オンラインゲームを通してつながる父と子の絆を描いた映画「劇場版 ファイナルファンタジーXIV 光のお父さん」が6月21日に公開されます。突然、会社を辞めて単身赴任先から戻ってきた父・暁のことをもっと知りたいと思った息子のアキオは、自分がプレイしているオンラインゲーム「FINAL FANTASY XIV」を父親に勧め、自分の正体を隠してゲーム上の仲間に。現実世界ではうまく話せない2人が、ゲームの世界では一緒に冒険に繰り出し、関係を深めていきます。アキオ役を演じた坂口健太郎さんと、暁役の吉田鋼太郎さんに、ゲームや自身の父親のことについて聞きました。
――とある青年が、ゲーム仲間に協力してもらって父親との絆を取り戻す計画を実行し、その様子をブログに連載したところ、たちまち人気を集めて、書籍化、テレビドラマ化された作品です。
吉田さん 映画の素材としても、とてもすばらしいと思いました。実話なんですよね。フィクションじゃないってところがすごい。
どんなに仲がよくてもわからないところがある
――劇中では、アキオの先輩役の佐藤隆太さんが「父親とはいえ、わからないこともある」というセリフがありました。お二人の家族、お父さんはどうでしょうか。
坂口さん 根本的に「自分以外の人のことはわからない」と思っているので、父親とも仲がいいのですが、絶対にわからないところがあると思っています。友人関係もわかり合える瞬間もありますが、結果的にやっぱり自己が一番大事ということがありますね。どんなに仲がよくても、どこかわからないところがある。そんなイメージです。
母親とこれをやりたかった
吉田さん 僕も父とは仲がよかったんです。一緒に飲みに行ったりしましたし、よく旅行も行きました。でも、母親とはうまくコミュニケーションが取れず、仲が悪くて。4年前に突然亡くなったので、それがちょっと残念でした。
――どうして仲が悪くなってしまったのですか。
吉田さん 何を話してもけんかになってしまったんです。長男ということもあって、過保護にしてくるから反発するというよくあるものでしたが、大人になっても過保護なところが変わらなくて、それがすごくイヤだった。今はもっと話し合って、わかり合えればよかったと後悔しています。でも死んじゃったからできない。このストーリーは身につまされますね。母親が生きていてもゲームをやろうとは言わないけれど、それに似たようなことをして、関係修復をすればよかったかなと、この映画を見て思いました。
ゲームをしながらの芝居は初体験
――アキオと暁は、オンラインゲームの世界でともに旅をします。父は息子と知らずに“仲間”と結んだ絆に勇気をもらい、息子は父の意外な一面に驚きながらも尊敬を深めていきます。ゲームをしている場面では、画面に向かったまま、お互いの姿が見られない状況での演技でしたが、難しさはありませんでしたか?
坂口さん 最初に台本を読んだ時、人に対して演技をするわけではないから、難しそうだなと思いました。前半部分は一気に撮っていきましたが、後半のシーンは、野口照夫監督が鋼太郎さんとお芝居をした後に撮りたいと言ってくれたので、感情が入っていきましたね。
吉田さん (ゲームの)キャラクターの後ろに健太郎演じるアキオがいるということを想像すると、逆に気持ちが入っていきましたね。ゲームって集中力がいるじゃないですか。ゲームへの集中力がいつのまにか演技の集中力に変わるという面白い現象になりました。ゲームをしながら芝居をするのは初体験でしたが、すごく興奮してやれたことに、自分でも驚いています。
――映画は、実際に役者が演じる場面とオンラインゲームの映像とで構成されています。完成した作品を見ていかがでしたか?
坂口さん 息子の僕から父親をゲームに誘うというストーリーで、アキオから見ると、相手に自分の正体を隠したまま、父親だと知りながらゲームを一緒にやっていることになります。自分の視点でゲームの世界を見られたので、違和感はなかったです。父親の暁が操るキャラクターの声は鋼太郎さんが演じていましたが、アキオのキャラクターは声優さんが演じてくれたので、映像が見やすく、関係性がわかりやすかったですね。あと、ゲームの世界の美しい映像に驚きました。
ユーモラスでちょっと悲しい
吉田さん 役者が演じる場面にゲームの映像が入ってくるというのが、すごく新鮮でした。一つの映画で2回楽しめますね。アテレコは元々苦手なので大変でしたが、出来上がりを見たらちゃんと合っていました。健太郎のキャラクターの声は別の人が担当しているということが今一つわかっていなくて、打ち上げの時に「もう声入れた?」って聞いたら「鋼太郎さん、何言っているんですか」って言われちゃって(笑)。(ゲームの世界では)父親は相手が息子だということを知らずにやりとりするんですが、そこがまたユーモラスでちょっと悲しいんです。
ゲームの美しい使い方
――作品に触れて感じたことはありますか?
