◆ローストビーフ
【材料・3~4人分】
牛もも肉(塊肉) 700g
塩 7~10g
ブラックペッパー 適量
にんにく(たたきつぶす) 1片
好みのハーブ 適量
植物油 少々
【作り方】
牛肉を常温に戻して塩コショウをし、タコ糸をまく。フライパンに油を熱し、強めの中火で肉を焼く。途中でニンニクを加え、表面全体がこんがりするよう、転がしながら20分ほど。アルミホイルに肉を乗せてハーブをちらし、包んでフライパンの上に戻し、火をつけずにそのまま1時間ほど置く。ホイルから肉を取り出し、好みの厚さにスライスする。
クリスマスがやってくる。
おいしい料理を作ってモテたい! そんなときにもっとも注目を集められるメニューの一つがローストビーフだろう。ただ、おいしく作るのは難しそう、と思っている人は多いんじゃないだろうか。「そんなことはない」と言いたいところだが、確かになかなか難しい。でも大丈夫。きっとスパイスやハーブが力を貸してくれるから。
牛肉の塊と相性がいいスパイスは、なんと言ってもブラックペッパーである。ただ、肉に塩コショウだなんて、ありきたりすぎる。そこでいいパートナーを紹介したい。ガーリックとハーブである。ちょっとカッコつけてカタカナで書いてみたが、ガーリックはご存じの通り、にんにくのことである。ハーブは好みのものならなんでもいい。たとえば、ローズマリーやタイムをチョイスする。
「ペッパー+ガーリック+ハーブ」のチームでローストビーフは抜群に香り高く、うまくなる。
まずは肉に塩コショウをする。塩は、肉の重さの1%~1.2%くらいがいい。コショウは好みでふりかける。肉の形があまりに不均一ならタコ糸で縛るのもありだ。フライパンで焼くときのコツは、強めの火で肉の表面をこんがりと焦がす。
焼きながらローストビーフのストライクゾーンについて考えてみる。ローストビーフというのは、文字通り「牛肉の塊をロースト」するのだが、肉の外側しか見えないのに中まで火が通っているかどうかを見極めなくてはならない。
たいていの牛肉はこちらの思うようになってくれない。肉質が違い、サイズや形が違えば均一に火は入らない。だから、ある程度は経験値や勘に頼って作ることになる。それでも、少しずつ仕上がりは変わってくる。ただ、恐れることはない。それらはすべて個性だと思ってストライクゾーンを広く持てばいいのである。肝心なことは、肉の中心まで火を入れること。
焼いている途中、にんにくを加えて油に香りを移す。その油が肉の表面に絡んでいく。あまり早くにんにくを入れると焦げてしまうので注意。そして、ハーブは、焼いているときには投入しない。香りを存分に楽しみたいから必要以上に熱を入れないようにするためだ。
肉が焼けたかどうかの判断は、ひとつはこんがりとした焼き色がついているかどうか。もうひとつは、表面を指で押してみるといい。ぎゅっと押し返してくるような弾力を感じればローストは完了する。
アルミホイルを準備し、好みのハーブを散らして肉を置き、ぐるっと包み込む。肉が小さければそのまま常温で寝かせ、大きければ熱々のフライパンの上に戻して、1時間ほど置く。余熱で外側から肉の中心にかけてじっくりと火が入っていく。
余熱で待っている間にまたストライクゾーンについて考える。そういえば、昔、電車に乗っているときに、そばにいた大学生男子3人組が大声で女性の好みについて話していた。話の内容によるとどうやら彼らはこれから合コンに向かう途中らしく、相当盛り上がっている。
「おれ、ストライクゾーンが狭いからなぁ」
ひとりの男子がそう言うと、もうひとりが逆のことを言った。
「そりゃ、大変だね。俺は広いから誰でも好きになっちゃう」
まあ、よくある会話だと思って聞いていたら3人目の男子の発言がすごかった。
「俺はさ、ストライクゾーンが星形なんだよ」
え!? 星形!? 思わず彼の顔を見た。いたって真剣である。他のふたりの男子も僕と同様、発言の意味がわからず、混乱しているようだった。そこから電車の中の会話は、星形のストライクゾーンについての解説に終始した。要するに好みがバラバラで自分でも傾向がつかめない、ということのようだった。ストライクゾーンの大きさについてはよく出る話だが、形について議論する人は珍しい。
ローストビーフは、3度作ったら3様の仕上がりになる。一度に5本作ったら5様の仕上がりになる。そのくらい肉の個性が出る。でも、ストライクゾーンが星形の彼ならどんなローストビーフができてもおいしく食べるのだろう。意外と星形というのはいいのかもしれない。
失敗が怖ければ、クッキング用の差し込み式温度計を使うのがいい。真空調理という方法もある。ビニール袋に入れて空気を抜き、60度に熱した湯につけるのだが、それじゃあ、いまいちモテないんだよなぁ。魔術師のように中を見ても触ってもいないのに中の温度がわかるようでなくちゃ……。
肉は寝かせて落ち着かせたらホイルを開いて切ってみよう。できあがりが心配なら肉の断面を少し指で触ってみるといい。人肌ほどの温度を感じられれば火は通っていると判断できる。できあがってすぐに切ると肉汁があふれ出てしまうこともある。急いでいないなら、十分に時間をおいてから包丁を入れたほうがいい。それでもスパイスでフレーバーのついたローストビーフは、これまでに食べたことのない風味で楽しませてくれる。
さあ、これで、モテるローストビーフは完成だ。まあ、12月に入ってからクリスマスにモテようだなんて、計画が甘すぎるんだけどね。今年かなわなければ、来年のクリスマスに備えることにしよう。1年間、たっぷり、ローストビーフの訓練ができるから。