「だれも知らないレオ・レオーニ」展 硬派なアーティストの素顔に触れる

美術展ナビ

レオ・レオーニ(本展のポスターから)
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「スイミー」や「あおくんときいろちゃん」「フレデリック」などの絵本で知られ、日本でも高い人気を誇るレオ・レオーニ(1910-99)。企業広告の分野で大きな成功を収めたアートディレクター・グラフィックデザイナーであり、平和や人権などの社会問題に強い関心を持ち続けた気骨のアーティストでもありました。「だれも知らないレオ・レオーニ」展は、「ルネサンス的」とも評されたスケールの大きなその生涯を、今回初公開の作品や豊富な資料で振り返る充実の内容です。存命中の96年に日本国内初の回顧展を開催して以来、本人や遺族と深い信頼関係で結ばれてきた同館ならではの展覧会といえるでしょう。

アートに囲まれた生い立ち、NYの成功

レオーニは、オランダ・アムステルダムの生まれ。オペラ歌手の母とユダヤ系の公認会計士の父のもとで育ちました。シャガールの油絵が廊下に飾られているような芸術的に恵まれた環境で、幼少期からアーティストを目指しました。

イタリアの前衛芸術運動に関わるなどしたのち、ミラノで広告企業のデザインに携わり、注目されはじめます。しかし、折からのファシズムの勢いはとどまるところを知らず、人種差別法が制定されるなどして身の危険を感じたレオーニは家族とともに1939年、アメリカに亡命。そして戦後、ニューヨークでその才能は大きく開花します。

アートディレクターとして雑誌「Fortune」に関わり、同誌は有力なビジネス媒体に成長。また、タイプライターや計算機の分野で世界的な大企業だったオリヴェッティ、三大ネットワークのCBS、 MoMA(ニューヨーク近代美術館)などの優良クライアントを抱え、ロックフェラーセンターの最上階にオフィスを構えました。当時の制作物は時代を感じさせません。そのセンスのえに目を見張ります。

CBS放送雑誌広告「どうしてこんなにラジオを聞くのだろうか」 1949年/Works by Leo Lionni, On Loan By The Lionni Family
左・オリヴェッティ 商品(タイプライター・レッテラ22)広告、1954年/Works by Leo Lionni, On Loan By The Lionni Family。右・ニューヨーク近代美術館 30周年記念展覧会図録再版告知ポスター、1959年/Works by Leo Lionni, On Loan By The Lionni Family

社会への鋭いまなざし

レオーニは時代の寵児ちょうじでしたが、社会との関係には緊張感がありました。欧州で暮らしているころ共産主義に傾倒し、アメリカでも左派の政治活動に積極的に関わったため、「赤狩り」に巻き込まれました。FBIの尾行をうけ、雇い主の出版社社長に、あのマッカーシーから解雇するよう圧力がかかったこともあります。

本展に際して、キュレーションにあたった松岡希代子館長代理らが2017年春、遺族の許可を得てイタリア・トスカーナの自宅に保管されていた未整理の資料を調査。すると、今まで存在が知られていなかった風刺画が多数、見つかり、公開に結び付きました。今回の出品作の中でも、特に注目されるべきものでしょう。

「人種問題」は、人種差別への憤りもあらわな一枚。現代のBLM(Black Lives Matter)運動も容易に連想されます。創作されたのは1940年代中ごろと推定。ローザ・パークスやキング牧師がクローズアップされ、アメリカで公民権運動が大きな盛り上がりをみせる50年代より前に、レオーニは黒人の人権について強い問題意識を持っていたことが分かります。

政治風刺 「人種問題」 1940年代中頃/Works by Leo Lionni, On Loan By The Lionni Family

「スザンナと長老たち」は、弱者に対する権力者の暴力を告発した旧約聖書の画題。情欲にかられて女性をのぞき見する男たちが描かれています。レオーニはこのアイデアを「Fortune」でも使い、女性の購買心理を研究するリサーチ記事の挿絵にしていました。消費者の嗜好しこうを盗み見するような、マーケティングリサーチに対する批判的な視線が感じられます。

