島本理生「最後の一手間 仕事で怠らない」

30代の挑戦

(写真・吉川綾美)

著書の映画・ドラマ化が相次ぎ、注目を集める作家の島本理生さん(36)。30代で直木賞を受賞する一方、小学生の子供を育てる母親でもある。精力的な執筆活動の裏には、人生の変化に対応するしなやかさと、新しいことに挑み続ける姿勢があった。

しがらみ解放

女性の30代は楽しい。「若い女性」というしがらみから解放され、一人の働く女性として見られるようになる。私は、それがうれしかった。

20代は目の前の仕事をこなすのに必死でした。経験が伴い、やっとやりたいことができるかもしれないと思ったのが30代。仕事に意欲的になりました。

17歳でデビューしたばかりの頃、担当編集者に「仕事は断らないように」と言われました。断ったら仕事は来なくなる。だから片っ端から仕事を受け、年齢を重ねて「一通りやった」という手応えを覚えました。

20代後半で出産しました。半年ほど育休を取り、生活が変わりました。身近なテーマだったのが、家庭と仕事の両立。「結婚した女の人は、家事に育児、仕事もして、ときめきもないまま一生過ごすのが当たり前」だと考えていましたが、実は大変なことなのではないかと気づきました。

育休中の声

また育休中に「島本理生の小説は昔すごく読んだ」という声をインターネットで見て、「読者の中ではそんなに時間がたったのだ」とショックを受けました。「今から売れないとだめだ」と決意を新たにしました。

そんな中で、子育て中の主婦を主人公にした『Red』を書きました。不倫がテーマの小説は若い頃は絶対に書かなかった。でも30代になり、「倫理観だけでは生きられない瞬間がある」と知りました。

子育てしながら働くのは時間のやりくりが大変です。数年前から仕事用に部屋を借り、仕事場を作りました。朝、子供を送り出し、1時間家事をしたら仕事場に行きます。子供は急に風邪をひくので原稿も早めに仕上げるようになりました。

仕事で大切にしているのは、「これでもいいか」と思った時に、立ち止まって考えること。経験を重ねたからこそ、最後の一手間を怠りそうになる時があります。

また、したことのない仕事を常に入れるようにしています。同じことを繰り返していると、小説に新鮮さがなくなるから。講演や作品のプロモーションの機会も増えたので、話し方や英会話も勉強しました。

20代の頃は将来に不安を感じていましたが、振り返ると、若くて何でもできた年代でした。40代になっても同じように思うかもしれない。だから今は、興味があること、楽しめることにどんどんチャレンジしたいと思います。

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【取材後記】30代になってうれしかったのは、仕事の面で若い女性という扱いをされることが減ったこと――。開口一番、そう言い切る姿にすがすがしさを感じた。誇りと責任を持ち、仕事に向き合い続けてきたのだろう。 一方20代を振り返り、「今考えると、対等に扱われていなかったと思うこともある」とも。遠慮したり自分を押さえたりしていたというが、「言いたいことを言える今は、楽で楽しくなった」。30代の女性にとって、励まされる言葉だ。 取材中、公私問わず様々なことに挑戦する姿勢に感心した。同世代の友人との「女子会」も大切にしているという。思えば直木賞受賞作「ファーストラヴ」は、自身のイメージを一変させるミステリータッチの小説として世間を驚かせた。これからも旺盛な好奇心で、新しい小説を世に送り出してほしい。(読売新聞文化部 佐伯美保)

島本 理生(しまもと・りお)
作家

1983年、東京都生まれ。17歳でデビュー。『ナラタージュ』『Red』など数多くの作品で、女性の内面を繊細な表現で描いてきた。2018年に『ファーストラヴ』で直木賞受賞。