時代を映す裸体の美、横浜美術館「NUDE」展

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 西洋美術でヌードがどう描かれてきたのかをひもとく国際巡回展「ヌード NUDE ―英国テート・コレクションより」が横浜美術館で開催中です。英国屈指の国立美術館、テートの所蔵作品など134点が並び、アートの世界、そして社会の中で女性・男性のカラダがどのように表現されてきたのかを探る意欲的な企画展。展覧会を監修したテート学芸員、エマ・チェンバーズさんに企画内容をメールで尋ねました。

生身の裸体は「不道徳」歴史画に託して描く

テート学芸員、エマ・チェンバーズさん

 ――西洋美術の裸体表現には、どのような伝統がありますか?

エマ・チェンバーズ氏 Image courtesy Auckland Art Gallery Toi o Tamaki

 19世紀前半まで、ヌードは歴史画の主要なテーマでした。歴史画は神話、聖書、文学を題材とし、裸体表現が唯一許されたジャンルでした。同時代の生身の裸体を描くことは不道徳だと考えられていたからです。

 19世紀後半になって、ピエール・ボナール、エドガー・ドガら、フランスの画家が日常生活に根ざした裸婦像を描くようになりました。彼らの絵は、鑑賞者に私的な空間をのぞき見たような感覚を与えました。

フレデリック・レイトン「プシュケの水浴」 1890年発表 Tate:Presented by the Trustees of the Chantrey Bequest 1890 image (c)Tate, London 2017
ピエール・ボナール「浴室」 1925年 Tate:Presented by Lord Ivor Spencer Churchill through the Contemporary Art Society 1930 image (c)Tate, London 2017

 20世紀に入ると、裸体表現の幅はさらに広がりました。シュルレアリスム(超現実主義)の芸術家は伝統的な手法を用いながらも、ヌードを意外な組み合わせで画面に配置するなどして無意識や夢の世界を表しました。一方、レアリスム(写実主義)の芸術家は肉体の質感や色を緻密ちみつに描写しました。

アンリ・マティス「布をまとう裸婦」1936年 Tate:Purchased 1959 image (c)Tate, London 2017

男性が一方的に描く裸に異議、多様性の時代のヌード

 ――その後の動向は?

 1970年代、裸体表現において劇的な転機が訪れました。男性が一方的に女性のヌードを描く伝統に異を唱えるかのように、男女両方の裸体が描かれるようになったのです。黒人男性や同性愛をテーマにした作品も制作されました。裸体表現が政治的主張の場となったともいえます。それ以後も、裸体という主題の探求は続いています。

デイヴィッド・ホックニー「23, 4歳のふたりの男子」C .P. カヴァフィスの14編の詩のための挿絵より 1966年 Tate:Purchased   1992 (c) David Hockney

 ――テートがヌードをテーマにした展覧会を企画したのはなぜですか?

 ヌードを通して西洋美術を語ることで、時代とともに芸術家たちの関心が移り変わってきたことが分かります。作品の背景にある、社会構造や身体についての観念の変化も浮き彫りにすることができます。

ルシアン・フロイド「布切れの側に佇む」 1988-89年 Tate: Purchased with assistance from the Art Fund, the Friends of the Tate Gallery and anonymous donors 1990 image (c) Tate, London 2017 (c)Lucian Freud Archive/ Bridgeman Images

 本展は主に19世紀後半から現代の作品を紹介し、官能美を追求した「エロティック・ヌード」についても考察します。日本初公開の作品も多く、テート・コレクションを知ってもらう絶好の機会になるでしょう。

 ――本展における象徴的な作品は?

 ロダンの「接吻」は中核を担います。テートの所蔵作品の中で最も愛されているものの一つです。

オーギュスト・ロダン「接吻」1901~04年 Purchased with assistance from the Art Fund and public contributions 1953 image (c)Tate, London 2017

 シンディ・シャーマンの「無題 #97」も重要な意味を持ちます。色々な人物に作家自身がふんする写真シリーズの一つで、ヌード写真撮影後にローブで体を覆ったモデルとして写っています。設定は女性の弱さを思わせますが、シャーマンが鑑賞者を挑戦的に見返すことで、客体化を拒む意思を伝えています。ヌードを鑑賞する側との力関係を、被写体が探るかのようです。80年代、ヌードに関する考え方の転換が起こったことを印象づけた作品です。

シンディ・シャーマン「無題 #97」1982年Tate:Purchased 1983 (c)Courtesy of the artist and Metro Pictures,New York

 展覧会をご覧になれば、すべての展示作品に美が宿り、多様な価値観を提示していると感じていただけると思います。

「ヌード NUDE ―英国テート・コレクションより」
 【会期】 6月24日(日)まで
 【会場】 横浜美術館(横浜市・みなとみらい)
 【開館時間】 午前10時~午後6時(入館は午後5時30分まで)
  ※ただし、5月11日(金)、6月8日(金)は午後8時30分まで(入館は午後8時まで)
 【休館日】 木曜日、5月7日(月)※ただし5月3日(木・祝)は開館
 【観覧料】 一般1600円、大学・専門学校生1200円、中学・高校生600円
 ※65歳以上1500円(要証明書、美術館券売所でのみ販売)、小学生以下無料
 【問い合わせ】 03・5777・8600(ハローダイヤル)
 【展覧会ホームページ】 https://artexhibition.jp/nude2018/
 【主催】 横浜美術館、読売新聞社、テート
 【協賛】 大日本印刷
 【協力】 日本航空、みなとみらい線、横浜ケーブルビジョン、FMヨコハマ、首都高速道路株式会社
 【後援】 ブリティッシュ・カウンシル、J‐WAVE
  
 *本展の趣旨から、多くの作品に裸体が描かれ、一部には強い刺激を含む作品もあります。展覧会の入場口前には図録を設置し、あらかじめ展示作品をご確認いただけます。