唄とアコーディオンの姉妹ユニット「チャラン・ポ・ランタン」(小春さん、ももさん)が、アルバム「ドロン・ド・ロンド」(avex trax)をリリースしました。人気ドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」(2016年)のオープニング曲をはじめ、多くの映画やドラマの主題歌・挿入歌を担当し、注目を集める2人は、今年、ユニット結成10周年を迎えました。公私ともに支え合う2人に、新作への思いやこれまでの道のりについて話を聞きました。
アルバム「ドロン・ド・ロンド」リリース
―――約1年4か月ぶりのアルバムは、どんな経緯で作られたのですか。
ももさん 結成10周年ということも、もちろんあります。最近出してきた作品は、タイアップなどからできた曲が多かったんです。今回は、何もないところから、どうしたいかということだけを話している時に、小春ちゃんからすっと出てくる「小春ワールド」が全開の曲を入れたいなという話になって。
小春さん 今までは、より多くの人に聴いてもらうために「初めて聴く人には、こういう曲がいいんじゃなかろうか」と、見えない相手にすごく気を使っていたところがありました。でも、まだ会ったことのない人に対してそんなことをやっていたら、すぐおばあちゃんになるなって、最近思って。
―――そう思うようになったきっかけは?
小春さん 昨年11月にインディーズ時代のベスト盤「過去レクション」が出たんですよ。そのCDを組み直すために、アルバムを改めて聴いてみたら「あ、だいぶ変わったな」と思ったんです。
ももさん いろんな発見がありましたよね。小春ちゃんのアコーディオンがすごく雑だったりね。絶対、このソロ、ワンテイクしか録ってないだろうってところもあった(笑)。
小春さん そのときは、レコーディングに興味がなかったんですよ。CDを聴いてみて、そんなふうに面持ちも変わったし、昔持っていたものや時の流れで捨てなくてはならなかったものが、もう手元にないってことにも気づいた。

―――10年で大きな変化があったんですね。
小春さん 一番初めは、妹は譜面を読めないので、私が歌詞に歌い方について書き込み、妹がそれにならって歌うという伝言ゲームのようなことをしていました。その時、妹は、私が書いた歌詞の意味を分からないまま歌っていた。憂鬱っていう単語自体を知らないまんま、しばらく歌っていたこともあったね。
ももさん まあでも、今でも漢字書けと言われたら書けないですけど……。
小春さん 確かにね、漢字はね(笑)。憂鬱の漢字自体が憂鬱だからね。でも今、私が書いた歌詞を、共感こそせずとも理解できてしまうくらい妹も、大人になったことに気づいたんです。アーティストに対して「昔のほうが良かった」っていうお客さんとかって、うぶなところとか、今はもうどうしても持ってこられない部分が好きだったりする。そんなお客さんの気持ちになりながら聴いていました。改めて思ったのは「ただ大人になっただけじゃないか」ということ。
ももさん ね。何を変えたということもなく、ただ生きてきたっていうだけ。
―――「変化」、難しいテーマです。
小春さん 新しいアレンジをしたり、普段使っていないポップスとかロックのリズムを取り入れてみたり……。「こんなことができるはずだよ」って、毎回アルバムで新しい取り組みをしてきたと思うんですね。なのに、CDを出すと、聴いた人たちからは「すごく邦楽っぽくなったね」と言われる。逆に、案外すんなり出てくる音楽に対して、「超新しい!」って反応があるんですよ。
ももさん それこそ小春節なんですけどね。10年の中でいろんな刺激を受けてきて、置いてきたものもあれば、得たものもたくさんあった。今持っているものをフルに出そうということですね。
―――そんな中、できた渾身の新作。出来栄えは?
ももさん これからのスタートとして重要です。超自信作です……。
小春さん なんで、最後ちょっと弱気になったの(笑)。「逃げ恥」とかから入った人は、すごくポップで平和なユニットだと思っているはず。このアルバムで、私たちを知ってもらえるんじゃないかな。
ももさん うん、知ってほしい。でも、本当に自信作。「これぞチャラン・ポ・ランタン」という、私たちにしか出せない世界観、音楽を詰め込みまくりました!
