「プロトコール」とは、国際社会の平和を目的として国同士が円滑に交流し、言葉や文化が異なる人々が心地よく過ごすための決まり事と前回お話ししました。大切な決まり事はいろいろありますが、中でもあいさつは人と人、国と国、心と心の懸け橋を作る入り口です。訪日外国人が増えている現在、あいさつやしぐさについて心がけておいてほしいことをお伝えします。
あいさつで大事なのは相手の目をしっかり見ること
日本人に多いしぐさに、「握手をしながら、おじぎをしてしまう」ことがあげられます。
日本人のおじぎの習慣は麗しいものですが、この習慣が深く身についていますと、握手のあいさつでも自然に頭を下げてしまいがちです。ですが、日本人の政治家などが外国の高官に握手をしながらおじぎをしている姿は、それだけで、立場が弱いと思われてしまうこともあるのです。
プロトコールでは、「bow(おじぎ)」は男性の最敬礼です。頭を下げてあいさつをするのは、お相手が王族や皇族などの高位者の場合だけで、これは頭を下げることが服従を意味した、昔のヨーロッパ王侯貴族の文化に由来します。
正しい姿勢で立ち、なごやかな笑顔でお相手の目を見て、自己紹介などのあいさつをし、右手で握手を交わします。目は心の表れとされ、目を見ることはお相手への好意や仕事への意欲を示します。目をそらすことは不快ややる気のなさを感じさせてしまい、失礼にあたりますので気をつけましょう。
2020年には平和の祭典である、東京オリンピック・パラリンピックが行われます。ロンドンオリンピックの2012年、エリザベス英女王が、北アイルランド自治政府のマクギネス副首相と歴史的な和解の握手をなさいました。世界中にこのシーンが配信されましたので、記憶にある方も多いかもしれません。「握手」というのは外交上、重要な意味を持つことがわかります。
プライベートシーンの握手は女性から男性へ
握手のときには、手を差し出す順序も大切です。プライベートシーンでは女性から男性へ握手を求めます。これはレディーファーストの精神です。男性が女性へ差し伸べるものではありません。ただし、ビジネスシーンではレディーファーストは適用しませんので、同等の立場であれば、同時に差し出すのが普通です。
握手は弱すぎても強すぎてもよくありません。しっかりと握ることが社交の基本です。弱すぎるとやる気がない、心がないなどと誤解されてしまいます。また、爪が長いと、しっかりと握手ができませんので、プロトコールではご法度です。手袋については、正式なアフタヌーンドレスでは装いの一部なので着用したままで結構ですが、防寒やファッションの手袋は上位者に対しては外します。
口元を手でかくして話したり、笑ったりしていませんか?
日本女性のしぐさの中に、「口元を手でかくしながら話したり笑ったりする」ことがあります。日本では奥ゆかしいしぐさですが、外国の方から見ると必ずしもそうではありません。
自己紹介などでもお見受けしますが、このしぐさは声がこもって聞きづらい上に、相手の方に心を閉ざしているのか、何か隠し事があるという印象を与えますので、やめましょう。会話の際に美しい口元を見せることもまた、現代のレディーのたしなみです。
このように、プロトコールを形式だけでなく、その精神や考え方から理解していくと、日常の人間関係を円滑におこなうための方法も具体的にわかり、自信をもって振る舞うことができるようになります。
大切なのは、あなたの「心」です。違いを理解し合い、お互いを思いやることができれば、プロトコールは「人生の上質な教養」となって世界中の方々とよりよい関係を築くことができるでしょう。
(取材/高谷治美)