小松菜奈さん、門脇麦さんがダブル主演の映画「さよならくちびる」(5月31日公開)は、解散を決意した人気女性デュオ「ハルレオ」がライブツアーで全国各地を巡る姿を通じて、前向きに生きることの大切さを描いた青春劇です。人気シンガー・ソングライター、秦基博さんと、あいみょんさんがそれぞれ主題歌・挿入歌を提供したことでも話題を集めています。レオ役の小松さんとハル役の門脇さん、秦さんの3人に、作品に込めた思いなどを聞きました。
今までで一番しっくりくる役
――孤独に暮らしていたレオとハルは、アルバイト先で出会い、二人三脚で懸命に音楽と向き合います。やがてインディーズシーンで注目のデュオに成長しますが、突然、二人は解散を決意し、マネジャーのシマ(成田凌さん)とともに解散ツアーの旅に出ます。レオ、ハル、シマの3人の間には、憧れや友情、嫉妬、恋慕といった様々な感情が交錯しますが、小松さんと門脇さんはそれぞれ、どんな思いで役を演じましたか。
小松さん レオは、自由奔放で子どもみたいなところがある女性です。ハルに対して憧れのような気持ちを抱いていたのに、それが嫉妬に変わったりして、いろんな感情をもとに行動しているんです。それがすごく分かりやすく表面に出るキャラクターなので、彼女のそうした面を大事にして演じたいなと思いました。
門脇さん ハルは、レオとけんかしたり、一人でふてくされているシーンは多いけれど、自分の心情を素直に吐露するようなシーンは少ないんです。レオ、ハル、シマのバックボーンみたいなものも台本にちゃんと書かれているわけではなかったので、ハルのバックボーンは何なのかを意識して演じるようにしていました。
――演じた役に、自分自身と共通する部分はありましたか。
小松さん 具体的に何が、というのはよくわからないけれど、レオという役をすごくのびのびと演じることができて、本当に楽しかったんです。歩き方一つとってみても、今まで演じてきた役の中で一番しっくりくるというか。演じていくなかで、役と自分はどこかしら似ている部分があるんだなって感じました。
門脇さん ハルの言葉があまり器用じゃないところや、自分の気持ちを素直に言えないところは、すごくよくわかるなと。それに、ハルって、日常を生きている時より、ライブで歌っている時の方が楽な人だと思うんです。私も、日常生活よりセリフを言っている時の方が楽なので。成田君が演じたシマもそうだけれど、塩田明彦監督が私たち3人をイメージして書いてくださったキャラクターなので、どことなく3人の素の部分と共通するところはあるんじゃないかと思います。
繊細で、せつなく、前向きな歌
――秦さんは、主題歌の「さよならくちびる」を書き下ろしました。どんなイメージを描いて、曲作りをしたのでしょうか。
秦さん 最初の打ち合わせの時にいただいた台本のタイトルにすでに「さよならくちびる」と書いてあって。ページをめくっていくと、ハルレオが「さよならくちびる」という曲を歌っているシーンも出てきたので、これはきっとすごく大切な言葉なんだろうなと思って、その言葉をそのままタイトルにして曲を作りました。劇中でハルが作った曲という設定なので、「20代の女性が作る曲を、自分はどんなふうに作ったらいいのかな」と思ったけれど、ハルとレオが世間をどう見ているのか、二人なら「さよならくちびる」という言葉をどんなふうに歌うのかといったことを考えながら曲を書きました。
――小松さんと門脇さんは、「さよならくちびる」という曲にどんな印象を?