結成して初めて聴いた妹の歌声
―――元々小春さんのインストゥルメンタルのバンドで、歌詞つきの曲を初めて作ったのが、結成のきっかけだったとか。
小春さん 初めて歌詞つきの曲を作って「誰に歌ってもらおうか」と考えた時に、家にすごく暇そうなやつがいた(笑)。妹が高校1年生になったばかり。それまで妹の歌声を聴いたことはなかったんですけれど、妹がよくカラオケに行っていることと、中学校の行事で歌っていたことを、母から聞いたんです。その情報だけを頼りに、妹が寝ている間にこっそり財布を開いてみたら、カラオケの会員カードがいっぱい出てきて。
ももさん まあ、暇ですよね。そりゃあね。でも、誘われた時も、イエス・ノーで答えられる感じではなくて、「曲作ったからよろしく」って。
―――ももさんの歌声を初めて聴いたとき、どう思われましたか。
小春さん 別になんにも。下手ではないかなと思った。ただ、何か教えたら歌えそうとは思いましたよ。だから、歌詞カードに丸や矢印を書き込んで、「この言葉はこぶしを入れる」「もうちょっとしてから音が上がる」と教えていた気がする。
ももさん 本当に言われた通りに歌っていました。自分で何も言わなければ、何も癖をつけず。操り人形のごとく、癖をつけろと言われたところに癖をつけていましたね。
―――今からは想像もつきません。
小春さん 一番面白かったのは、ももは当時、「なんとなく、いい感じに」歌ったり目線を動かしたりすることができなかったんです。だから、最初の頃の歌っている写真で、ももは全部、私のことを見ていた(笑)。
ももさん もう目線とか、どうしたらいいかわからなかった。
小春さん これはやばいと思って、観客の視線をももの表情以外に分散させるためにブタのぬいぐるみを持たせたんです。目も泳ぐから、ハートのサングラスをかけさせて。
それで、会場の天井にミラーボールがあったので、「ミラーボール見て」って、ももに伝えたんです。そしたら、今度はずっとそこしか見ない(笑)。
―――こんなふうにずっと活動していくと当時、思っていましたか。
ももさん 考えてなかったですね、考えていなかった。2回言っちゃった(笑)。ボーカルユニットになるとは思ってなかったんじゃない? 姉は、ずっとアコーディオンをメインでやってきていたので。
小春さん そうそう。まさかこんなに歌詞を書くとは……って感じ。
―――今はどんなふうに曲作りを進めているのですか?
ももさん 今はもう、さすがに言われた通りではないですね。
小春さん でも、いまだにそんなに言い争いにはならない。別にそれは、言い合えないとかじゃなくて、2人とも譲れないところが違うから良い感じに混ざっています。生まれたときから今日まで、聴いているものが似ているから好きなものも近いんじゃないかな。これが、生まれも育ちも違うユニットだったら、感性もきっと違う。
2人で「1人組ユニット」
―――小春さんは、Mr.Children(ミスターチルドレン)の桜井和寿さんに誘われてツアーやレコーディングに参加。ももさんは、4月5日公開の映画「麻雀放浪記2020」(白石和彌監督)のヒロインに抜てきされるなど、個々でも活躍されていますね。
小春さん 他の人たちと活動したり、舞台の音楽をやったりしていますけど、チャラン・ポ・ランタンの居心地の良さを改めて感じますね。
小春さん・ももさん 2人でやっているけど、1人でやってる感じ!
小春さん だから、良いのか悪いのか、私たちの中では反対意見が出ない。たぶん、これはバンドとしては良くないでしょうね。なんちゅうの、化学反応が起きないというか。
ももさん ソロ活動ってことだよ。2人組ユニットっていうより、もう1人組ユニット。
―――そうすると、個々での活動は刺激になっているのでは?
ももさん なりますね。女優業でいくと、普段やっていることと全然違うので、新鮮です。分からないことが多くて面白い。そういう経験も生きてきたらいいですね。でも、あくまでチャラン・ポ・ランタンにフィードバックできることが増えたらいいなというくらい。
チャラン・ポ・ランタンにしかできないことを
―――今後の抱負を教えてください。
ももさん いろいろやりたいけどね。
小春さん 他の人もできそうなことをやるのはやめようかなって思って。個人の話ですけど、私はサーカスを見て音楽を始めて、そこに影響を受けて音楽やらせてもらっているんですけど、そんな人があまりいないんだったら、それをやったらいいじゃんと思います。
ももさん 移動サーカスみたいなね。やりたいですよね、全国。
小春さん 妹は、小さい頃、ミュージカル女優になりたかったんです。この子が大きくなって、そういうことができそうな場所に立っているんだったら、自分たちでミュージカルのような舞台を作ることもできると。自分たちのやりたいことが、音楽とちょっとずれていたとしても、実現させることができるのがチャラン・ポ・ランタンなんじゃないかなって。
ももさん あとは、いつか本当に紅白出たいなあ……。あと、オリンピックの開会式とかかかわりたい。せっかく東京で活動してきたから。がんばります。
(聞き手・メディア局編集部 安藤光里、撮影・本間光太郎)