの役に決まったんです。脚本を読んで、シンプルに面白いと感じました。サンタには大胆なのか繊細なのかわからない不思議な魅力があって、大変だけど演じてみたくなったんです。
―――お二人は初共演だそうですが、お互いの印象を教えてください。
波瑠 最初にお会いしたのはリハーサルでした。それぞれ、衣装合わせがあって、9時間くらいかかったんです。弥生としての課題も多くて、消化するのにいっぱいいっぱいでした。成田さんはサッカーのシーンの練習もあるし、「お互い大変ですね」って、心の中で励まし合いました。
成田 3月1日から31日まで、31のエピソードの撮影があって、ワンシーン、ワンシーンが必死でした。言葉を交わさない日も、二人の思いはつながっていました。すでに、同志という感じでした。
―――お互いに「ステキだな」と思ったところは?
成田 波瑠さんは、「そこにいてくれるだけでいい」という感じでした。波瑠さんの存在だけで、作品が成り立ってしまう。いい意味での緊張感があって、ふわっとしてないんです。そういう人が真ん中にいると現場がうまく回る。主役ってそういうことなんだと思いました。
波瑠 そんなことないです。「自分がもっとちゃんとできれば」と思ったことはたくさんありました。成田さんは、人の懐に入るのがうまいんです。そして、みんなにかわいがられる。サンタの魅力でもあるし、成田さん自身の魅力でもある。応援してくれる人を増やしていくのって、大事なことですし、私の持っていない強みだと思います。
成田 そんなこと、考えたこともなかったです。でも、スタッフさんの顔と名前は早く覚えるようにしました。「照明さん」って呼ぶより、名前を呼んだ方が親しくなれますよね。
16歳も50歳も心は変わらない
―――16歳から50歳までを演じられましたが、どのようにアプローチしましたか。
波瑠 見た目の変化については、衣装やメイクで工夫しました。例えば、衣装の下に綿の入ったインナーを着て体形の変化を表したり、メイクで少しシワを入れたり。特殊メイクもないし、できることは限られていました。見た目の年齢を意識するより、弥生の内面に踏み込むようにしました。弥生は10代で、親友のサクラを亡くします。そのことが、ずっと心に残っている。不安なときは、サクラの声が聞こえるかもしれない。その後、夫とも死別してしまいます。20歳のとき、30歳のとき、弥生という女性がどんな思いを抱いて、どんなふうに生きて、変わっていくのか。サクラとの思い出やサンタへの気持ちをたくさん積み上げて、映画では描かれていない空白の時間を埋めていきました。それが、重ねた年齢と共鳴できればいいなと思って、演じました。

成田 高校生を演じた同じ日に、50歳を演じることもありました。心も体も準備が追いつかなくて。衣装合わせに時間をかけて、メイクの力を借りながら演じました。でも、演じながら感じたのは、16歳も50歳も心は変わらないということ。サンタはいつもサンタなんです。一本筋が通っていれば、サンタという一人の人間を演じられる。16歳だからこうしようとか、50歳ならこうだとか、あまり考えなかったですね。そのときそのときのサンタの心を大事にしました。
―――高校生のとき、弥生とサンタは思いを寄せ合っていましたが、お互いに気持ちを伝えられませんでした。同じ立場なら、どうしますか。
波瑠 弥生にとって、サンタとの関係はサクラありきだったんです。サクラがいたから、サンタが魅力的に見えた。3人で一つの輪だったので、サクラ抜きには考えられないんです。私だったら、友だちの思いを無視できないし、かといって、自分の気持ちに蓋をしたくない。どちらかを選ぶのは、すごく難しいですね。たぶん、頭を抱えると思います。
成田 僕は逆の立場になったことがあります。学生時代に友だちが、僕の付き合っていた女性と「付き合いたい」と言ってきた。内心、「おおっ!」と思いましたが、「いいよ」って答えました。少しショックだったけど、時間が解決してくれることってある。だから、思ったことを言っちゃってもいいのかな。
心でするキャッチボールに感動
―――見どころのシーンを教えてください。
波瑠 この映画は、どのシーンも山場で、すべてが見どころです。中でも私が一番印象的だったのは、サンタが息子のあゆむくんに会いに行くシーンでした。サンタとあゆむくんがボールを蹴って、返して、また蹴って……。心でするキャッチボールみたいで、心温まるシーンです。弥生として応援している私も感動してしまいました。心が通じ合っていく過程が目で見える形で表現されていて、すごく印象的でした。
成田 僕が一番グッときたのは、サクラが残したボイスメッセージを弥生が聞くところです。学生時代、サクラから受け取った「思い」を、もう一度渡されたような感覚でした。すごくいいシーンで、僕も映画の中で聞きたかったな……。
―――サクラの病室に行ったとき、「ずっと変わらないで」と言われます。ずっと変わらないでいたいことって何ですか。
波瑠 自分の信念に従える人間でいたいと思います。信念は時によって変わることもあります。でも、その時々にある自分の「軸」みたいなものに、ウソをつきたくない。それを貫ける自分でいたいです。
成田 僕は、父の日にナイキの真っ白いスニーカーを贈っていて、それをずっと続けたいなと思っています。父は「もったいない」と言って、履かないんです。スニーカーがどんどんたまっていくんですけど、それもいいかなと思っています。
―――弥生もサンタも、人生のある時点で挫折を味わいます。人は誰でも、思い通りにいかないことがあると思います。そんな時、どう立ち向かいますか。
波瑠 私は、これまでいろいろな挫折を繰り返しています。一番の挫折は、仕事へのモチベーションが低下して、お芝居に向き合えなくなったこと。でも、元気をもらうのも仕事の現場なんです。現場で落ち込んで、現場で元気をもらって、作品に還元します。挫折は多い方がいいと思います。そのたびに乗り越えて、経験値が増えていきますから。「今度もきっと大丈夫」と思えた方がいいですよね。
成田 僕は、なるべく挫折したことや失敗したことを忘れないようにしています。記憶は時間とともに徐々に薄れていってしまうので、同じことを繰り返さないためにも心に焼き付けています。忘れなければ、同じミスをしないから。
(取材/読売新聞メディア局 後藤裕子、撮影/金井尭子)
【映画情報】

弥生、三月 -君を愛した30年-
1986年3月1日。運命的に出会った弥生と太郎。互いにひかれ合いながらも、親友・サクラを病気で亡くしたことで想いを伝えられずに、別々の人生を選んだ二人。子供の頃に描いた夢に挑み、結婚相手を見つけ子供が生まれ……。しかし、人生は順風満帆ではなく、離婚を経験し、災害に巻き込まれ、配偶者を亡くし、あの時、抱いていた夢は断たれてしまう。希望を見失い、人生のどん底に突き落とされていた時、30年の歳月を超えて、亡き友・サクラからのメッセージが届く――。
脚本・監督:遊川和彦
キャスト:波瑠、成田凌、杉咲花、岡田健史、小澤征悦、岡本玲、夙川アトム、矢島健一、奥貫薫、橋爪淳、黒木瞳
製作:電通 東宝
制作プロダクション:ビデオプランニング
配給:東宝
公式サイト:https://yayoi-movie.jp/
(c)2020「弥生、三月」製作委員会