政治風刺 「スザンナと長老たち」 1945年/Works by Leo Lionni, On Loan By The Lionni Family

ひと目でヒトラーとわかる、その風貌。激しい怒りをたたきつけたような一枚は「空気の抜けたヒトラー」。筆を運びながら、どんな思いがレオーニの胸に去来したのでしょうか。

政治風刺 「空気の抜けたヒトラー」 1945年頃/Works by Leo Lionni, On Loan By The Lionni Family

転機となった「未完成の仕事」

軋轢あつれきはありつつも、広告デザインの世界で大きな成功を収めたレオーニに、転機となる「事件」が起きます。58年、ベルギーのブリュッセルで戦後初の万国博覧会が開催されました。アメリカはメインの大規模パビリオンとは別に、「Unfinished Business」(未完成の仕事)という国内の様々な問題を取り上げる小さなパビリオンも出展。レオーニは、アートディレクターとして深くかかわりました。会場には「望まれる未来」として、肌の色も様々な7人の子供たちが、手をつないでマザーグースのひとつの「Ring-a-Ring-o’Roses」を歌う様子を捉えた写真が飾られました。

問題となった「Ring-a-Ring-o’ Roses」の写真

ほほえましい写真にしか見えないが、これをアメリカ南部の一部議員が問題視。人種の異なる子どもたちが一緒に遊んでいる様子が、「望ましい未来」とされたことに違和感が表明されたのです。パビリオンは結局、閉鎖されてしまいました。

翌59年、レオーニは初めての絵本となる「あおくんときいろちゃん」を出版。世界的なベストセラーになりました。レオーニは徐々に広告の世界を離れ、イタリアに拠点を移し、創作活動に専念していきます。

レオーニの孫娘で、「あおくんときいろちゃん」の物語を祖父から最初に聞かされたアニー・レオーニ氏が最近、このパビリオンの写真を見る機会がありました。アニー氏は「あおくんときいろちゃん」の一場面が、この写真に酷似していることに気づきました。

問題となった写真に酷似した絵本の一場面

アニー氏は「未完成の仕事」とされたものが、「あおくんときいろちゃん」で完成したのではないか、という見方をエッセーで披露しています。素朴なちぎり絵から紡がれる、あの愛情あふれる物語が、深いところで政治的な問題とつながっていたのかもしれません。

アーティストとしての使命

同展では「スイミー」や「フレデリック」などの人気作の原画、油彩画、立体作品なども豊富に展示され、グッズも充実しています。

左・「スイミー」 1963年/Swimmy (c) 1963 by Leo Lionni, renewed 1991/Pantheon On Loan By The Slovak National Gallery。右・「フレデリック」 1967年/Frederick (c) 1967,renewed 1995 by Leo Lionni/Pantheon Works by Leo Lionni, On Loan By The Lionni Family

生前のレオーニを知り、今回の展覧会を企画した松岡館長代理はベストセラーの主役のスイミーを例にあげ、こう話します。

「ひとりだけ色が違って、想像力と意思を持って自分の判断で動き、ほかの人が考えないことをやり遂げる。つまりスイミーはアーティストだった。彼はアーティストとしての使命を果たすために創作を続けたのでしょう」

「プロジェクト:幻想の庭」 1978年/Works by Leo Lionni, On Loan By The Lionni Family。展覧会終了後、同美術館に寄贈されることになっている

開幕以来、来館者の滞在時間が思った以上に長く、じっくり作品と向き合う人が多いといいます。社会が分断され、混迷を深める時代だからこそ、改めてその業績を振り返る価値のあるアーティストなのでしょう。

(読売新聞東京本社事業局専門委員 岡部匡志)

「だれも知らないレオ・レオーニ」展

板橋区立美術館

会期 ~2021年1月11日(月・祝)
開館時間 午前9時30分~午後5時(入館は午後4時30分まで)
休館日 月曜日・年末年始(12月28日~1月4日)ただし11月23日、1月11日は祝日のため開館し、11月24日は休館
観覧料 一般650円、高校・大学生450円、小・中学生200円(土曜日は小中高校生は無料で観覧できる)
※入場にあたっては、オンラインでの日時予約が必要です。予約が定員に達していない場合は予約なしでも入場可能です。
公式サイト

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