日本から行きやすく、料理がおいしくて治安もいい台湾は、女性に大人気のデスティネーション。台北、台南などの都市部や、アクセスしやすい西部が観光地として知られていますが、東南部に位置する台東県も、たくさんの魅力にあふれています。青いグラデーションを描く海や、豊かな緑、原住民が守り継ぐ美しい文化……。台湾の原風景が広がる台東県を旅しました。
車窓から牧歌的な風景を楽しむ
太平洋と険しい山岳地帯に挟まれた東海岸一帯に位置する台東県。そこには、海と山が織りなす美しい絶景が広がり、都市部では見られないような牧歌的な風景も残されています。
私がこの旅を企画したのは、ある取材で原住民(中国から漢民族が渡ってくる17世紀以前から台湾に暮らす人々のこと)、パイワン族の村を訪ねたことがきっかけでした。「またあの美しい風景を見たい!」という熱は冷めやらず、半年後、ふたたび東部を旅することに。

旅の拠点は、台東県の中心地、台東市。成田から台湾第二の都市である高雄まで飛行機で約4時間、高雄から電車で台東まで約3時間。台北のように気軽に行ける場所ではないけれど、こんな移動時間があるからこそ、旅はワクワクするもの。日本の米どころのような水田風景と、その合間にバナナやビンロウなど南国の樹木が点在する車窓を眺めながら、のんびりと現地に向かいました。
台東に到着したら、まずは、おいしいもの探しです。台東中央市場の近くでいい香りを漂わせていたのは、中華式朝食専門店の「早點大王」。できたての焼餅(中華風パン)や油條(中華風揚げパン)、饅頭などがずらりと並び、朝から食欲が刺激されます。

お店のオープンは、なんと午前3時。早朝から大繁盛していて、バイクを店の前に止めて、ささっと朝ごはんを買っていく出勤前の人が後を絶ちません。こんな台湾らしいエネルギッシュな朝の光景は、見ているだけで元気をもらえます。

地元の人が勧めてくれた名店が「林家臭豆腐」。豆腐を発酵液に漬けて風味付けをした臭豆腐は、その名前といい、強烈な香りといい、かなりインパクトがある台湾名物です。屋台で独特の香りを嗅いで、カルチャーショックを受けたことがある人もいることでしょう。
でも、このお店の臭豆腐は、独特の香りがほとんどありません。揚げた臭豆腐は、外側はカリッ、中はホクホクしていて、できたての厚揚げ豆腐のよう。甘辛いタレをかけ、泡菜(漬物)と九層塔(台湾バジル)を添えて食べると、なんともいえない風味が口に広がります。これは臭豆腐が苦手な人にもおすすめ。そのイメージを覆す味わいでした。
ヘルシーな薬草鍋の食べ放題を満喫!
にぎやかな台東市から車で30分も走れば、そこには豊かな大自然が広がっています。絶景を眺めて心を癒やされたい……のはもちろんですが、私が郊外まで足を延ばした一番の目的は、薬草鍋。山間にある「台東原生應用植物園」では、朝摘んだばかりの新鮮な薬草を、ヘルシーな鍋で楽しめるのです。しかも、薬草は何種類もあり、すべて食べ放題!

ここは日本統治時代から薬草の研究が行われてきた施設で、広大な敷地内には300種以上の薬草が育つガーデンのほか、レストラン、薬草を使ったコスメや食材を売るショップが併設されています。れっきとした植物園ですが、薬草の観賞よりも、薬草鍋を目的にやってくる人が圧倒的に多い様子でした。

これを食べるために遠方からはるばるやって来る人が多いという薬草鍋。その味はうわさに違わずおいしく、食べごたえも十分。ビュッフェテーブルに多種類の薬草が並ぶ光景も圧巻です。食べる前は「薬草だけで飽きないかな」と思っていましたが、それぞれ甘みがあったり、山菜のようなほろ苦さがあったりと、味の比較が面白くて何回もおかわりしてしまいました。
おなかも満たされ、薬草のパワーをもらって元気になった後は、ここから車で30分ほどの鹿野(ルーイエ)へ。山に囲まれた緑豊かな大地に、美しく区画整理された田んぼや畑が広がる風景は日本の田舎にも似ていて、なんだかほっとします。
それもそのはず、ここはかつて、日本人移民村「龍田村」(旧鹿野村)があった場所でもあるのです。大正4年(1915)から入植が始まり、計画的に村が造られました。碁盤の目状に道路が整備された村の跡は、現在の街の原型にもなっているのだそう。また、かつて日本人が使っていた村役場や日本家屋なども、地元の方々によって大切に保存されています。
どこか懐かしい「昔の日本」に出会えるのも、台東を旅していて心が安らぐ理由かもしれません。雄大な自然が魅力の台東は、その中に息づく人々の想いもまた、心を癒やしてくれました。