アラサー女子、イケメン料理人と出会って奮起
仕事で行き詰まったアラサー女子が出張料理人と出会って、人生を考える連作短編小説シリーズ『出張料亭おりおり堂』(中央公論新社)が文庫で発売されました。第一弾は「ふっくらアラ煮と婚活ゾンビ」。料理を通して、仕事と恋に揺れ動く30代の女心を描いた安田依央さんに、文庫の読みどころを聞きました。
「おりおり堂」の主人公は、派遣で働く32歳の山田澄香。仕事も婚活もイマイチで、後輩の結婚式の帰りに偶然立ち寄った骨董店「おりおり堂」で、イケメン料理人・橘仁に出会います。この店のもう一つの売りは、仁が顧客の家で披露する出張料理。その絶品料理に心も胃袋も奪われた澄香は、転職して仁の助手になり、二人三脚でワケありの客が抱える問題を解きほぐしていきます。

安田依央/中公文庫/626円(税込み)
この小説は、2014年4月から1年間、「大手小町」で連載され、恋愛下手の澄香と硬派な仁のもどかしい恋の行方と、毎回登場する料理が評判になりました。文庫では、大幅に加筆修正し、より30代の女性の気持ちに寄り添って描いています。
派遣社員として潜入取材
文庫化にあたって、安田さんは、小説のテーマを「婚活ゾンビからの再生」にしたと言います。「澄香は『婚活している女たちは、まるで小ぎれいなゾンビの群れ』と独白し、『自分は一生、ゾンビのままかも……』とあきらめています。でも、このゾンビは似合いの相手を見つければ、蘇生の可能性がある。そこで、澄香のような恋愛ゾンビ、婚活ゾンビが再生していく物語にシフトしました」

安田さんは、30代女性の「不安定な立ち位置に揺らぐ心」を描くために、派遣会社で登録して、実際に派遣社員として働いてみたそう。「女性に“職場の華”的な期待をする会社もありました。そこで強く感じたのは、結婚や恋愛を考えていない人は『変な人』扱いされること。仕事ができても、結婚しないと『なぜ?』と言われ、恋愛してないと『不幸』みたいに思われる。理不尽だなあと感じました。この本では、そこを少し強調して描いています」と話します。
「台所」から見えてくる様々な人生を描く
出張料理を題材にしたのは、家庭ごとに違う台所の風景を描くことで、「レストランや料亭といった特別な空間ではなく、家庭の一つ一つ違う台所で、お客さまの人生に寄り添って料理を作る。そこに生まれるドラマがあるはず」と思ったからだとか。小説に登場する料理は、安田さんが勉強したものもオリジナルもあり、出てくるレシピはすべて、自分で作っているそうです。
文庫化にあたっての注目ポイントは、「破壊力を増した仁さんのイケメンぶり(笑)」。恋愛不全の澄香と仁のモヤモヤもどかしい関係や、毎回登場するユニークなゲスト、料理を軸にした数々のドラマにページをめくる手が止まりません! 12月に第2弾も刊行予定だそうです。
取材・文 後藤裕子(メディア局編集部)