福井県の北東に位置する奥越前。四方を山々に囲まれたこのエリアには広大な史跡や城下町が残り、美しいニッポンの風景を見ることができます。それまでは、印象は決して強くなかった奥越前でしたが、1泊2日の旅で得た感動は想像以上。なかでも、山中に潜む壮大な宗教都市の跡地は、歴史の面白さを再発見させてくれました。
まほろばの神秘的な風景に心が奪われる
辺り一面を覆い尽くす緑の苔や、木立の中にひっそりと延びる石畳の道……。その幽玄な雰囲気に、空想の世界に迷い込んだかのような気分になってしまったのは、勝山市にある「白山平泉寺」。白山のふもと、白山国立公園の中にある史跡です。
恵みの水をもたらす霊峰・白山は、古くから人々に崇められていました。717年、その地に修験道の僧・泰澄がお参りをするときの登り口として開いた霊場が、白山平泉寺のルーツです。当時は、修行者のための宿坊や、白山を礼拝する神社や寺院が並んでいたといいます。後に、ここは「平泉寺」と呼ばれるようになりました。

目の前に広がる幻想的な景観もさることながら、私が強烈にひかれたのは、1000年以上にわたり築かれたドラマチックな歴史です。ここは、単に長い時を刻んだ古刹というだけではありません。
もともと山岳信仰の拠点として、山伏や僧兵がいた平泉寺は、1084年、比叡山延暦寺の末寺になったのをきっかけに、僧兵集団として知られるようになりました。源平争乱で源氏側につき、土地を与えられると、さらにパワーアップ。土地を守るべく武力を持ち、武力を持てば戦に出て、戦に勝てば土地を得て、土地があれば年貢が入り……と、次第に財政基盤が築かれていったといいます。

最盛期は戦国時代。都市計画によって整備が進められ、当時、日本最大規模の宗教都市として繁栄しました。8000人もの僧兵が暮らし、数十の堂や社、数千におよぶ坊院が立ち並んでいたとも言われています。
ところが、次第に年貢に苦しむ農民の恨みを買うように。1574年に勃発した一向一揆により全山が焼亡、一帯は焼け野原と化してしまいます。
その9年後、難を逃れた顕海和尚が2人の弟子と共に焼け跡に戻り、平泉寺を再興したものの、明治維新の頃、再び時代の波にのまれてしまいます。神仏分離令(神道と仏教を混合する日本古来の信仰の形を壊し、神道の国教化を進める運動)により、「平泉寺」の寺号は廃止され、白山社の本社や拝殿、鳥居などが「白山神社」として残されました。

実に、開山から焼き討ちまで約850年、それから現在まで約450年。長い月日を経て、本格的な発掘調査が始まったのは1989(平成元)年のことでした。すると、石畳や石垣、僧侶の住居などの遺構が見事に残っていることが判明。今、栄華を誇った平泉寺の全容が、少しずつ明らかになりつつあります。

そんな映画のような史実は、白山平泉寺の総合案内施設「白山平泉寺歴史探遊館 まほろば」で紹介されています。驚いたのは、これほど深い山中にありながら、暮らしは閉ざされたものではなく、世界に開いていたということ。最盛期は貿易も行い、国内だけでなく海外からもさまざまなものが運ばれていたといいます。これも、発掘調査が進んでいるからこそ分かったこと。館内には、出土した中国製やベトナム製のお椀やお皿が展示されていました。

とはいえ、掘り起こされた遺跡は全体の1%に過ぎません。まだまだ歴史ロマンは、緑の苔の中に眠っています。ちなみに、私が訪れたときは土砂降りで、雨がいっそう神秘さを増していました。まほろば(素晴らしい場所)と言われた昔日を思い描きながら歩くなら、こんな雨の日もなかなかいいものです。
滋味を楽しむ、優しい郷土料理
朝一番の凛とした空気のなかで白山平泉寺を散策した後は、地元でランチ。そばどころである勝山市の名物「おろしそば」をいただくことにしました。訪ねたのは、地元で愛される「八助」。代々続く製麺所でもあり、石臼でひいたおそばが食べられるお店です。

だしにおそばをつけていただくものをイメージしていましたが、勝山のおろしそばは一味違っていました。おそばとだしは別の器で用意されますが、ざるそばのような食べ方はしません。豪快に、だしをそばにかけて食べるのです。これはちょっと新鮮。

大根おろし入りのだしは薄味で、そばはつるんとして食が進みます。あっという間に1杯たいらげてしまい、温かいかけそばをお代わりしてしまいました。こちらのお店は小ぶりでリーズナブルなおそばのため、2、3杯食べていく人も多いのだそうです。

このほかに、勝山の雰囲気を楽しめるランチスポットが、旧料亭を改装した「花月楼」です。かつて花街として賑わった通りにある建物は、歴史を感じさせるしつらえが、至るところに残されています。
風情たっぷりの空間で楽しむのは、「ぼっかけ」。かまぼこや三つ葉が入っただしを温かいご飯にかけて、ノリやワサビを添えて食べる、昔ながらの郷土料理です。見た目はシンプルながらおいしいのは、お米とお水がおいしいからでしょうか。気取らず肩肘を張らないものがおいしいこの街を、もっと知りたくなりました。
【オススメの関連記事】
リフレッシュ! 極上旅