吉田沙保里 目の前の目標…全力で向き合う

30代の挑戦

読売新聞夕刊「大手小町」面の「#30代の挑戦」で取材を受ける吉田沙保里さん
吉川綾美撮影

女子レスリングの五輪3大会で金メダルを獲得した吉田沙保里さん(38)は、現役引退後、日本テレビの朝の情報番組「ZIP!」で、週1回のパーソナリティーを務める。目の前の試合一つ一つを目標に努力を続けた選手時代と同じように、生放送に向き合っている。

生放送の重責

現役引退を表明したのは2019年1月。リオデジャネイロ五輪で銀に終わり、1年半後に迫った自国開催の五輪に出場したい思いはありましたが、「全てやりきった」という気持ちが大きかった。

次に何をするかは全く固まっていませんでした。3歳からレスリング一色で、パソコン作業など苦手なことばかり。声をかけてもらえるテレビ出演は、自分にできる数少ないことの一つかなと考えましたが、「ZIP!」から出演依頼があった時にはちゃんと話せるか不安になりました。約2時間の生放送で深刻なニュースもあり、責任は重い。

でも、スタッフの方々が「助ける」と言ってくれたので、引き受けることにしました。1人で戦うレスリングも、支えてくれる仲間がいて頑張ってこられた。新たな環境を前に緊張するのは、新入生や新入社員も同じ。誰もが経験する感情を味わいながらも、いろんなことに挑戦したかったので頑張ろうと決めました。

放送日は午前1~2時台に起きて、6時前からの本番に臨みます。練習方法が確立していた選手時代と違い、生放送は本番でしか経験できない。回を重ねてうまくなるしかありません。共演するアナウンサーは、時間が3秒余った時にとっさに埋める言葉を持っている。それがどうやって出てくるのか、観察しながら勉強しています。

出演した番組を見返すことはしません。カンペを読み間違えるなど、失敗したらその場で反省し、同じことを繰り返さない。選手の時も、自分の試合を見返すことはしていませんでした。

番組でも現役時代からの「霊長類最強」というキャッチコピーを使っています。でも、強いのはレスリングだけ。母にはずっと甘えてきました。

今の夢は結婚

今の夢は結婚です。頑張るだけではなかなか難しいですが。小さい時から、元選手の父と2人の兄、母と一緒に練習し、大会に遠征し、チームとしてレスリングに取り組んできました。明るい家族の存在は力の源でした。それに、保育士になりたかったほど子供好き。「沙保里ジュニア」の成長を見る人生を楽しみたい。

先のことはわかりません。目の前の目標を一つ一つ達成したら10年後がやってくる。毎試合を全力で向き合って勝った先に、五輪の金メダルがありました。「ZIP!」も、同じ姿勢で臨んでいきます。

◇ ◇ ◇

【取材後記】マットの上の吉田さんはとにかく強かった。五輪3連覇を決め、父・栄勝さんを軽々と肩車したロンドン大会、決勝で敗れ、涙で謝罪したリオデジャネイロ大会は特に印象的だ。

引退して2年あまり、最近は後輩と練習するたび、衰えを実感するそうだ。「人って弱っていくなって。体がだんだん、女性らしくなっています」

筋力は落ちても、生き方は変えない。生放送を支える多くの人に感謝することも、失敗しても落ち込まず、プラスに変えていくことも「レスリングでやってきたこと」という。「みんなに好かれるのは不可能。少しでも、元気になると思ってくれる人のために頑張りたい」と、SNSに書き込まれる批判を気にとめることもない。

明るく気さくでかわいらしい人柄はもう多くの人に知られている。その根底に、選手時代と変わらない内面の強さがあることを知った。(編成部 横井美帆)

「30代の挑戦」は、各界で活躍する女性たちにキャリアの転機とどう向き合ったかを、読売新聞の30代の女性記者たちがインタビューする企画です。

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吉田 沙保里(よしだ・さおり)

1982年、三重県生まれ。レスリング女子で2004年アテネ、08年北京、12年ロンドン五輪を3連覇。世界選手権は15年まで13連覇。19年4月から「ZIP!」パーソナリティー。今年4月からは木曜日に出演中。