おいしいご飯を食べたいと思って高価な炊飯器を買ったのに、数か月たってみると、仕上がり具合にムラが……。読売新聞の掲示板サイト「発言小町」にこんな投稿がありました。家電量販店には、1台10万円前後もする炊飯器が並び、ヒット商品も次々登場しています。それでも、お米の炊き方に悩む人は少なくないようです。「五ツ星お米マイスター」の澁谷梨絵さんに、お米をおいしく炊くコツを聞きました。
トピ主の「カレーパン」さんは、高価なIH圧力釜式の炊飯器を買って数か月してから、「あれっ」と思うことが増えたそうです。
「調子がいいときは真っ白ツヤツヤなご飯が炊きあがりますが、日によって、ツヤがなく硬めに仕上がったり、パサついたご飯が炊けたり、どうも安定しません。前に使っていた(圧力じゃない)普通の炊飯器のほうがよっぽど安定して美味しいご飯が炊けてました」

買い替えて半年で炊きムラ!
お米の計量や水加減にも注意を払っていたトピ主さん。友人に悩みを話したところ、友人も「私も炊飯器を買い替えたけれど、とくに美味しさを感じない」と言ったそうです。そこで、「同じような感想をお持ちの方いらっしゃいますか?」と発言小町で呼びかけました。
この投稿に、次のような書き込みがありました。
「(購入後)1年ちょっとで、ムラのある炊きあがり。2台続けてはずれでした。ほんと、昔の普通の炊飯器の方が安定してました。今は、ガスコンロ、圧力鍋で炊いてます」(「ねえさん」さん)、「ネットの口コミを参考にIH圧力炊飯器(3合炊き)を買ったのが10年前。2合炊くと美味しかったんですが、制限量の3合を炊くと途端に美味しくなくなる。夫も同じ感想を持っていました」(「街道」さん)などです。
こうした声をまとめると、仕上がり具合にムラが出るのは購入後しばらくたってから。また、制限量いっぱいに炊くと、おいしくなくなる、といったことのようです。これは、炊飯器のせいなのでしょうか?
おいしく炊くには、冷蔵庫や氷!?
ハンドルネーム「象とタイガー」さんは「圧力IHの場合は、美味しく炊こうとしたらそれなりの『儀式』があることを発見しました」として、アドバイスを寄せてくれました。
「(お米は)最低でも30分以上は浸水させます。可能なら冷蔵庫に入れて冷やします。1時間もすれば、お米が水を吸って、米粒が白くなります。そうなってから、お米の合数の水を足します(目盛りを見ながら)。本当はこの水もキンキンに冷やしたものの方がいいんですけど、そんなに冷たくないなら氷を投入します」。あとは炊飯器のスイッチを入れるだけだそうです。
「象とタイガー」さんは「氷を入れて炊くようになってから、お米は艶々です。試しに入れずに炊いたら艶が出なかったです」とも報告しています。
氷を入れることを勧める理由

氷を入れて炊くとは、斬新な方法に思えますが、澁谷梨絵さんは、2年前に出版した著書「世界でいちばんおいしい お米とごはんの本」(ワニブックス)や、出演したテレビ番組でも、この方法を紹介。「氷を入れて炊くのは、とても簡単な方法です。炊飯器は忙しい主婦にとって、心強い味方。ぜひお試しください」と話します。
澁谷さんによると、お米を低温(摂氏5度)の水に浸してから炊き上げると、ご飯の食味が良くなることが、最近の研究で分かってきました。そのため、氷を入れたり、いったん冷蔵庫で冷やしたり(ニオイ移りがしないようにラップをします)することが勧められるようになったといいます。
「書き込まれた『儀式』は、冷やすという意味では正解です。でも、米や水の分量は、水に浸す前に量るべきですね。そうしないと、せっかく手間をかけていらっしゃるのに、全体の分量が違ってきてしまう可能性があります」と澁谷さん。
氷を入れる場合は、1合につき一片が目安。最初から水の分量に含めます。水に浸す時間は、新米の場合は約2時間、新米の時期から半年以上たった5月から10月ごろまでは約30分間。そのあとでスイッチを入れればいいそうです。
米の保存方法・浸水時間に勘違いはない!?

炊飯器を買い替えたのに、なぜ半年もたつと、味にムラが出てきてしまうのでしょうか。澁谷さんは「炊飯器自体に問題がある場合もあるでしょうが、米の保存方法や浸水時間が間違っているのかもしれません」と指摘します。
家庭で米を保存する場合は、冷蔵庫の野菜室がおススメ。ペットボトルなどに入れて、密閉した状態で保存するといいそうです。お米は産地でも流通段階でも、今は温度が一定で13度前後に保たれているのに、家庭で米びつなどに常温保存してしまうと、劣化しやすくなるといいます。
新米と古米とでは、水の分量に差をつけたほうがいい、と考えがち。ところが、澁谷さんは「いえいえ、水の分量を変える必要はありません。保存技術の発達で、今はお米の中の水の量は、新米でも古米でも年間を通じて同じように保たれるようになりました。だからご飯を炊くときの水の量は一年中一定で。ただ、新米ほど表面のコーティングが硬く、吸水性が低い。だから、浸水に時間をかけます」と話します。
広めたい、新しい常識
また、炊飯器の制限容量の7割から8割を目安に炊くと良いそうです。「ご飯のひと粒ひと粒が立ったようになる、というのは、保水膜ができること。これは釜の中の対流、いわゆる米粒が“踊る”ことで実現できるんです。だから、どんな炊飯器でも、上手に炊くためには容量いっぱいではなく、『少なすぎず・多すぎず』を守るといいですよ」と澁谷さん。
炊き上がったご飯も、余ることがわかっている場合は、熱々のうちに冷凍します。冷めるとご飯はどんどん硬くなり、風味も落ちるためです。熱いままでラップを広げ、小分けにして、一食分をのせ、四角く、できるだけ薄めに包みます。さらにアルミホイルでもう一度包み、そのまま冷凍庫へ。アルミホイルの遮熱性のおかげで、周りの食材に影響を与えることなく、急速冷凍ができるそうです。

千葉県松戸市でお米屋さんを経営しながら、おいしいお米を探して全国200か所以上の田んぼを回り、子どもたちにお米について正しく伝える食育にも力を入れている澁谷さん。「ご飯はちょっとした工夫で、ぐっとおいしくなります。特別なものを買わなくても、すぐにできることがこれだけあるので、ぜひ挑戦してみてほしいですね」と強調していました。
(読売新聞メディア局編集部・永原香代子)
【紹介したトピ】
IH圧力釜炊飯器
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