星野早紀 タイでミシュラン一つ星店に…「先がないなら環境を変える」

30代の挑戦

(タナトーン・カンワンソンウォン撮影)

開店から4年で、仏レストラン格付け本「ミシュランガイド」の一つ星を獲得したバンコクのタイ料理店「80/20」。タイ人シェフの夫と切り盛りするパティシエの星野早紀さん(34)は、独創的なデザートを生み出している。快挙の裏には、カナダで外国人として重ねた苦労と、思い切った決断があった。

外国で職探し

新たな食材や調理法による革新的なタイ料理を提供しています。店名には「80%のタイ食材と、20%の海外食材」という意味を込めています。タイは、食材が豊富。外国人客も多く、「タイにはこんな食材もあるんだ」という驚きや感動と、日本など海外の文化も融合した新たな料理の世界を作りたいと思っています。

母が料理上手で、幼い頃から手作りパンやシフォンケーキを食べて育ちました。

高校で教育熱心なカナダ人教師から英語を習ったこともあり、カナダの大学に進学。受講した料理のクラスが楽しくて、トロントの料理専門学校に移り、本格的に製菓を学び、プロの道を目指すことにしたのです。

ところが、卒業後の職探しは難航。志望のレストランにはことごとく断られました。面接でもまず聞かれるのは、就労ビザの有無。実力不足もあったかもしれませんが、外国人が雇用されにくいのは明らかでした。

一つ星獲得

トロントでようやく採用されたフランス料理店に約2年間勤務しました。菓子作りだけでなく、接客や運営などを学びました。ただ、ポジションは上がらない。当然ですが、カナダではカナダ人が優先されることを痛感しました。

学生時代に出会い、当時交際相手だった夫も、同様の問題に直面していました。カナダにいても先はない。2人でタイか日本でレストランを開こうと決断。両国の物価などを検討した結果、2016年、バンコクに店を開きました。

店では、みそや魚醤ぎょしょうなどの発酵食品を研究するラボも設け、新しい味を追求しています。甘いだけのデザートは好きではないので、自由な発想でメニューを開発しています。最近の自信作は、カボチャのアイスクリーム。塩漬けにし、唐辛子を加えたアリの卵を添えました。東北タイのカボチャとアリの卵のカレーがヒントになりました。

こうした努力の結果、「ミシュランガイド バンコク2020」の一つ星をもらえたのは、うれしいの一言です。

努力が実らない時は、環境を変えてみる。経験を積み、30代で余裕が出たのか、なおさらそう感じます。

今年5月、妊娠が判明しました。初めての不安もありますが、「やると決めたらやり遂げる」が信条。後継パティシエも育ってきているので、仕事は任せてひと頑張りするつもりです。

◇ ◇ ◇

【取材後記】
取材を申し込んだ時は「つわりがひどい」と話していた星野さん。体調が気がかりだったが、取材当日は落ち着いた様子で笑顔もこぼれ、ホッとした。
タイに戦略的に移ったとはいえ、最初はやはり、日本ともカナダとも異なる文化に戸惑ったそうだ。特に気になったのが、時間感覚の違いだ。「持ち帰りのコーヒーを片手に遅刻してくるタイ人スタッフに対し、『コーヒーを買う時間はあったんだ…』といらだつこともあった」と明かす。
ただ、多くのスタッフと接するうちに、タイではこれが当たり前で、業務に支障がなければ問題ないと思い至った。今ではむしろ、「多少遅れても、きちんと出勤して頑張ってくれている」と、感謝の気持ちでいっぱいだそう。
自分と違う相手を理解し、受け入れる。そのしなやかな強さはきっと、子育てにも生かされるに違いない。安産を願う。
 (読売新聞社会部 大重真弓)

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星野 早紀(ほしの・さき)

1986年、愛知県一宮市生まれ。2005年にカナダに渡る。現地の大学と料理専門学校を卒業し、パティシエに。16年、タイのバンコクでレストラン「80/20」を開業。