ベストセラー作家・佐伯泰英さんの人気時代小説を映画化した「居眠り磐音」が5月17日(金)、全国公開されます。ふだんは優しく穏やかながら、実は剣の達人である主人公・坂崎磐音が、大切な人たちを守るため、悪に立ち向かう時代劇エンターテインメントです。磐音を演じる松坂桃李さん、磐音の幼なじみ・小林琴平役の柄本佑さん、河出慎之輔役の杉野遥亮さんに、作品の見どころや撮影時のエピソードを聞きました。
琴平と慎之輔の存在が磐音の“核”に
――――磐音は、故郷の豊後関前藩で、幼なじみで同じ道場に通う剣友でもあった琴平と慎之輔を悲劇的事件によって失います。そして、琴平の妹・奈緒(芳根京子さん)との祝言を間近に控えていたのに、奈緒を残して脱藩してしまいます。深い哀しみを胸に、磐音は江戸の町で浪人として暮らし始めますが、松坂さんはどのような役づくりで演技に臨んだのでしょう。
松坂さん 役作りの上で大きかったのは、琴平と慎之輔の存在でした。撮影は、幼なじみ3人のシーンから始まったんです。作品の前半に、琴平と慎之輔との絆がしっかり描かれていて、磐音の内面の“核”となる部分を作れました。あとは自然と転がっていく感じでした。琴平と慎之輔のおかげで、後半の磐音の心の揺らぎや佇まいを自然に演じられたと思います。

――――琴平は豪快な人柄でみんなの兄貴格です。スクリーンから琴平のエネルギーがあふれるようでした。
柄本さん 台本を読んで、「琴平はこう演じるのかな……」という思いもありました。でも、書かれていることは二次元ですから、実際に現場に行って三次元になったときにどうなるのか。そこが勝負どころなんです。自分の思いを頑固に貫いたり、相手に寄り添ったりして、3人でやり合いながら作っていくうちに、自然と琴平の人物像が出来上がりました。

――――杉野さんは、今作が初めての時代劇です。どのような気持ちで取り組みましたか。
杉野さん 殺陣も所作もすべてが初めてで、すごく緊張しました。でも、自分たちの世代で時代劇に出られるのは誇らしいことだし、僕だけに与えられたチャンスでもある。「難しい挑戦の扉を開いていかないと、上には行けない」と、先輩方の背中に教えられてきたので、食らいついていこうと思いました。それに、松坂さん、柄本さんと幼なじみですから、内心くやしがっている人がいるに違いない。

殺陣に乗っていけば、自然と感情が表現できた
――――剣術も三人三様、それぞれの性格がよく表れていました。
松坂さん 台本では、磐音の剣術は「縁側で日向ぼっこをして居眠りしている年寄り猫のよう」と表現されています。実は、原作にも剣術の詳しい描写はないんです。それで、殺陣師の諸鍛冶裕太さんが「剣先をすっと下げる」構えを提案してくださいました。一見、守りに徹した構えで相手の攻撃を見極め、攻めに転じると、鋭い太刀筋で圧倒する――。磐音の“居眠り剣法”を、剣先を落とすことで体現したんです。理にかなっているかどうかも含めて、研究しながら作り上げました。
――――琴平は磐音とは逆に攻撃的、肩に担ぐように構えます。
柄本さん 振り下ろして一刀両断、という構えですよね。あれ、やっている方も怖いんですよ。僕が刀を打ち込み、松坂さんがギリギリでよけるというシーンがあったんです。思い切り打ち込まないと、不自然に映る。監督は「当てにいってください。桃李君は必ずよけますから」と言うんですけど、体が勝手に少し外を狙ってしまうんです。スローシーンだから、ごまかしがきかなくて、何度か撮り直しました。
松坂さん よけるより、打ち込む方が難しいんです。一度で成功させたいじゃないですか。そういうプレッシャーもあって、体がそう動いちゃう。
柄本さん 殺陣の練習を積んで、松坂さんを120%信頼していても、体が逃げてしまう。
杉野さん 今、お二人の話を聞いて、「ぼくと同じ気持ちだったんだ……」って思いました。何だか、うれしいです。殺陣って技術面だけじゃなくて、感情面でも難しい。相手を傷つけたら怖いという気持ちがあって、自分の中で消化するのが大変でした。

