ポルトガル各地を7日間で巡る旅の中盤は、北部のポルトを訪れました。ここは、首都リスボンに次ぐポルトガル第2の都市。世界遺産の歴史地区や、日本でも知られるポートワイン、新鮮なシーフード料理など、旅行者にとっても楽しみの多い大都会です。ドウロ川からの心地良い風に吹かれながら、豊かな歴史と古い街並みが調和する美しい港町を歩きました。
ポルトのノスタルジックな坂道を歩き、古都ギラマインエスに思いをはせる
ポルトに来てまず思ったのは、「坂が多い街だなあ」ということ。リスボンも坂の街ですが、ポルトも負けてはいません。でも、高低差をうまく利用して築かれた街には独特の眺めがあり、細い路地が幾筋も延びる坂道はノスタルジックで、歩くほどに惹かれていきます。
ポルトの歴史は古く、ローマ時代にはすでに、「ポルトゥス・カレ(カレの港)」と呼ばれ栄えていました。ポルトガルという国名はまさに、当時の呼び名が由来です。そんなヒストリカルな街を歩くと目につくのは、アズレージョ(絵タイル)に彩られた建物の数々。海がある街には、藍色のアズレージョが本当によく映えます。
ショッピングストリートのサンタ・カタリーナ通りでは、壁全面が青いアズレージョで覆い尽くされた「アルマス礼拝堂」を見つけました。繁華街にもこんな美しい建物が立っているから、ポルトの散策は飽きることがありません。

サン・ベント駅構内のアズレージョは、「眺める」というよりも「読む」といった感覚。そこに描かれているのは、ポルトガルの起源や大航海時代のストーリー、鉄道の歴史、さらに、ワインを運ぶ船や農村、祭りなど庶民の暮らしです。それはまるで、壁に描かれた歴史絵巻のようでした。ちなみに、アズレージョにも時代ごとのブームが反映されています。青単色のアズレージョは、17世紀にオランダを経由して入ってきた中国磁器の影響を受けているのだそうです。

サン・ベント駅から歩いて7分ほどのところにある「リブラリア・レロ」は、書店ながら、朝から行列のできる場所。1906年にレロ兄弟が創業したこの書店は、「ハリー・ポッター」の作者、J.K.ローリングが足繁く通い、着想源とした場所として知られています。ネオゴシックの前壁といい、中央に鎮座する二重階段といい、天井のステンドグラスといい、お店というより教会のような荘厳な雰囲気です。ハリー・ポッターの世界に迷い込んだかのような気分を楽しみました。

ポルト滞在中、時間に余裕があればぜひ足を延ばしたいのが、サン・ベント駅から電車で1時間強の古都、ギラマインエス。ポルトガル王国の初代国王アフォンソ1世の出生地であることから、「ポルトガル発祥の地」と呼ばれている街です。歴史が古く、旧市街が世界遺産に登録されている点はポルトと同じですが、より石を多用した建物が並ぶ景観は威厳があり、また違った趣があります。

街はコンパクトで歩きやすく、中世に建てられた住宅に、今でも人が暮らしているのもすてきです。丘の上にはアルフォンソ1世が生まれたギラマインエス城もあり、ポルトガル人旅行者には人気を博していますが(なんといっても、自国発祥の地!)、私はただただ、旧市街をぶらぶらと歩くだけで十分に楽しめました。
ルビー色に輝くポートワインと自慢のポルト料理
長い歴史と美しい景色にも劣らぬ街の宝といえば、ルビー色に輝くポートワイン。ポルトの旧市街のあるエリアからドウロ川を渡ったヴィラ・ノヴァ・デ・ガイア地区には、60軒ほどのポートワインセラーが点在しています。旧市街から行くなら、かわいらしい渡し船を利用するもよし、眼下に絶景を眺める橋を歩いて渡るもよし。渡ってヴィラ・ノヴァ・デ・ガイア地区から旧市街方面を眺めると、斜面にコロニアルカラーの建物が並んでいて、これも絶景です。

