日本の現代文化を代表するマンガ、アニメ、ゲーム、特撮がいかに東京を描き、東京はそれをどう受容してきたのか。これをテーマに90を超える作品の原画や映像を集めた大規模展で、2018年にパリで開催され、好評を博した「MANGA⇔TOKYO」展の凱旋展示でもあります。
会場に入ってまず目に飛び込んでくるのが、1000分の1の縮尺で東京都心を再現した巨大な都市模型です。タテ22メートル、ヨコ17メートルとプール並みの大きさで、都庁などの高層ビルや高速道路、東京タワー、スカイツリーなどがすぐそれと分かります。背後の大型スクリーンには「シン・ゴジラ」「AKIRA」「ラブライブ!」「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序」「グランツーリスモ6」「秒速5センチメートル」などのアニメや映画、ゲームで、東京を舞台にした印象的な場面が次々に映し出されます。東京という街が、いかに多くのコンテンツを生み出す原動力になってきたのかを感じさせる導入です。

この巨大模型を取り囲む形で、おなじみの作品の原画や映像が展示されており、「破壊と復興の反復」「東京の日常」「キャラクターvs.都市」の三つのセクションに分けられています。
セクション1:破壊と復興の反復
「AKIRA」や「ゴジラ」、「エヴァンゲリオン」シリーズなどを展示。これらの作品に代表されるように、東京はフィクションの世界で数えきれないほど破壊され、また復興し、そのダイナミックなストーリーにファンは熱狂してきました。現実でも悲惨な震災や戦災に見舞われ、立ち直ってきた歴史を持つ東京。今、災害の頻発する列島に住む我々にとって、こうした破滅と再生のストーリーは一層強いリアリティーを持っています。

セクション2A:東京の日常Ⅰ プレ東京としての江戸
ここでは、「さくらん」「百日紅」などを紹介しています。明治以降、伝統的な街並みをほとんど失い、再現なくスクラップ&ビルドを繰り返した東京。マンガやアニメ、映画で描かれる想像上の「江戸」の姿は、繰り返し愛好されるうちに現実の街と二重写しになり、街の歴史に深みを与えました。この時代に生まれた浮世絵を抜きに、現代日本のマンガやアニメの隆盛を考えることはできません。
セクション2B:東京の日常Ⅱ 近代化の幕開けからポストモダン都市まで
女性の社会進出が始まった大正時代に、「はいからさん」としてたくましく生きた紅緒。シベリア出兵、メディア(出版社)の発展、関東大震災など日本と東京の激動の歩みも彼女の運命を大きく左右しました。

連載スタートが1968年の古典にもかかわらず、いまだに鮮烈な印象を残す矢吹丈。ボクシングシーンのすばらしさにとどまらず、ドヤ街や富裕層の暮らしなど、高度経済成長期を迎えた東京の赤裸々な姿も描かれています。

セクション2C:東京の日常Ⅲ 世紀末から現代まで
90年代以降の経済の失速に伴って、貧困や暴力、閉塞感といったネガティブなテーマを取り上げる作品が増えていきました。スペクタクルや力強さより、日常の何気ない光景や、ふだんの暮らしにフォーカスする傾向も目立ちます。
セクション3:キャラクターvs.都市
フィクションのキャラクターが現実の東京に現れ、リアルの街を変容させていくことも珍しくありません。主客が入れ替わり、互いに影響しあう。これこそ東京の街ならではの現象なのでしょう。
街に欠かせないコンビニ。そこはソフトの主要販路であり、豊富なキャラクター商品を備え、キャンペーンとなれば店内のあらゆる空間をキャラクターが埋め尽くす。フィクションに浸食される現実、の典型でしょう。
「ラブライブ!」に登場した神田明神。その大祭のポスターにキャラクターたちがずらり。現実とフィクションの境界はそこにはもうありません。

すっかり日常用語として定着した「聖地巡礼」の名所マップ。巡礼者にとってはフィクションの世界への旅路ですが、経済効果にとどまらず、実際の場所のイメージが作品の記憶によって上書きされていく、という現実への作用も働きます。

東京ほど多面的に描写された街がかつてあったのだろうか……、と改めて驚く内容です。時代も虚実も軽々と飛び越えるマンガやアニメ、ゲームや特撮という表現形態の豊かさも実感しました。現実と仮想の東京の境界があいまいになる中で、新しい街が生み出されている、という視点は新鮮で、街を見る目が変わった気がします。
(読売新聞東京本社事業局専門委員 岡部匡志)
MANGA都市TOKYO
ニッポンのマンガ・アニメ・ゲーム・特撮2020
会場:国立新美術館 企画展示室1E(東京・六本木)
開催期間:2020年8月12日(水)~11月3日(火・祝)
休館日:毎週火曜日(ただし、9月22日、11月3日は開館。9月23日(水)は休館)