柄本さん 諸鍛冶さんの殺陣が「感情」を表現しているので、殺陣に乗っていけば、自然とその感情の流れになる。そこは、やりやすかった。
松坂さん そうそう、感情を乗せやすい殺陣だった。それに、諸鍛冶さんが細心の注意を払ってくださったんで、激しい立ち回りでもケガをしませんでした。しっかり練習してから本番に臨んだのもよかったと思います。
――――磐音がウナギさばきの仕事をするシーンがあります。撮影中、ウナギとの激しい格闘もあったとか。
松坂さん ウナギとの闘いで、初日にケガをしました。ウナギをさばく練習をしていて、指を切っちゃったんです。実は、ウナギは高価なんで、アナゴで練習していたんです。要所要所で、「じゃあ、ウナギも1本いきますか」って、ウナギが出てくる(笑)。
――――映画では素晴らしい包丁さばきでした。この腕前なら自宅でも調理できますね。
松坂さん とんでもない! できればもう、ウナギとは関わりたくないです(笑)。食べる専門にします。
濃密な時間を過ごして、仲間意識が生まれた
――――今も仲の良い雰囲気が伝わってきますが、みなさん共演は初めてですか。
柄本さん 僕と松坂さんは8年ほど前、ある映画でカンボジアのロケに行ったんです。1か月半、一緒に仕事をしました。それ以来の共演ですが、カンボジアで濃密な時間を過ごしたので、ずっと仲間意識がありました。杉野さんは初対面のとき、目がキラキラしていて、素直な好青年だなと思いました。
杉野さん 松坂さんは事務所の先輩ですが、柄本さんとは初共演なので、どう演じればいいか不安でした。でも、柄本さんは激しい殺陣の稽古でも、包み込んでくれるような温かい方でした。お二人のおかげで、安心して時代劇に挑めました。
柄本さん ほらね、キラッキラしてるでしょう?
――――マゲもりりしくて、すごく似合っていました。
松坂さん 本木(克英)監督も「杉野はマゲが似合う」とおっしゃってました。
柄本さん マゲ男子。新しいですね! 杉野さん主演で「マゲ男子」って映画ができちゃうかも(笑)。
松坂さん 杉野が演じる慎之輔は、前半のキーパーソンでもあります。この作品の前半は、慎之輔で回しているようなもの。杉野ファンのみなさんに言いたいです。慎之輔はすごく「おいしい役どころ」です。ぜひ、観に来てください!
杉野さん よろしくお願いいたします!
(聞き手:読売新聞メディア局・後藤裕子、撮影:金井尭子)
【映画概要】
「居眠り磐音」

この男、切ないほどに、強く、優しい。
主人公・坂崎磐音は、故郷・豊後関前藩で起きた、ある哀しい事件により、2人の幼なじみを失い、祝言を間近に控えた許嫁の奈緒(芳根京子)を残して脱藩。すべてを失い、浪人の身となった。
江戸で長屋暮らしを始めた磐音は、長屋の大家・金兵衛(中村梅雀)の紹介もあり、昼間はうなぎ屋、夜は両替屋・今津屋の用心棒として働き始める。春風のように穏やかで、誰に対しても礼節を重んじる優しい人柄に加え、剣も立つ磐音は次第に周囲から信頼され、金兵衛の娘・おこん(木村文乃)からも好意を持たれるように。そんな折、幕府が流通させた新貨幣をめぐる陰謀に巻き込まれ、磐音は江戸で出会った大切な人たちを守るため、哀しみを胸に悪に立ち向かう――。
出演:松坂桃李、木村文乃、芳根京子、柄本佑、杉野遥亮、佐々木蔵之介、奥田瑛二、谷原章介、中村梅雀、柄本明 ほか
監督:本木克英
原作:佐伯泰英「居眠り磐音 決定版」(文春文庫刊)
配給:松竹
(c)2019映画「居眠り磐音」製作委員会