故郷の町おこしに、ランジェリーのプロデュース――。お笑いタレントのバービーさん(36)は本業とは違う分野に次々チャレンジしている。その裏には、芸人のキャリアを築く中で、一人の女性としての自問自答があった。
芸人の道
芸人・バービーとして駆け抜けてきて、30歳を前にふと立ち止まりました。本名の笹森花菜が心の扉をノックして「私をもっと見て」と問いかけてきたんです。
20代は常に「芸人とは」を意識していました。放送作家志望で養成所に入ったものの、職員に声をかけられて、21歳で突如お笑いコースへ。考えたこともなかったので「芸人にならなくちゃ」と強く思うようになりました。当時は「私生活でも面白いことしてなんぼ」みたいな芸人道がありました。だから、男性芸人らとルームシェアしたり、給料をお酒につぎ込んだり。
飲み過ぎで体調を崩し、お酒の場から距離を置くと我に返りました。仕事は充実していても、私の中身はすっからかん。一生これでいいのか悩み、やりたいことに片っ端から手を出すようになりました。
故郷 元気に
一つは故郷である北海道栗山町の活性化です。上京して、田舎の魅力に気づきました。
5年ほど前、友達と町役場を訪ねて、PRの強化を力説。今は町のPR事業にかかわりながら、私自身、空き家を買い取って活動拠点を作るために改修しています。町にたくさんある空き家を都会の人たちに活用してもらい、町の人とも交流が生まれれば。多くの人にとって第二の故郷になるのが理想です。
もう一つが、ランジェリーの企画。アンダーバストが大きい私は下着が体に合わず、アザができることもありました。かわいくて満足できる下着がなかったのです。
下着メーカーの人を紹介してもらい、何度も会って関係を築きました。でも、提案は通らなかった。バービーの肩書は役に立たない。
あっという間に2、3年。途方に暮れていたときに、知り合いが教えてくれたのが、下着メーカーの「ピーチ・ジョン」。打ち合わせでは、デザイン画を見せて、「自分の体を好きになれる下着を」と訴えました。さらに2年以上かけて試作を繰り返し、今年2月、念願の製品を発売できました。アンダーバスト90のサイズも展開しています。

20代は「もてるか」「かわいく見えるか」といった、学生時代からのランク付けを引きずっていました。30代で解放されて、今は身軽な気分です。
これからも自由に生きていきたい。行き詰まる時も多いけれど、やりたいことを後回しにしない。それが同時に、ほかの誰かや社会にとってプラスになれば、うれしいです。
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【取材後記】すてきな私服姿で撮影場所に現れたバービーさん。「おろしたてなのにシミつけちゃった」と豪快に笑って場を和ませてくれた。
彼女が「バービーとしての自分」「笹森花菜としての自分」と表現して語ったのは、仕事と私生活のバランスについて。多くの女性に共通するテーマだ。
新しいことを始めるのは簡単ではない。バービーさんの場合も同じだ。空き家の活用では、所有権の整理がされないまま放置されている物件が多く、スムーズにいかない。ランジェリーのプロデュースでは、つてをたどるうちに怪しげな話もあったという。
ただ、そういった困難にもどんと受け止められるのは、人柄に加えて、「仕事」というフィールドが確立されているからだと感じた。必死に仕事を覚えた20代を経て、自分なりにペースが整えられるようになる。両立は難しいが、私生活で思い切ったことができるのは、30代の挑戦の強みなのかもしれない。(読売新聞社会部 大石由佳子)
「30代の挑戦」は、各界で活躍する女性たちにキャリアの転機とどう向き合ったかを、読売新聞の30代の女性記者たちがインタビューする企画です。
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