三澤世奈 江戸切子の職人が新ブランドをつくって約束したこと

30代の挑戦

読売新聞夕刊「OTEKOMACHI」面の「30代の挑戦」コラムで紹介された、江戸切子職人の三澤世奈さん
吉川綾美撮影

ガラスに繊細なカットを施した江戸切子の美しさに魅了され、職人になった三澤世奈さん(31)は、2年前、自身の名を冠したブランドを設立した。「日常空間に心地良い切子」をテーマに、自分だけの切子の形を追い求め、日々、技を磨いている。

ブランド設立

幼い頃から、モノを作ることが好きでした。高校時代もネイルチップやデコ電(装飾した電話)をよく作っていました。江戸切子の職人になりたいと思ったのは、大学3年の頃、親方の堀口徹氏が手がけた大手化粧品メーカー「ポーラ」の美容クリームの器に一目ぼれをしたからでした。「なんて美しいんだろう」と感動し、ほかの分野の商品にもなれる切子の汎用はんよう性にも可能性を感じ、親方に「働きたい」と直談判しました。

当時は断られてしまい、私は別の業界に就職しましたが、どうしてもあきらめきれず、毎日ホームページの求人情報をチェックして、3年後、堀口切子に入社しました。

最初に親方に教わったのは、「観察力」です。江戸切子職人はガラスを削るカット職人なのですが、素材の吹きガラスを研削する技術の習得、上達には親方の作業を完全にコピーし、理解することが必要でした。教わる時間を少しでも確保するため、雑用は、勤務時間が終わった後にまとめてやっていました。きれいなガラスに触っているだけで毎日が楽しく、試用期間の3か月はあっという間に過ぎていきました。

江戸切子は、デザインや色の指定はなく、とても自由度の高いところが魅力です。趣味で吹きガラス制作を習い、好きな作品を作っていたのですが、親方からの提案で、2019年7月にブランド「SENA MISAWA」を設立しました。今までの切子にはない不透明な色合いや、すりガラスのようなマットな質感を取り入れています。自分の名前をブランド名にしたのは、自分が「心地良い」と感じる気持ちを共有したかったからです。

親方とは「必ず1人以上に自分の教わったことを伝える」と約束しています。自分の技術に自信がないので、弟、妹弟子に教えるのは難しく悩みますが、1人が1人にちゃんと伝えていけば、職人は減りません。

三澤世奈さんのブランドのぐい飲みやグラス

SNS活用

30代になり、自分の役割は組織作りとも思っています。オンラインショップの運営や広報、生産管理も重要です。これからの職人は、技術一辺倒ではなく、「伝える」ことも、ものづくりの一環だと思います。私は考えを整理し、わかりやすく伝えることが好きなので、積極的にSNSなどを活用し、江戸切子に興味を持つ人を増やしたい。自分の得意なこと、自分にしかできないことで、恩返しをしていきたいと思っています。

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【取材後記】「かわいい!」三澤さんが制作したぐい飲みを見せてもらった瞬間、思わず声が出た。江戸切子ではあまり見たことがない藤の花の色。カットの文様は伝統の菊花文で、「KIKKA」と名付けたそう。「WAPPA」「SHIPPŌ」……伝統と新しさを融合したデザインはどれもシンプルで洗練されている。

新しい品を一つ試作するのに、毎回スマートフォンで3000枚撮影していると聞いて驚いた。三澤さんは「単純にかわいいからです」とはにかんだが、一歩引いて様々な角度から見ることで、削る技術とともに、審美眼も磨いているのだと納得した。

取材後、一目ぼれした「KIKKA」がどうしてもほしくなった。安い買い物ではないので悩んだが、一緒に取材したカメラマンの吉川綾美さんとおそろいで購入。お気に入りの日本酒を注ぐと、キラキラ光り、特別感に胸が高鳴る。外に気軽に飲みに行けないご時世だが、家で幸せな気持ちにさせてくれた。(読売新聞文化部 川床弥生)

「30代の挑戦」は、各界で活躍する女性たちにキャリアの転機とどう向き合ったかを、読売新聞の30代の女性記者たちがインタビューする企画です。

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三澤 世奈(みさわ・せな)
江戸切子職人

1989年、前橋市出身。2014年、堀口切子に入社。19年に、制作・プロデュースするブランド「SENA MISAWA」を設立。通信販売サイト(https://senamisawa.shop/)。