坂口さん 普段からオンラインゲームをやるんですが、ゲームって、どこか日陰の存在。でも、アキオみたいに父親との関係を再構築するために使うというのは、とても美しい使い方だと思いました。そこでコミュニケーションを取ることは、形はどうであれ正解だと思っています。
――オンラインゲームをしていて、この映画のような感動する体験はありましたか?
坂口さん 顔が見えないから言えること、言えないこともあるかと思うんです。キーボードを打って会話するから、いろんなものが削られて、整理されてシンプルな言葉が出てくる気がして。ゲームの中で「子供が生まれました」と話してくる人もいるんですよ。こちらは「おめでとうございます」しか言えないけど。人が見えないからこそ、ポジティブな部分があるかと思います。
オンラインゲーム、友達を作るのが難しい
吉田さん ファミコンが出た頃からゲームをやっています。オンラインゲームにも挑戦してみたんですが、うまく人が寄ってきてくれなくて、友達を作るまでが大変。(ゲームを始めた)第1世代として、オンラインの世界に乗り込んでいかなければと思うんですが、なかなか難しい。
――この映画にも描かれていたフレンド申請(友達を作る)ですね。
吉田さん 実際に知らない人と一緒にゲームをやったことはないんだけど、おもしろそうですよね。これまで、ゲームって没コミュニケーションで、一人で部屋に閉じこもってやるっていうイメージでした。それがいきなり、世界とつながれるわけでしょ。相手の顔も見えないのに、それが本当にコミュニケーションなのかとも思うんだけど、そんな苦言を呈したらジジイになってしまう。そうならないために、僕らの世代はもっとオンラインゲームもやってみないと。
プレッシャーを感じつつも「光栄」
――2017年にテレビドラマ化された際に父親役を演じたのは、18年に亡くなられた大杉漣さんでした。映画でその役を演じることになり、プレッシャーなどはありませんでしたか?
吉田さん めちゃめちゃプレッシャーでした。大杉さんの演技がとても好きで、憧れていましたから。尊敬する俳優の一人でした。大杉さんの役と知っていたので、最初に聞いた時は、「え? おれに来たの?」と驚きました。プレッシャーもあったけれど、「光栄です。大杉さん、がんばります」という気持ちで臨みました。
――吉田さんが演じた暁は、口べたで不器用な父親という役でしたが、役作りで難しさはありませんでしたか?
吉田さん ローテンションで寡黙で、芝居のしどころがないんです。世の中に普通にいるお父さんをリアルに見せないといけない。年齢は近いのですが、立場的には一番自分からは離れている役なのでやりづらかったですね。
なかなかかみ合わない二人
――お二人は、直接的にはあまり話さない役どころでしたが、現場ではどんな雰囲気だったのでしょうか?
坂口さん 現場ではこんな感じで、普通にしゃべっていましたね。
吉田さん 全然しゃべんないわけでもないし、ワーワーしゃべっているわけでもないし。
――共通の話題などはあったのでしょうか
吉田さん この撮影に入る半年前だか1年前に、バーで健太郎に会っていて、その時の話をしたんです。けれど、全然話がかみ合わなくて。僕は「あの地下の狭いバーだろ」って言ったんですよ。
坂口さん 僕は、1階にある広いバーだと記憶していました。時期も場所もお互い言っていることが全然違っていて。
吉田さん こいつとはずっとかみ合わないかなって、不安になりました(笑)。
坂口さん なんだか不思議な感じでしたね。
(聞き手:読売新聞メディア局 山口千尋、撮影:金井尭子)
『劇場版 ファイナルファンタジーXIV 光のお父さん』
6月21日(金) TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開
監督:野口照夫(実写パート)・山本清史(エオルゼアパート)
脚本:吹原幸太
原作:「一撃確殺SS日記」(マイディー)/ ファイナルファンタジーXIV(スクウェア・エニックス)
出演:坂口健太郎、吉田鋼太郎、佐久間由衣、山本舞香、前原 滉、今泉佑唯、野々村はなの、和田正人、山田純大/佐藤隆太、財前直見
声の出演:南條愛乃 寿美菜子 悠木碧
配給:ギャガ
(C)2019「劇場版 ファイナルファンタジーXIV 光のお父さん」製作委員会 (C)マイディー/スクウェア・エニックス