◆カキのソテー 焦がしバジル風味
【材料】
カキ(加熱用) 250g
塩 少々
赤唐辛子(みじん切り) 1本
ドライバジル 大さじ1
小麦粉 少々
オリーブ油 大さじ2
にんにく(みじん切り) 1片
白ワイン 大さじ3
バター(あれば) 10g
【作り方】
カキの水けを切ってペーパータオルで表面をふき取り、塩と赤唐辛子、ドライバジルを混ぜ合わせ、小麦粉をふっておく。フライパンに油を熱し、にんにくがほんのり色づくまで弱火で炒め、カキを加えて強めの中火にし、表面をこんがりするまで炒める。カキを取り出して白ワインを加えて煮詰め、バターを溶かし混ぜて仕上がりの器にまわしかける。
「最近、カキが安くなってきたの」
彼女はそう言う。
「え!? だ、だから?」
僕はそう思う。スーパーで食材を買うとき、僕が気にするのは、「旬かどうか、新鮮かどうか」であって「値段が高いかどうか」ではない。値段を気にするのは、きっと彼女が主婦であり母親だからだろう。主婦でない僕は何も考えずにほしいものをレジに持っていくのだ。
カキが旬を迎える時期が始まりつつある。どんな料理にしてみようか。
「カキフライ、カキ焼きそば、カキ蒸し焼きは作ったことがある。でも、もっとほかのメニューを試したい!」
そう付け加えると、その後で割と無邪気にこう言った。
「スパイスで生臭さが消えて、うまみが出るようなメニューを教えて」
生臭さが消えてうま味が出る!? なんという難題。
カキフライは大好きだ。衣にスパイスを混ぜ込めば、香ばしくおいしいカキ料理ができるだろう。でも、カキフライはもういいと言われているのだ。焼きそばでも蒸し焼きでもない何かが求められている。
真っ先に頭に浮かんだのは、パスタだった。カキのスパゲティ。アーリオオーリオスタイルが合いそうだ。にんにくと赤唐辛子があればできる。作ってみようか。
にんにくと赤唐辛子をオリーブ油で炒める手法は、王道である。なんとも香りがいい。そこに何を合わせようかと考えた時にバジルが浮かんだのは、きっとイタリア料理の影響なんだろう。カキを使ったスパゲティはそれなりに溢れている。だからこそ、別の料理に仕上げたい。
細かく刻んだにんにくは油で炒める。調理の途中までは、アーリオオーリオペペロンチーノを作る容量で進められればいい。別のコンロでパスタを茹でなくちゃ、と思ってふと考えた。別にパスタを加えなくてもカキの風味は存分に味わうことができるはずだ。
肝心のカキには赤唐辛子のみじん切りとバジルを細かく刻んで混ぜあわせ、小麦粉をふった。それから、フライパンに入れてソテーする。
フライパンの中に残った液体はもったいないから白ワインとバターを加えて少し濃いめのソースを作り、器に盛ったカキにまわしかけた。
ドライバジルというスパイスは、どんなスーパーに行っても手に入れることができるだろう。それくらいメジャーなスパイスだ。そういえば、キッチンにあったかも! という人も多いんじゃないかと思う。そんなときは、思い出してほしい。そのバジル、前に使ったのはいつ? 何の料理? 忘れてしまったんじゃないかな。
僕はこのドライバジルには不満を持っている。ハッキリ言って香りが弱すぎるのだ。パラパラと料理にふりかけた程度では、たいした効果は表れない。だから、使うときには、思い切ってドサッと加えるのがいい。そして、少々きつめに火を入れる。なまけた体に鞭を入れるようにこんがりとバジルを焦がすのだ。
そうやって出来上がったこのカキのソテーをひと口食べる。もぐもぐとやるに連れて、バジル独特のフレーバーが鼻から抜けていくのがわかるだろう。そのとき、カキの生臭さはどこかへ飛んでいる。その結果、カキ本来のうま味が際立って感じられるはずだ。僕はそう思う。これでなんとか彼女の期待に応えられたのかもしれない。
そういえば、つい最近までパリに行っていたのだけれど、現地で人気店を営むシェフから、こんな言葉を聞いた。
「スーパーで安い食材を見つけたら、買うべきですよ。値段が安いということは、その食材が旬でたくさんとれている証拠だから」
そうか、カキが安くなってきたということは……。チャンスはいまだ、ということだ。