茶道をテーマにした、森下典子さんの人気エッセー「日日是好日『お茶』が教えてくれた15のしあわせ」(新潮文庫)が映画化され(10月13日公開)、ヒロイン・典子の20歳から45歳までを演じた、女優の黒木華さん(28)に映画の見所を聞きました。
――大森立嗣監督から典子役のオファーを受けた時の感想は?
茶道の経験がなかったので、「お茶の映画ってどういうものなんだろう」と思ったのが、最初の正直な感想です。でも、単に「お茶の映画」というだけでなく、多くの方に共通する「人生」の物語なんだと思います。お茶って私からは少し遠い存在だと思っていましたが、そんなに気負わなくてもいいのだと、この映画を通して感じました。もちろん作法など覚えることはたくさんありますが、みんなでお菓子を食べながらお茶をいただいて四季を感じたり、自分の内面と向き合えるものだとわかり、近しい存在になりました。
――7月に京都で行われた完成披露イベントは、いかがでしたか?
茶道にゆかりがある禅寺・建仁寺で、献茶式に初めて参加し、すばらしい体験をさせていただきました。お茶の映画のイベントを京都という場所でできてとても幸せでした。京都は抹茶の文化も根付いていて、みなさんが、普段からお茶を身近に感じて飲まれているようです。
樹木希林さんから大絶賛
――その際、師匠の武田先生役の樹木希林さんに「これから日本を背負って立つ役者だと思います」と大絶賛されたそうですね。なにかアドバイスはもらいましたか?

光栄です。自分は全然ダメだと思っていたので。でも、「あなたはしっかりしているから、別にアドバイスは何もないわよ」と言っていただきました。
――黒木さんからは何と?
樹木さんは、撮影所に自分で運転して来られるので「かっこいいですね」と言ったら、「私は、自分の身の回りにかっこいいものを集めることにしているのよ」とおっしゃられて、その言葉も考え方も更にかっこいいなと思いました。
ゾンビ物やホラー映画が好き
――お茶の映画に主演するということで、黒木さんの「和」の雰囲気にぴったりだと思いました。
よく和が似合うと言っていただけるのですが、私はどちらかというと洋物の方が好きなんです。音楽もパンクやビジュアル系のロックが好きですし、映画も洋画が好きです。ゾンビ物やホラー映画などもよく見ます。
――今回、樹木さんも多部さんも、初共演でしたね。

樹木さんは、いい意味でイメージどおりの方で、ざっくばらんな方。知識も豊富で、今回初めてお会いして、さらに好きになりました。
多部さんは、色々な役柄を演じ分けられている女優さんで、出演されている舞台を以前からよく見に行かせていただいていました。実際にはひとつ年上なのですが、役では同い年のいとこという近しい関係で、等身大の美智子の演技を間近で見て刺激になりました。二人ともどちらかというとあまり多く話す方ではないので、撮影の合間は思い思いに過ごしていました。
大人の女性を演じるのに苦労

――典子が30歳を超えたとき、それまでの雰囲気とはガラッと変わって、はっとするぐらい色気を感じました。
実年齢より年上の役だったので、どうしたら落ち着いた大人の女性に見えるか考えたり、監督とも話し合いましたが、演じるのに苦労しました。お茶を20年以上続けてきて、内面に染み付いたものは想像でしか分からないので、難しかったです。
――実際、原作者の森下典子さんの役を演じましたが、ご本人のキャラクターに似せましたか?
森下さんご本人はいつもニコニコされていて、ほわんとした雰囲気の方です。私は、森下さんに寄せたわけではなく、映画のキャラクターとして、わりと感情の起伏がはっきりとした自分なりの典子を演じました。
一生続けたいものは?
――典子は、お茶という一生続けられるものを見つけましたが、黒木さんご自身は?
お芝居でしょうか。私は、実は飽き性で物事が長続きしないんです。でも、唯一長続きしているのがお芝居なんです。できれば一生続けていきたいと思います。好きなことを仕事にできることへの感謝を忘れないようにしたいですね。
――劇中子どものころ見た時は理解できなかったフェデリコ・フェリーニ監督の「道」という映画が、大人になってから見たら泣けたというシーンがありましたが。
高校生のころから洋画をよく見ていました。「道」は大学生の時はなんとなく見ていたのですが、今回改めて見直して、以前観た時とは印象が違って、「こんなシーンがあったんだ」と気づいたり、ひとつひとつのシーンが切なくて、感動しました。
――茶道のシーンでは、四季折々の和菓子が出てきましたが、どれがお気に入りでしたか?
「紫陽花」も好きですし、典子が節分の前の日に食べた「下萌」という、和菓子も好きです。雪解けの大地から芽吹く新芽を表していて、春の訪れを感じるんです。茶室に飾ってある掛け軸やお花、茶碗もそうですが、こうやって四季を感じられる日本人はなんてすてきなんだと思いました。
――プライベートでもお茶を立てたりしましたか?
家でずっとお茶をたてて練習していました。だれかに振る舞ったりはしませんでしたが、お抹茶が好きなので、自分でたてて飲んでいると、落ち着きますし、そういう時間を持つことで、幸せな気分に浸れました。
「文学の香りがする稀有な女優」
――今まで仕事をともにしてきた野田秀樹さんの「何色にも染まることが出来る女優」という表現のほかに、山田 洋次監督は「日本一、割烹着の似合う女優」と黒木さんを評してます。
とても光栄です。何色にも染まりましょう(笑)。
――本作の典子もそうですが、次回作の「ビブリア古書堂の事件手帖」(11月1日公開予定)など、出版社や本に関係する役が多い印象ですね。岩井俊二監督は「文学的な香りがする稀有な女優」と言っています。
現代劇もよくやらせていただいているのですが(笑)。昭和や文学少女のイメージがあるんでしょうか? 本は好きなので、そう言っていただけるのはありがたいです。
――最後に映画の見所をお願いします。
お茶がテーマの映画ですけれど、典子の人生にきっと多くの方が共感できると思います。お茶の世界に触れたことがない方にも、典子にとってのお茶のような存在が見つけられると思います。映画の中に映る四季を感じ、単純にお茶の世界を楽しんでいただきたいですし、それぞれ色々な見方をしていただければうれしいです。(聞き手、撮影:読売新聞メディア局・遠山留美、撮影:写真部・吉川綾美)
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【公開情報】「日日是好日」10月13日(土)全国公開
【ストーリー】著者・森下典子が街の茶道教室に通い続けた約25年にわたる日々をつづったエッセーを映画化したヒューマンドラマ。大学生の典子が、同い年のいとこ美智子と茶道教室に通う中で人生の意味を見出していく模様を描く。
■脚本・監督:大森立嗣
■出演:黒木華、樹木希林、多部未華子ほか
■原作:森下典子「日日是好日『お茶』が教えてくれた15のしあわせ」(新潮文庫)
■製作幹事:ハピネット/ヨアケ
■配給:東京テアトル/ヨアケ
■クレジット:©2018「日日是好日」製作委員会
公式HP:
【予告編(YouTube)】