南アフリカは、ワイン好きをも魅了する国。日本で南アフリカ産ワインが注目されるようになったのはここ数年ですが、ワイン造りの歴史は360年以上で、世界有数の生産国として知られています。訪れたのは、南部のリゾート都市ケープタウンから近いワインランド。その地名からワインのテーマパークを想像してしまいますが、ここは多くのワイナリーが点在する一大生産地です。グルメの宝庫でもあるワインランドで、ワインと美食を満喫しました。
美しい風景を楽しみながら、ワイナリーをハシゴする
大都会のケープタウンから車で約1時間。山々を背景に、一面に広がるブドウ畑が見えてきました。その合間に点々と見えるのは、ワイナリーの瀟洒(しょうしゃ)な建物や門。どこまで走っても、この美しい風景が続きます。
ここワインランドには、約700軒ものワイナリーが点在しています。そのスタイルは、家族経営の小さなものから、大規模メーカー、洗練されたデザイナーズブランドまでと様々。ワインを造るだけでなく、ラグジュアリーな宿泊施設やレストラン、スパを併設しているところもあります。ワイン通はもちろん、ワインに詳しくなくても、バカンスやグルメを楽しませてくれるのが、ワインランドなのです。

ここで極上のワインが育つ理由は、気候や土壌にあります。日差しが強く、昼は気温が高い一方、大西洋とインド洋がぶつかって発生する霧が朝晩の気温を下げることから、寒暖差が生まれ、ワインに適したブドウが育つといいます。また、土は水はけが良く、適度な水分を含んでいることから、高品質なブドウを生み出しています。
環境や人に優しいワインがあるのも、ワインランドならでは。夏になると、海からケープドクターと呼ばれる強い風が吹き上げ、ブドウの木につくホコリや害虫を落とすため、農薬に頼ることなくワインを生産できるのです。そのため、一般的には高価なオーガニックワインも、ワインランド産なら比較的リーズナブルに楽しめます。ワインを購入する際に参考になるのが、ボトルネックに貼られた「サステイナビリティー認定シール」。これは、ブドウがボトルに記載されている地域で100%収穫されたこと、化学農薬の使用を極力抑えていることを証明しています。

さて、ワインランドと一口に言ってもそのエリアは広く、多くの街と産地があります。フランシュフックやステレンボッシュ、パール、タルバッハなどはケープタウンから車で1時間~1時間半ほどとアクセスがよいので、ホテルのフロントでタクシーをチャーターすれば、日帰り旅行も十分に可能です。

これらの街を訪れる目的は、ワイナリー巡りだけではありません。古都のステレンボッシュでは、オランダ植民地時代に造られた建物を利用したカフェや雑貨店を巡ったり、街並みを散策したりするのも楽しいもの。名門大学があり、学生たちの活気あふれる文教都市は、大都会のケープタウンとはまた違った雰囲気があって、私は大好きです。
フランシュフックは、17世紀にフランスの宗教的迫害から逃れてきた人たちが開拓し、故郷のワイン造りを伝えた街。今も白を基調にした瀟洒な建物が並び、フランスの香りが漂っています。
ワイナリー併設のホテルに泊まってワイン三昧
ワインランドはケープタウンから日帰りができますが、ワイナリーに併設したホテルに泊まれば、楽しみは倍増します。私は今回の旅で、タルバッハに1泊、ステレンボッシュに2泊し、街中を散策したりランチやサイクリングを楽しんだりしながら、8軒のワイナリーを訪ねることができました。
タルバッハでの宿泊先は、「Rijk’s Wine Estate and Hotel(ライクス・ワイン・エステート&ホテル)」。シュナン・ブラン、ピノタージュ、シラーといった品種に特化したワインが人気の「ライクス・ワイン」が営むホテルです。

ワイナリーホテルに泊まるなら、もちろん、ディナーも敷地内のダイニングで。山に沈む夕日や星空を眺めながらの食事は、いっそうおいしく感じます。日本ではあまり流通していない珍しいワインもあって、つい飲みすぎてしまいましたが、すぐ部屋に帰ることができるワイナリーホテルなら安心です。
翌朝、目覚めて部屋のブラインドを開けると一面のブドウ畑が! ちょうどブドウの収穫前だったこともあり、緑の葉が太陽の光を浴びて、畑がキラキラと輝いているのが見えました。喧騒(けんそう)とは一切無縁のこんな環境も、心を解放してくれます。

ステレンボッシュでの宿泊先は、「ASARA WINE ESTATE & HOTEL(アサラ・ワイン・エステート&ホテル)」。オーナーで醸造家のピート・ゴッケンズさんは、南アフリカの伝説の大統領、故ネルソン・マンデラ氏の専属シェフも務めた方でもあります。

そして、南アフリカのラグビー代表チーム「スプリングボクス」の選手であり、2019年に49歳という若さで急逝した故チェスター・ウィリアムズさんプロデュースのビールブランド「チェスターズIPA」を、日本と南アフリカで販売したのもピートさんでした。チェスターさんは、1995年に南アフリカで開催されたラグビーW杯で唯一の非白人選手として活躍したラガーマン。それまで、白人のスポーツとしてアパルトヘイト(人種隔離政策)の象徴だったラグビーの印象を変えたシンボル的存在でした。そのストーリーは、クリント・イーストウッド監督の映画「インビクタス/負けざる者たち」(2009年)に詳しく描かれています。
そんな背景も含めて、私は「アサラ・ワイン」がずっと気になっていたのです。ようやく訪れることができたワイナリーホテルは、敷地が想像以上に広大でラグジュアリー。池を眺めるダイニングやテラス、アフリカのジンを集めたバー、プール、ワイン畑や山を望むゲストルームなどがゆったりと配置され、優雅なリゾートの雰囲気にあふれていました。

その環境もさることながら、記憶に濃厚に残っているのは、ホスピタリティー。スタッフの方々がとても温かく、五つ星ホテルでも肩肘を張ることなく、終始リラックスして過ごすことができました。帰国後、ワインセラーで購入したピノタージュやソービニヨンブランを飲むたびに、あの豊かな環境と時間を思い出しています。

ワイナリーホテルは、そこに滞在する時間そのものを楽しめる場所。ワインの知識が深くない私でも、思い出を刻むことができました。
南アフリカ観光局
BIKES’N WINES
Rijk’s Wine Estate and Hotel
ASARA WINE ESTATE & HOTEL
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