小松さん 今も初めて聴いた時の感動が忘れられません。繊細で、せつないけれど、前向き。ハルとレオの心情が見事に描かれていると思いました。すてきな曲をいただいたので、ライブで歌うシーンでは、この曲を私たちの色に変えるにはどうしたらいいのかなと考えたんです。ライブなのでお客さんのために歌っているのだけれど、実は、レオはハルに向かって歌っていて、ハルはレオに向かって歌っているんだ。それも、歌うというよりも、言葉を相手に伝えるんだ。そんな気持ちを大事にしました。
門脇さん 女性が歌う曲でキーが高いので、最初に送ってくださったデモテープに吹き込まれた秦さんの声が裏声で、それがまたすごく良くて。「これもぜひ、世の中に出してほしい」と思いました(笑)。
――小松さんと門脇さんの歌はいかがでしたか。
秦さん お二人の声をずっとイメージしながら曲を作ったのですが、二人が歌って初めてこの曲は完成するんだと思っていたんです。だから、歌った音源を聞いた時は、これでようやく「曲ができたんだ!」という感覚でしたね。

――ギターを演奏するシーンがたくさん出てきますが、かなり特訓したとか。
小松さん ギターは初めてだったので、撮影期間中は毎日、練習しました。はじめは不安がいっぱいで、悪戦苦闘の連続でしたね。途中でギターが嫌になるかなとも思ったのですが、むしろだんだん楽しくなって、「音楽っていいな」って思うようになったんです。楽器を通じて、みんなが一つにつながっているような気がして。すごくいい思い出になりました。
――門脇さんは、ギターの演奏経験があるそうですね。
門脇さん でも、コードを三つぐらい知っている程度で、ほとんど初心者に近かったんですよ。
「地方を巡る旅」構図に助けられた
――秦さんは、劇中のハルレオの音楽活動を見ていて、同じミュージシャンとして思うところはありましたか。
秦さん ハルレオの音楽に対する思いですね。プロとしてデビューしたいから、売れたいから音楽活動を続けているのではなく、自分の気持ちを表現できるのは音楽しかないから、音楽を続けている。そんな二人の思いにはグッときました。一方で、ハルレオはユニットで活動しているけれど、僕は一人で活動しているので解散がない(笑)。解散を考えながら一緒に行動するって、どんな気持ちなのかなと考えましたね。

――栃木、新潟、北海道など全国各地で撮影したそうですが、印象に残っていることは?
小松さん 解散ツアーの様子を順撮り(ストーリーの順に撮影を進めること)していったので、いろんな地域に行かせていただきました。一番印象的なのはやはり、ツアーを締めくくるラストライブを行った北海道の函館ですね。私たちも「ああ、これで終わりなんだな」という思いがあって。撮影で、エキストラのお客さんたちがハルレオと一緒に歌って盛り上げてくれた時には、本当にライブ会場が一体になった気がして。すごく感動したのと同時に、「これが最後のロケなんだ」と、寂しい気持ちにもなりました。
門脇さん 女性デュオの解散という、ともすれば暗くなってしまいがちなテーマではあるのですが、地方を巡る旅をするという作品の構図にすごく助けられたなと思っています。例えば、新潟に撮影に行って、いったん東京に戻って気持ちがちょっとリセットされる。1日空いて今度は大阪に行って、また東京に戻って気持ちがリセットされる。その繰り返しによって、なんだか空気の循環がすごく良くなった気がするんです。これがもし、ずっと1か所で根詰めて撮影していたら、空気感がちょっと違う作品になっていたのかなって。暗くなりがちなテーマだけれど、ハル、レオ、シマの3人がいとおしく見えて、後味のいい映画になったのは、地方を巡ったことがすごく関係していると思っています。
(聞き手:読売新聞メディア局 田中昌義、撮影:金井尭子)
『さよならくちびる』
5月31日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
【ストーリー】インディーズで人気の女性ギター・デュオ「ハルレオ」のレオ(小松菜奈)とハル(門脇麦)。付き人シマ(成田凌)が参加していくことで徐々に関係をこじらせていく。やがて3人が出した答えは“解散”。全国ツアーの道中、歌詞にしか書けないハルの真実と、歌声でしか出せないレオの想い、隠していたシマの本音も露わになり――。それぞれの想いがつまった曲「さよならくちびる」は、3人の世界をつき動かしていく――。
監督・脚本・原案:塩田明彦
キャスト:小松菜奈、門脇麦、成田凌、篠山輝信、松本まりか、新谷ゆづみ、日髙麻鈴、青柳尊哉、松浦祐也、篠原ゆき子、マキタスポーツ
主題歌 Produced by 秦基博 うた by ハルレオ
挿入歌 作詞作曲 あいみょん うた by ハルレオ
製作幹事・配給:ギャガ
制作プロダクション:マッチポイント
© 2019「さよならくちびる」製作委員会