◆ノンバター・バターチキンカレー
【材料・2~3人分】
鶏もも肉 250g
カレー粉 大さじ1強
ホールスパイス各種(あれば)
・カロンジ 小さじ1/4
・シナモン 1/2
・スターアニス 1個
・クローブ 3粒
・メース ひとつまみ
トマトピューレ 大さじ5(75g)
塩 小さじ1弱
黒糖 小さじ1
生クリーム 200ml
ゆず(またはレモン) 1/2個
しょうが(千切り) 2片
【作り方】
鶏肉を皮面から焼く。強めの中火で両面がこんがり色づくまで。取り出してひと口大に切り、カレー粉をまぶしておく。空いたフライパンにホールスパイスを加えて弱火にし、さっと混ぜ合わせ、トマトピューレを加えて煮詰める。鶏肉を戻し入れて混ぜ合わせる。塩、黒糖、生クリームを加えて肉の中心に火が通るまで煮る。ゆずを絞り、しょうがを混ぜ合わせる。
「そして僕はね、鍵盤のないピアノを弾いたのさ」
「鍵盤のない……、ピアノ!?」
「そう、両膝の上に両手の指を立てて動かすの」
「それで、音は聴こえるの?」
「聴こえるよ、頭の中で」
鶏もも肉を皮面から焼きながら、さっき終えたばかりの旅の飛行機で僕がしたことを説明した。ここ1か月ほど楽譜を買ってきてピアノのレッスンにいそしんでいる。チャップリン作曲の「SMILE」をポロリンポロリンとたどたどしく弾いているだけだが、毎朝の日課になっていた。
5日間の旅に出ることになったとき、ふと飛行機の中で寂しくなった。これからしばらくピアノが弾けないじゃないか。だから機内で目を閉じ、鍵盤を思い浮かべて指を動かした。すると、実際に弾くよりはるかにいい音を奏でたのである。
皮面がこんがりしたら、ひっくり返して裏も焼く。中まで火を通す必要はない。フライパンから取り出したら粗熱を取り、一口大に切ってボウルに入れ、カレー粉をまぶしておく。鶏から出たキラキラした脂肪分に粉がなじんでいくのがわかる。
いつ買ったか思い出せないようなカレー粉でも、香りが戻ってくるから不思議だ。フライパンにはまだ皮から出た脂分が残っている。適当なホールスパイスをいくつか放り込んでおこう。
年末を迎えるこの時期、キッチンにあるスパイスの整理をするにはちょうどいい。スパイスを弱火で炒めたら、トマトピューレを加えて混ぜ合わせる。まもなくふつふつとし始め、煮詰まっていくのがわかる。生のトマトなら大2個、ホールトマトなら200グラムほどで代用できる。その場合は、水分を飛ばすのにまあまあ時間がかかるかもしれない。
「鍵盤がなくてもピアノと言っていいの?」
「そりゃそうさ。足りないものは想像で補えばいいだけのこと。そうすれば絵のない絵本だって読める」
「じゃあ、タイヤのない自転車もこげる?」
「こげる、こげる!」
「食べ物の場合は難しいかも。だってお腹が減るから」
「確かにね。でも、おせちがなくたって正月が過ごせるよ」
「このカレーがあればねって言うんでしょう?」
「その通り。だって、あっという間にできあがるんだから」
フライパンに鶏肉を戻し、塩や黒糖、生クリームを加えて煮る。トマトの赤とクリームの白が溶け合って、フライパンの中がきれいなオレンジ色に変わっていく。そう、僕はバターチキンカレーを作っているのだ。
しかもこれは、ただのバターチキンではない。なんと“バターのないバターチキン”なのである。バターどころか油すら使わない。濃縮したトマトのうま味と生クリームのコクで十分おいしい味わいは約束される。黒糖の甘みも味方してくれるから、おいしすぎるくらいだ。ゆずを搾り、しょうがを加えることできりりと全体を引き締め、バランスを取る。
本来、バターチキンは、ヨーグルトでマリネしたタンドーリチキンを使って作る。ぶつ切りにして煮詰めたトマトと精製したバターを混ぜ合わせ、生クリームでのばす。乳製品のうま味をたっぷり堪能するカレーでうまいのだが、ちょっと胃に重たいのが難点。そこで、この料理からヨーグルトとバターを取り去って、鶏皮の脂分だけで仕上げるというアレンジをしたのが自慢ポイントだ。
それをバターチキンと呼んでいいのか疑問が残るところだが、味わいは立派にバターチキンのそれになる。すごいレシピの発見じゃないか! いつしか僕は彼女に語り掛けるというよりも、ブツブツと独り言を始めていた。怪訝そうに彼女が口を開く。
「それで、そのカレーを食べるとバターの味はするの?」
「するよ、心の奥で」
「あなたって何でも簡単に妄想できちゃうのね」
「キミのいない日常以外はね」
「さようなら」
「あーーー!」
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