老若男女に愛される旅行先といえば、鎌倉。いつの時代も、変わらない姿で迎えてくれる美しい古都には、悠久の時が流れているかのようです。折しも、12月には、主人公が時空を超えて活躍する冒険ファンタジー映画「DESTINY 鎌倉ものがたり」が公開されます。ますます気になり、晩秋の鎌倉へと出かけました。
いにしえの風景が息づく古刹を散策
鎌倉と聞いてまず思い浮かべるのは、鎌倉大仏。名刹・高徳院のご本尊です。その堂々とした気高い姿はあまりにも有名ですが、詳しくは知らないという人も多いのではないのでしょうか。私も鎌倉を訪れるたびに拝観していますが、知っていることといえば、大仏様は国宝の阿弥陀如来像であること、13世紀半ばに造立されたことぐらいでした。

この旅であらためて知ったのは、造立された頃のユニークな時代背景。当時は、旧来の古い考えに代わって、新しい価値観が求められていたと言われています。それまでは、庶民には教義が難解で、貴族のため仏教でしたが、若い僧侶を中心に分かりやすく説かれ、武士階級や一般庶民にも浸透していきました。奈良の大仏が国の発案で造られたのに対し、鎌倉大仏は民衆から少しずつ浄財を集めて造立されたといいます。はるか遠い鎌倉時代の人たちに思いを馳せながら拝観するのも、旅の醍醐味と言えるでしょう。
さて、鎌倉散策で必ずといっていいほど利用するのが、江ノ電(江ノ島電鉄)。4両編成の電車や小さな駅舎が、古都の風景にしっくりとなじんでいます。なかでも、鎌倉駅から4駅目の極楽寺駅は、木造の駅舎がレトロでかわいらしい! この駅に降り立つと一瞬、昭和にタイムトリップしたかのような気分になります。

極楽寺駅から近い桜橋という赤い陸橋の下に見えるのは、江ノ電唯一のトンネル「極楽洞」。レンガ造りの坑門が風情を醸し出すこのトンネルは、1907年(明治40年)に造られました。駅舎といい、陸橋といい、トンネルといい、極楽寺周辺には写真を思わず撮りたくなるような風景がたくさん。
陸橋を渡ったところには、1259年に創建された極楽寺があります。小さな茅葺きの山門をくぐると、「これぞ古刹」といった静かで落ち着いた雰囲気の境内がありました。立派なサルスベリの木が立つ庭の向こうには山が見えて、いにしえを感じさせる鎌倉らしい風景。人間が妖怪や神様と共存する、不思議な世界を描いた「DESTINY 鎌倉ものがたり」も、こんな風景から生まれたのかもしれません。
散策の後は、おいしい和スイーツでほっこり
極楽寺駅から江ノ電に乗って向かったのは、鎌倉駅の一つ手前の和田塚駅。ここで下車した目的は、手作りの和スイーツです。駅のすぐ目の前にある「甘味処 無心庵」は、ていねいに手作りする餡を使った甘味が愛される名店。古民家を改装した店内も心地よく、鎌倉に流れるゆるやかな時間とともに甘味を味わうことができます。

北海道産の赤えんどう豆を1晩から2晩、じっくりと水にさらして煮込んだ餡は、しつこくない上品な甘さ。クリームあんみつ(800円)、あんころ餅(850円)、豆かん(600円)など、どれも「手作りって、手間がをかけた分、おいしいんだなあ」と実感する一品です。

庭を眺める縁側の席に座って味わっていると、時おり、ガトゴトと通り過ぎる江ノ電の音が聞こえて、ほっこりとした気分に包まれました。