北陸新幹線の開通で、首都圏から旅がしやすくなった石川県の能登半島は、気軽に出かけられるデスティネーションの一つ。海に山、そしてなにより人々の温かさがうれしくて、訪れるたびに「またここに来たい」と思う場所でもあります。私にとって幾度目かの能登旅の目的は、他では味わえない“特別な体験”を満喫することでした。
満天の星の下、定置網漁船に乗って海に出発!
金沢方面から車を走らせて、能登半島へ。日本で唯一、車で砂浜を走ることができる「千里浜なぎさドライブウェイ」を過ぎると、次第に牧歌的な風景が目に飛び込んできます。雄大な海に山。ここは、いつ訪れてもドライブが楽しい場所です。

能登の醍醐味といえば、おいしい魚をいただくこと。能登の海は「天然のいけす」と呼ばれるほど魚が豊富なのです。でも、今回の旅は、ただレストランや旅館で味わうだけではありません。一番の楽しみは、漁師さんとともに海に行き、漁を見学して、とれたての魚を味わうこと!
体験したのは、大型定置網の乗船ツアーです。漁船に乗り、漁師さんたちの定置網の引き上げ作業を見学します。「定置網漁」は、海中の定まった場所に網を設置し、回遊する魚群を誘い込む漁法のこと。大事な水産資源をとり尽くすことがない、サステイナブルな(持続可能な)漁業ともいわれています。ふだんは海の街に行くと、何も考えず「おいしい!」とばかりに魚を食べていますが、そんなことを知ると、海のこと、自然環境のことも考えさせられます。
漁が始まるのはきっと早朝なんだろうなあと思っていたら、朝どころか夜中の3時! まだ辺りが真っ暗なうちに、船は鹿渡島漁港を出港しました。

定置網をしかけた漁場までは20分ほど。船の上、しかも未明の時間なので、最初は相当寒いのだろうと覚悟して縮こまっていたのですが、ふと気づくと、頭上は満天の星。そのなかを、一本の灯だけをつけてすいすいと進む船にいるなんて、とても爽快です。
遠くの灯台が海面を照らすのを眺めていると、なんだか神聖な気分……と、感傷に浸っていると、だんだん船上が騒がしくなってきました。網にかかる魚を狙ったカモメたちです。カモメに迎えられたら、そこは漁場。漁師さんたちが、約1時間かけて網をひくのを見学します。

当然のこと、船は揺れます。でも、だからこその臨場感だし、テキパキと働く漁師さんたちの後ろ姿が記憶に残っています。
とれたての魚の味に食がすすむ、漁師飯の朝ごはん
次から次へと網にかかる魚は、船倉と呼ばれる船底の貯蔵庫に入れて、港まで運ばれます。網をひく、魚群を船倉に入れる、という一連の作業は、とてもスムーズで、思いのほかシステマチック。若い漁師さんたちも、とても穏やかでジェントルマンです。「漁船=怒号が飛び交う」「漁師=荒々しい」というそれまでの勝手なイメージとは、まるで逆。定置網漁はチームプレーであることも関係しているのでしょうか。

引き上げ作業を終えた船は、再び港へ。帰港後、魚はすぐに選別され、市場へと運ばれます。春先にとれるのは、サヨリやハチメ(メバル)、マイワシやコノシロ(コハダの成魚)、小さめのスルメイカ。5月は、ここが一年で最も活気に沸く大漁のシーズンです。ときには、何トンもの大アジが一度に入ることもあるのだそう。

さあ、これからの楽しみは、とれたて魚の朝ごはん。この日は運よく大きなタラが網にかかり、私たちはそれをいただくことができました。タラをお刺身でいただくのは初めてのことですが、こんなにおいしいとは! 新鮮な魚が手に入る定置網漁だからこその恵みです。魚の出汁がたっぷりのみそ汁に、ほどよい脂と甘みが口いっぱいに広がる煮魚と、ごちそう尽くし。朝からつい食べ過ぎてしまいました。乗船体験から朝食まで約5時間。ちょっとハード……という人には、船に乗らず水揚げから見学するコースも。詳しくは、「俺たちの能登地域活性化協議会」へ。

訪れるのが冬であれば、能登名物「かぶら寿司」を作る体験も行われています。かぶら寿司は、かぶらの間にブリやニンジンなどを挟んで発酵させた、なれずしの一種。冬の味覚ですが、シーズン最後に間に合った私は、かぶら寿司作りを体験することもできました。

発酵食品と聞いただけでも美容によさそうな、かぶら寿司。仕上がりはクリーミーで濃厚、思わず地酒が進んでしまうお味でした。
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