ちまたでは近年、「マウンティング」という言葉をよく耳にします。この言葉、元々は動物界における順序確認などの行為を意味しますが、日本では、人間関係において「自慢話などをさりげなく会話の中に盛り込み、自分が相手よりも『上』だということを示す」といった意味でよく使われています。特に女性同士のマウンティングが話題になることが多く、メディアなどでもよく取り上げられています。
さて、この女性同士のマウンティングですが、はたして日本だけのものなのでしょうか。今回は「海外のマウンティング事情」にスポットを当ててみたいと思います。
男性同士の場合は力関係の基準が明確
言うまでもなく、マウンティング行為は何も女性間だけで行われているわけではありません。むしろ男性同士のマウンティングだって日常です。ただし、男性の場合は、相手との「力関係」を測る物差しが比較的はっきりしているのではないでしょうか。単純な例で恐縮ですが、社会的地位や運動能力、財力などがモノをいうことが少なくありません。
余談ですが、例えばドイツではここ数年、環境保護の観点から、人々の移動手段が車から自転車に移行しつつあるものの、一部のドイツ人男性の間ではまだまだ「車にまつわるマウンティング」が行われています。「自分の車のほうが、あいつの車よりもスピードが出せる」「自分の車のほうが、あいつの車よりランクが上」というようなマウンティングを、会話の中でちょくちょく耳にするのです。一方、日本の男性の場合は、一概には言えないものの、「仕事や稼ぎ」で自分が相手より上か下かをランク付けしていることが多いのではないでしょうか。
「幸せ」を競い合う女性たち
これに対して、女性同士の場合は、「どちらが上か下か」の基準が男性同士よりも一見分かりにくいです。というのは、女性同士の場合、「体力のあるほうが偉い」などというハッキリとした基準はありませんし、仕事で出世をした女性がなぜだか「それって幸せなの?」といった目で見られてしまう雰囲気も、日本にはまだあるからです。
そんなふうに、「何をもって『成功』とするのか」という基準があいまいなためか、女性同士の場合は「どちらが優秀であるか」というよりも「どちらがより幸せであるか」を競い合うことが多い印象を受けます。つまり、女性によるマウンティングには「私はあなたよりも『幸せ』なのよ」というメッセージが含まれているのです。そんな「幸せ確認」のために、会話の中で相手の夫の職業を聞き出した後、「自分の夫の方がどこからどう見ても稼ぎの良い仕事をしている」ことをアピールする‥といったマウンティングもニッポンではよく見られるのでした。
女性同士のマウンティングの特徴は「会話に男性が登場すること」です。それが彼氏や夫であることからも分かるように、女性の幸せは意識的にか無意識的にか、恋愛や結婚と結び付けて考えられていることが多いようです。日本の場合は、会話の中でチクリチクリと、彼からのプレゼントが高額であることが盛り込まれていたり、夫の役職や年収をうかがわせる情報が「さりげなく」会話に盛り込まれていたりすることが多い気がします。でも、幸せを競い合う女性というのは、何も日本だけの話ではなく、欧州の女性も時に幸せを競い合っています。

パートナーの名前を会話の中で連発
さて、本題の海外でのマウンティング事情ですが、筆者がかつて一緒に仕事をしていたドイツ人女性で、仕事中によく夫の話をする人がいました。仕事の話をしていたかと思えば、「アンディがこう言ってた」とか「週末はアンディがこんなことをした」に始まり、「アンディが深爪をした」とか、果ては「アンディがTシャツを買った」といった他愛のない内容で、筆者は微笑ましく聞いていました。しかし、いつからか彼女が「夫と過ごした週末の話」をした後に、「で?あなたは?週末はいつも一人で過ごしているの?」と、筆者が独身であることを確認するかのような話しぶりになり、ここで筆者もようやく「ん? もしかして私、ずっとマウンティングされていた……?」と気づいたのでした。
これには後日談があり、しばらくして筆者が結婚することになった際、「彼女に結婚のことを伝えるのも何だか面倒くさいので、そのままマウンティングさせておけ」と思ってしまい、彼女には結婚したことを伝えず、その後もマウンティングされ続けていました。ところが、ある日、ふとしたことから結婚をしたことが彼女にバレてしまいました。それを機に、彼女からのマウンティングが止まったのはよかったものの、あれほどしてくれていたプライベートな話をまったくしてくれなくなりました。
振り返ってみると、「夫のアンディがTシャツを買った」といった話は、私が当初思っていた「他愛のない会話」などではなく、「私の生活には常にアンディがいて、あなたの生活の中には愛してくれる男性がいなくてかわいそう」という意味だったと知り、ちょっぴりショックでした。
彼氏の家族を自慢する欧風マウンティング
このように、ドイツを含むヨーロッパにおける女性同士のマウンティングには、「パートナー」は登場するものの、それは必ずしも「彼の年収や肩書」などの自慢ではなく、「私には24時間一緒に過ごせる男性がいる」というような自慢だったりするので、日本的な感覚だとちょっと分かりにくいかもしれません。さらには「彼氏の家族といかに家族ぐるみの良い付き合いができているか」、果ては「彼ママ(彼氏のお母さん)がいかに素晴らしい人物か」など、日本的な感覚からすると「謎」のマウンティングも登場したりします。
まとめると、女性同士のマウンティングに関しては、日本でもヨーロッパでも「恋愛が絡んでいる」という共通点はあるのですが、日本の場合は、男性の経済力が遠回しにアピールされがちなのに対し、ヨーロッパ流のマウンティングは「見て見て! 私たち、24時間ずっと一緒なの! 良い関係が築けているのよ!」という旨のマウンティングだったりするのです。
でもマウンティングも、多少ならば、あっても人間くさくて良いような気もします。自分自身も、至るところでマウンティングをしているのだとも思います。もしかしたら、私の場合はマウンティングというよりも「出羽守」(何かにつけて「海外では」などと他の例を引き合いにして語る人)という言葉のほうが当てはまるかもしれませんが……。
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