◆リゾット
【材料】
バター 30g
にんにく(みじん切り) 小1/2片
玉ねぎ(みじん切り) 1/4個
ターメリックパウダー 少々
米 1合
白ワイン 50ml
チキンスープ 800ml
塩 適量
レモン汁 少々
粉チーズ 少々
ブラックペッパー(粗挽き) 少々
【作り方】
フライパンにバター20gを熱し、にんにくと玉ねぎ、ターメリックを加えてほんのり色づくまで炒める。米を洗わずに加えて、表面が透き通るまで炒める。白ワインを加えてアルコール分を飛ばし、チキンスープを半量加え、強めの中火で煮る。途中2回ほどにわけて残りのスープを加えながら、合計16~17分ほど煮る。残りのバターを溶かし混ぜてレモン汁をふりかけ、粉チーズ、ブラックペッパーと共に器に盛る。
糖質制限のため、ごはんの量を減らしている友人が周囲に増えている。そういうタイプに出会うたびに僕はつい、「ダサいことしてんなよな、男のくせに」とからかってしまう。この「男のくせに」ってセリフに“いまだに昭和な自分”が垣間見えることも自覚している。
でもさ、米はうまいんだ。うまいのだから、ダイエットは気にせず食べたいように食べればいいじゃないか。
つややかな米を傍らに用意し、フライパンを火にかける。バターが溶け始めたらにんにくと玉ねぎを加えて弱めの中火で炒め始める。しんなり透明になってきたあたりで、米とほんの少しのターメリックパウダーを入れて混ぜ合わせる。みるみるうちに、フライパンの中に鮮やかな黄色が広がった。
久しぶりにリゾットを作ろうと思ったのだ。「どうせ、あいつやあいつは食べないんだろうな」。何人かの男友達の顔が浮かぶ。「うまいのに……」と独り言がこぼれそうになる。
“糖質制限をする男”と同じくらいダサダサ認定しているのが、“料理のウンチクが多い男”である。
つい先日、イベントで札幌に行った。帰りの千歳空港で立ち食い寿司屋に入る。隣に若いカップルがいて、男の方が何も言わず黙々とにぎりを口に運んでいる。ああいうのは、カッコいい。旬の魚なんかについて得意げに御託を並べていたりしたら、彼女は興ざめするだろう。彼女の方は白ワインをがぶがぶ飲みながら上機嫌。
「おいし~!」「おいし~!」「おいし~!」
何を食べてもずっとそう繰り返していた。糖質無制限状態である。
リゾットになるべくフライパンで炒めている米は、表面がうっすら透明になってくる。透明になると言っても、本当に透き通っているわけではない。そんな感じがする、というくらいである。
ターメリックが混ざっているのだから、透明な黄色という不思議な状態になる。米の表面がツヤツヤしてきたら、白ワインを加えてアルコール分を飛ばす。ボトルに残ったワインをグラスに注いでゴクリと飲み、彼女のように「おいし~!」と大げさにはしゃいでみる。キッチンで独り、これをやるのはさすがに寂しいものがある。
チキンスープを半量だけ加えて火力を弱めの中火から強めの中火へと変えた。このスープは“かぶのポタージュ”を作った時にとったものである。なければ、鶏ガラをコトコトすればいいし、面倒なら、顆粒状になったブイヨンの素のようなものを使えばいいだろう。
数分ほどの間、クツクツと煮たらまたスープを加えてクツクツとする。数分たったらまたスープを加える。そんな風にしているときはなんだか楽しい。鉢植えに水をやるように、フライパンの中の料理をじっくり育てているような感覚になる。だからといって「たのし~!」とは声に出さないでおこう。
「おいし~!」を連呼していた彼女は、僕の隣で順調に酔いを重ね、ついにはヘロンヘロンになってしまっていた。男はニコニコしながら寿司をほおばっている。「大丈夫かな、この子」と思った直後、カウンターにもたれかかるように体を斜めにした彼女が、大将に尋ねた。
「このしゃりは赤酢ですかぁ? 白酢ですかぁ?」
まさかのグルメな質問に思わず僕の手が止まる。大将が落ち着いた声で答えた。「ブレンドして使っています。味の強めのネタには赤、軽めのネタには白が合うんですよね」
「おもしろ~い!」
彼女の「おいし~」が「おもしろ~い」に変わった。女性が料理のウンチクに興味を持つのはなぜか違和感がないんだよな。
リゾットは完成に近づいている。さらっとしていたフライパンの中が、いつのまにかとろっとしている。残しておいたバターを加え、レモン汁を少しだけ搾って混ぜ合わせる。バターが溶けていくと、先に加えたターメリックの土っぽい香りがほんのりと漂ってくる。
木べらで混ぜると米の周りがぽてっとしているのがわかる。できた。器に盛り、粉チーズをけずり、ブラックペッパーをミルでゴリゴリやってふりかけた。
ターメリックとブラックペッパーは、香りの相性がとてもよいと僕は思う。チーズやバターの風味ともよく合う。そこにレモンの酸味が加わるのだから、リゾットは想像以上においしくなってしまう。
あのときのカウンターの彼女がこのリゾットを食べたら質問をしてくれるだろうか。
「このリゾットは赤酢ですかぁ? 白酢ですかぁ?」
そうしたら、僕はすかさず、真顔でこう答えるんだ。
「赤でも白でもなく、黄色酢です。だってレモンを使ってますからね。すっきりした酸味で乳製品のコクとバランスがとれるんですよ」
「おもしろ~い!」
まあ、リゾットを作るのに「どうのこうの」とさんざんウンチクを並べ立てている僕自身、立派にダサい男の仲間入りをしていることも自覚している。