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2019年の5月、私はカンヌ国際映画祭の授賞式の中継をテレビの前で固唾をのんで見ていた。最高賞パルムドールの発表でステージに立つ審査委員長のアレハンドロ・G・イニャリトゥ(『バードマン』の監督)が、「パラサイト! ポン・ジュノ!」とコールした瞬間、私は思わずガッツポーズをしてしまった。
ポン・ジュノに初めて出会ったのは07年だから12年も前になる。彼がオムニバス映画『TOKYO!』の一編『シェイキング東京』の準備で東京に滞在していたときだった。共通の友人である通訳さんから、ポン監督が俳優の香川照之氏を映画に起用したいから紹介してほしいと言われたのだ。私はすぐに香川氏にコンタクトをとり、2人を引き合わせた。一見おっとりとした熊のようなかわいい風貌、映画マニアで漫画オタク、ユーモアがあって内面にはパンクな一面も持ち合わせ、時折、眼光の鋭さをのぞかせる。そんな映画監督ポン・ジュノに私たちは魅了された。『殺人の追憶』『グエムル-漢江の怪物-』など、ジャンルを飛び越えて多才さを披露する彼の奥深さをそこに感じていた。

2年後、私が釜山を舞台にしたオムニバス映画『カメリア』に参加したときには、主演俳優のキャスティングが難航していた私に、韓国の名優ソル・ギョングを紹介してくれた。ポン・ジュノは律儀に恩返しをしてくれるようなナイスガイなのだ。
寡作な彼は、わずか長編7作目にして頂点を極めた。その最新作『パラサイト 半地下の家族』は正真正銘の最高傑作だと私は思う。常に韓国社会の底辺から物語を生み出してきたポン・ジュノは、全員失業中の一家にスポットを当てた。インパクトのあるキャラクターを生み出すのはお手のもの、漫画的なキャラの強さはあるがリアリティーを欠いたりはしない。
その家族は半地下の狭い部屋に父母兄妹の4人で住み、宅配ピザの箱を組み立てる内職をしながらギリギリ生計を立てている。そんなある日、長男のギウが友人から家庭教師の仕事を紹介される。IT企業を経営する社長一家の高台にある大豪邸に向かうギウ。それをきっかけに貧困家族が富豪の家に寄生していく。

貧富の差の激しい韓国社会を風刺しながら、笑いとスリルで巧みに観客を引きずり込むと、戦慄と驚愕の予測できないラストまで息もつかせない。考えぬかれた脚本は誰にも到達できない極致にあり、粘り強い演出で観る者を翻弄する。まさに超一級のエンターテインメント作品だった。
名優ソン・ガンホをはじめ配役は完璧。漫画家級に絵が上手いポン監督は、緻密な画コンテを描き、自らの演出を高みまで追い求める。ブラックコメディーであり、スリラーであり、ホラーでもあるそれは、何にも似ていない“ポン・ジュノ”というスタイルだ。失業中の貧乏家族が富豪に寄生する話なのだと安易に想像していると足をすくわれる。「パラサイトってそこだったのか!」と膝を打ってしまった。これ以上は楽しみを奪ってしまいそうなので、肝心なところは言えないけれど、ラストシーンが私は好きだ。
(c)marie claire style/text:Isao Yukisada
【映画情報】
パラサイト 半地下の家族

事業にたびたび失敗し、失業中の父キム・ギテク。甲斐性なしの夫に強くあたる母チュンスク。大学受験に落ち続ける息子ギウ。美大を目指すが予備校に通う金のない娘ギジョン。しがない内職で日々を繋ぐ彼らは、“半地下住宅”で暮らす貧しい4人家族だ。
ある日、ギウはエリート大学生の友人から家庭教師の代打を頼まれる。ギウが向かった先は、IT企業の社長パク・ドンイク一家が暮らす高台の大豪邸だった。“半地下住宅”で暮らすキム一家と“高台の豪邸”で暮らすパク一家。二つの家族が交差した先に、想像をはるかに超える衝撃の光景が広がっていく――。
監督:ポン・ジュノ
出演:ソン・ガンホ、イ・ソンギュン、チョ・ヨジョン、チェ・ウシク、パク・ソダム、チャン・ヘジン、パク・ミョンフン、イ・ジョンウン
配給:ビターズ・エンド
http://www.parasite-mv.jp/
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2020年1月10日(金)より、TOHOシネマズ日比谷ほか 全国ロードショー!