「おまいさん、心で泣いておろう」人情派猫、遠藤平蔵
「泣くごはいねがー」と夜の街をパトロールし、傷ついた人にそっと寄り添う。そんな野良猫・遠藤平蔵が主人公の8コマ漫画「夜廻り猫」がツイッター発で広がり、「泣ける」と話題になっています。描いたのは、「カンナさーん!」や「ハガネの女」など、テレビドラマになった作品でも知られる人気漫画家の深谷かほるさん。息子のために描いたのがきっかけという、「夜廻り猫」の制作秘話を聞きました。
――「夜廻り猫」は、一見こわもての猫、遠藤平蔵が人の涙の匂いをかぎつけて、市井の人の悩みを聞く、8コマ完結の猫漫画。「笑うつもりがうっかり泣いてしまった」などツイッターには感動したとコメントがあふれています。単行本も累計17万部、「第21回 手塚治虫文化賞・短編賞」も受賞されました。
信じがたいほど、大変ありがたいことです。

――ドラマ「カンナさーん!」も人気でしたね。「夜廻り猫」とはまたタイプの違う漫画です。
そうなんですよ。「カンナさーん!」は、誰がモデルというわけではないのですが……。「夜廻り猫」は、数年前、当時高校生だった息子が入院したときに、描いたのがきっかけです。それを2015年10月からツイッターに投稿し、翌年の6月に単行本(KADOKAWA)になりました。
――息子さんの反応は?
「あ~いいんじゃない?」って軽い感じでした(笑)。体調も悪かったので、決して「わー!」みたいなノリではありませんでした。今は体調と向き合いながら生活しています。
――女手ひとつで子育てされたと聞きました。
息子の看病をしながら漫画を描いていました。過ぎてしまえば……当時はそう苦労とは感じなかったです。
大ヒットは糸井さんのおかげ
――ツイッターに読者からの反響がたくさん届いていますね。
漫画をアップして1分もたたないうちに感想を書き込んでくれる読者がいます。それに返事を書くこともありますし、感想を基に漫画を描くこともあります。

――糸井重里さんや女優の杏さんもファンだとか。
糸井さんは毎回リツイートしてくださって、そのたびに1000人ずつぐらいフォロワーさんが増えてびっくりしました。ありがたいです。糸井さんのおかげです。
――ツイッターだと誰でも無料で読めてしまいますよね。
ツイッターで読んでも、一冊にまとまったものを何度も読み返したいとおっしゃる方もいます。
――遠藤平蔵のキャラクターのモデルはいるのですか?
特にこの人というモデルはいないのですが、自分がお世話になってきたいろいろな人たちをこの猫に託して描いています。
――平蔵は悩みを聞くそぶりで、実はごはんが欲しくて近づいているだけだったりして、そこが猫っぽくてかわいいです。たまにちゃんと悩みに答えているときもありますけれど……。
答えやすいときには答えています(笑)。私は人の悩みには、二つの面があると思っています。ひとつは、悩みごとの内容そのもの、もうひとつは「こんな悩みを持つのは自分だけではないか」という孤独感です。謎の猫、遠藤平蔵がただ「うん、うん」と悩みを聞くことで、その孤独感からは解放されます。悩むこと事体はアリだと承認して、いくばくかは興味を持ってうなずくだけで、一部は解決すると思っています。
「涙の匂い」とは?
――平蔵は街を歩いて「涙の匂い」をかぎつけますが、「涙の匂い」ってどんな匂い?
匂いはないんですよね。ないところがポイントで、「それはなんだろう」と思っていただければありがたいです。正解はこれとはいえませんが、(平蔵が)悲しんでいる人とか頑張っている人の気配を感じるということでしょうか。
――平蔵に悩みを相談するとしたら、深谷先生は何を相談しますか?
思いやりってどうしたら出てくるかを聞いてみたいです。
――どう答えてくれるでしょう?
まじめに聞いてくれるとは思います(笑)。あとは、その場の雰囲気で。
――最近、平蔵の出番が少ないのではという声もありますが。
気をつけます(笑)。
猫って賢い
――飼い猫のマリちゃんは、どんな猫ですか?
マリは手のひらに載るくらいの大きさのときにもらったのですが、片目がつぶれている上にもう片方の目も濁っていて、動物病院に連れていったら、獣医師さんに「この子はそう長く生きられないよ」って言われたんです。でも、もうすぐ16歳になり、病気ひとつしないで元気に生きています。
――悩みに寄り添ってくれますか?
とりあえずは聞いてくれます(笑)。手伝ってくれるわけではありませんが、付き合ってくれます。そんなところも私は好きです。夜廻り猫に「重郎」という片目の猫が出てくるのですが、目が見えなくても元気に生きているマリがいたので、片目でもちゃんと生きていけるんだという確信を持って描くことができました。猫の賢さを感じます。
――ファン待望の新刊はいつ?
11月22日に3巻目が出ます。これを記念して、11月22日から12月5日まで、東京・日本橋三越で「『夜廻り猫』のクリスマス」というイベントをやる予定なので、それまでには。
――それは楽しみですね。最後にファンのみなさんにメッセージを。
1回か2回で終わる予定だった「夜廻り猫」がこんなに長く続くと思っていませんでした。どうもありがとうございます。
(聞き手・読売新聞メディア局・遠山留美)
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