ポートワインは、ドウロ川の約120キロメートル上流にあるアルト・ドウロ地方で栽培されるブドウを醸造し、ポルトで熟成・出荷されたワインだけが名乗ることができる酒精強化ワインです。濃厚な味のブドウを育てる酷暑・極寒のアルト・ドウロの気候と、熟成に最適なポルトの温暖湿潤な気候が、極上のポートワインを生んでいます。今でこそ、アルト・ドウロで醸造を終えたワインは車でポルトまで運搬されていますが、20世紀半ばまでは、ワイン樽を積み込んだ船がドウロ川を下る光景は、一帯の秋の風物詩でもありました。

ポートワインの起源は17世紀末、フランスとイギリスが第2次百年戦争に突入した頃に遡ります。敵国からのワイン輸入を禁止したイギリスが代わりに見つけたのがこの地のワインでしたが、品質を保ったままイギリスへ輸送するのは難しい時代。そこで、発酵途中でブドウの蒸留酒を加え、酵母の働きを止めたのが、ポートワインの始まりです。
そんなポートワインの歴史そのものとも言えるのが、1692年創業の老舗ワイナリー「テイラーズ」。有料で見学できるカーブ(貯蔵庫)に足を踏み入れると、甘く芳醇な香りに包まれました。日本語のオーディオガイドがあり、歴史や製造法を知ることができます。カーブを見学した後は、テイスティングルームや、緑が心地良い庭園で試飲をするのが楽しみ。ポートワインと一口に言っても、熟年数やブドウの種類によって味は異なり、比べてみるのも面白い体験です。

テイラーズには、眺望抜群のレストランも併設されています。私はランチタイムに訪ね、ポートワインと料理のマリアージュを楽しみました。ホタテ料理には、ドライな白ポートワインをトニックウォーターで割ったカクテル「ポルトニック」を、仔羊のステーキには木樽で熟成された「レイト・ボトルド・ヴィンテージ」を、デザートのクリームブリュレにはまろやかな10年ものの「トウニー」を合わせて堪能。それまで、「ポートワインは甘くてどれも同じ」と思っていただけに、これだけのバリエーションがあり、料理にも合わせられるのは驚きでした。

ポートワインのほかにも、ポルトにはたくさんの食の楽しみがあります。隣町、マトジーニョスの魚市場から届く新鮮なシーフードを使った料理は定番中の定番です。ロブスターやカキ、エビ、タコなど、日本でもおなじみの食材はここでも大人気です。特にタコは歯ごたえが良く、天ぷらからリゾット、ボイルまでいろいろなバリエーションで味わいました。

シーフードにワインを合わせるのなら、断然、「ヴィーニョ・ヴェルデ」と呼ばれる微発泡の白。「緑の(つまり、若い)ワイン」を意味する爽やかなこのタイプは、日本にも輸出されていますが、ポルトガルでは、より発泡度合いが少ないものが好まれます。柔らかな刺激がシーフードとよく合い、歩き回って疲れた体を元気にさせてくれました。
おいしいのは魚介類だけではありません。名物のひとつが、もつ煮込みの「トリパス」。大航海時代、船に食料として積み込んだ肉の余りである内蔵を利用したのが始まりなのだそうです。一緒に煮込んだ白インゲン豆にも味がしみ込んで、ちょっと和食にも似た風味があります。

庶民の味「ビッファーナ」も忘れてはなりません。パプリカやワインで煮込んだ薄切りの豚肉をパンに挟んだファストフードです。リスボンにも多くのお店がありますが、ポルトの「コンガ」はビッファーナの名店と言われています。レシピは、ポルトガルの旧植民地アンゴラにルーツがあるのだとか。見た目は地味でそれほどおいしそうには見えないのですが、口にすると……ピリ辛のお肉とその煮込み汁がパンに染み込んで食が進む進む。ポルトガルのビール「スーパーボック」のスタウトとともに、あっという間にたいらげてしまいました。
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